もう我慢しなくて良いですか?

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第一部

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家に帰宅後、枢機卿に呼び出しを受けたメリシャは荷解きを終えて、ルーとネリを連れて大部屋へ向かう。
未だに掃除を使用人のように行う神官達へ挨拶を告げながら入室した部屋では、慣れない仕事をしている枢機卿がいた。

「お養父とう様、参りました。」

「あっ、すみません。メリシャ様、もうすぐ終えますので!」

枢機卿は動揺を隠せず、書類の決済を急ぎ始める。先程まで眼鏡を掛けて静かに読んでいた筈が、書かれた文字を見もせず読みもせず判を押していく。それを眺めながら、しっかり目を通さない姿から見直しが必要だろうと密かに内心で呟いたメリシャでだった。

何十分と掛からず、書類を決済済みの箱に入れ終えた枢機卿が素早く向かいの席に座る。何度か咳払いをして声を調整する。

「メリシャ様。学園は楽しまれておりますか?」

「今のところ、毎日を楽しんでいますわ。令嬢方の言葉にも慣れてきましたし。」

「何か問題があれば、おっしゃってくださいませ。御力になれる事なら、何でも対処しますので。」

「では、お養父様。また口調が戻っていますよ?特に、ここに居る間はそうすると決めたでしょうに。」

「申し訳…いえ、ありがとう。メリシャ。」

ハッと思い至った枢機卿は、二度三度深呼吸を行なってから言い直す。
その様子を扉の隙間越しに眺めていた神官たちは温かく見守り、そっと静かに扉を閉めて密かにその場を離れていった。
その一方で、メリシャの膝から降りた小型犬サイズのルーは枢機卿の足下へと向かう。

『(情け無いな。メリシャ様のお手を煩わせるとは…。)ふん!』

座ったことで微かに裾から見える足首へと、爪を少し出した脚で引っ掻いた。
枢機卿は突然のことに動揺を見せるが、メリシャの前だからか、それとも相手が聖獣だからか、顔に出さずメリシャと語らい合う。

引っ掻いた傷痕を癒し、痛みだけを残した状態で、そっとメリシャの足下へと歩み寄る。
そんなルーに呆れた目線を向けるネリは肩から降りて、元々ルーがいたメリシャの膝上で横になった。
戻るはずだった休憩所を奪われたルーは床で寝転がることを選ぶしかなかった。
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