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1- 3.さらば我が臣下、さらば我が世界

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 トールは外界への降臨する部屋を退出し、赤い絨毯が敷かれた長い廊下を歩いていた。さらにトールが通って行くにつれ、最初に世界を管理する際に召喚していた聖獣や悪魔が、自身の主人であるトールの背後に続いていた。始めはトールも止めていたのだが、流石に最期くらいは許そうと廊下を歩く。歩けば歩くほど、続く召喚獣は増えて行く。
 そうして歩くこと数刻、目的の部屋へ着く。その部屋の扉前にも、召喚獣が列を成して、平伏している。トールは召喚獣達に苦笑しながら、扉を開いた。その部屋には数多の開発した魔法や、外界で起きた事を記した書物が並んでいた。そして中央には複雑な記号や陣が描かれた魔法陣があり、そこだけ埃が付かず汚れずにある。この魔法陣にはトールがデシム達に仕事を押し付けてから、編み出し続け、一度の作動で消えるように作った物であった。

「…この魔法陣を使う時が来ようとはな。儂も罪なことをしたのう、まさか…神託せずに放置して神殿が無くなっておったとは。」

 一番の問題はデシムに外界の状況を知る事ができる権限そのものを創造の際に譲渡していた為、トールは臣下に任せてから外界の状況を何一つ知らなかった…いや、知れなかった。そもそもデシムには創造神のできる権限以外は、ほとんどデシムや臣下には許可無く譲渡していたので、その臣下が死ななければ譲渡の変更ができない。また全ての権限をデシムに譲渡したため、今できることも少ない。

「(デシム、上手くやってくれると良いのだが…。まぁ今更だしの、…この世界で儂のできることは無い。)さて、フェン!こっちにおいで…」
「ウォン!」
「もう別れは済んだのか?ここには二度と戻って来れんのだぞ。大丈夫か?」
「ウォン!」
「よしよし、では参ろうか。」

 フェンとはトールが最初に召喚して使役したフェンリルであり、この神界では召喚獣のまとめ役を担っていた。勿論、トールは他の召喚獣も連れて行こうとしたが、フェンだけとかたくなだったので強制しなかった!
 フェンを連れて魔法陣に入り、膨大な魔力を流し込む。魔法陣の中心から赤く輝き、端まで輝くとトールは白い杖を取り出し、叫んだ。

「『我を外へ導き出せ!』」

「「「………。」」」

 魔法陣が弾け、周囲にあった書物の塔が崩れる。そこに残された召喚獣達は、デシム達が辿り着くまでこうべを下げ続けるのであった!
 そして召喚獣達はフェンからリーダーとして、最後の命令を既に下されていた。それは、『主人あるじが追い込まれた元凶を見つけ、判断は任せる』という命令を。ある意味、召喚獣も主人に似るものであった。


 トールは魔法陣からの輝きが消えたことを確認して目を開くと、そこは平原であった!平原の先を見渡すと、遠くに街のような建物があった。側にはフェンがウルフの大きさで佇み、白髭を生やした老人(トール)がいる。トールは身の回りを確認すると、流石に髭が地面に付き、茶色く染まっている。左右には森林が広がっており、地面は人の手が加えられたであろう道がある。
 トールは人間がいる事に安堵し、フェンは周囲の森林から殺気が漂っている事に警戒している。そんな時、フェンに質問を投げてきた!

「フェンよ、魔法陣の転移は一応成功したようだ。だが、ここが儂の創った世界でないと良いがな。ところで儂のような老いぼれが急に街に行ったら、怪しまれそうなのだが、どうしたものかのう?」
主人あるじ様、流石に怪しまれるでしょうね。姿を変えるなら、青少年あたりで良いのでは?』
「おお、そうか!では変えてみようか。ええと、ここで魔法は使えるかのう?」

「『青年になれ!』」

「…魔法は使えるようだのう。良かった、良かった!ほほほ…。」
『主人様…青年と申しましたが、その姿で本当に良いので?』
「何、見た目では10歳後半といった感じで年が経つにつれて、ゆっくり老いていくようにしたわい!」
『はぁ。青少年に成ったのでしたら、その言葉も直してくださいね!』
「フェンは堅いのう。その場でボロが出なければ良いのじゃ、さぁ行くぞ?」
『(絶対分かってない、でも主人様と共に入れることは嬉しい…と思える。)ふふ…』
「ん、なんじゃ?」
『いえ、なんでもないですよ?ところで周りから殺気を感じるのですが、放っておくので………』
「………。」
『ちょっと!そっちは森林ですよ、主人様~』
「お前も、その呼び名を止めよ。もう主従の意味も無いのだし。」
『では、トール様と!』
「何でも良い。それと、いい加減念話を止めような?普通に話せるだろう、話せるよな?」
「フェンリルって、普通喋れるのでしょうか?」
「知らん!まぁ知性は高いのだろうし、できるのでは無いか?てか、お前が話せているだろうが!」
「痛いですよ、トール様~。」

 そんな会話をしながら、じゃれ合うトールとフェン。拓けた場所に出て来ると、亀のような大きな魔物が居た。
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