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第一章 記憶喪失の男
5 依頼拒否
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◇◇
街の門を潜ると露店や通りを行き交う人々で賑わっている。
男は俺と一緒だ。流石に人街でグンギは連れて歩けないので山で待機して貰っている。子供達を隣り村へと送った鷹はずっと上空の方で俺に付いて来ているが、もし何かあれば自分の力のみでの対処となる。
こういう時に限って、大体何かが起こるのだ。
俺は隣で歩く男を横目で見る。彼は行き交う人々に視線を向けるがやはりあまり関心がないらしく、視線は無関心に滑っていく。今の所、彼が興味を示しているのは俺だけだ。それもほんの僅かな興味に留まるぐらいだが。
「傀儡師! 探したんだぞ。もっと見付けやすい場所にいろ」
声のする方を向くと古くからのお得意さんの使者数名が偉そうな態度で歩いてくる。
癪に障る声で一人の男が俺に何かを差し出す。真っ赤なシーリングワックスで封をした手紙だ。
「依頼だ」
その表情は軽蔑と面倒の感情で醜く歪み、強制的に仕事を押し付ける気満々だ。
「おい、傀儡師! さっさと任務を請けろ! こっちは忙しいんだ」
俺は足を止め、いつもの愛想笑いを引っ込める。そのイラつく態度に目が据わる。
「興味ない。礼儀すらもねぇ奴等から仕事を請けるほど暇じゃねぇんだよ。それに『任務』と言われても俺は彼の部下じゃねぇ」
使者の一人が拳を振り上げ、声を荒げる。口の動きと共に口ひげが上下する。
「ふざけるな! 傀儡師如きに拒否は許されるとでも思っているのか! 俺達の命令は依頼主の命令と同じだ! それにこれは至急執行されなきゃいけねぇ仕事なんだよ!」
――――急ぎの暗殺依頼か
冷たい瞳で彼らを見据える。低く、冷酷な声が出る。
「何度でも言う。興味ねぇ」
数人が同時に詰め寄り、俺と男を囲むように包囲をする。俺は足を止め、ポケットに入れていた手を出す。
「傀儡師、依頼主が誰なのか知っているだろう!」
「知っている。それでも興味ない。引き受けて欲しいのならばもっとマシな使者を送れ、と伝えとけ」
「ふざけるな! 請けなければ――――」
「請けなければ、何だ。俺を打ちのめすとでも? お前等が?」
一瞬、隣の男の冷たい瞳が不安そうに俺に注がれるが、表面的には無表情のままだ。俺が全く動じないのを見て少し安心したのか、視線を前に向ける。
その時だ。
使者の一人が男の顔を訝しげに見ていたが目を見開き、喉から変な音を出す。他の使者も男の顔に見覚えがあるのか、急に態度を変える。
「……そ、そんな……」
その声を合図に、使者達は慌てて後退りし、街の裏手へ一気に退散していく。
頭の中で危険信号が煩く鳴る。
まだ状況を理解していない感じの男の肩に腕を回し、素早く誘導するように足を早める。
――――……街を抜けきれるか⁉︎
「急げ!」
俺の切羽詰まった声に男は大人しく従う。胸騒ぎに急かされるようにすぐ山へと向かう。冷汗がこめかみに浮かぶ。
街を出るとすぐに闇の中から影が複数現れる。
――――くそ、遅かったか!
男は恐怖の混ざった視線で俺を見る。俺は彼の方を一瞬だけ見ると素早く彼を自分の後ろに隠す。それで少し安心したのだろう。男は周りの人間達を見回してから俺に委ねるように微かに身を寄せる。
「心配するな。拾ったんだ。俺が護ってやる」
俺はグンギとタッピーを呼び寄せながら襲撃者達を迎え撃つ体制に入る。
さっきの使者達とは違う者達だ。服装と持っている武器からして暗殺者六名、その内の一人は偵察だ。使者達とどこかで合流して急遽危険分子の俺達を消す事にしたのだろう。
――――俺ではなく、こいつが目的なのか
俺は背後に隠れている男をチラッと見る。
「ここから動くなよ」
俺は一歩前に出る。視線は暗殺者達から逸らさずに、無言で男を護りやすい位置へと誘導する。
彼は微かに肩を震わせながらも俺に従う。冷静な表情に変化はないが暗殺者に向けられた恐怖がその目にはっきりと映っている。
それでも俺の命令に無言で従い、無駄に騒がない。
――――いいのか悪いのか、トラウマ以前の生活で従順な癖がついたのだろうな。今は護りやすくって助かるが
街の門を潜ると露店や通りを行き交う人々で賑わっている。
男は俺と一緒だ。流石に人街でグンギは連れて歩けないので山で待機して貰っている。子供達を隣り村へと送った鷹はずっと上空の方で俺に付いて来ているが、もし何かあれば自分の力のみでの対処となる。
こういう時に限って、大体何かが起こるのだ。
俺は隣で歩く男を横目で見る。彼は行き交う人々に視線を向けるがやはりあまり関心がないらしく、視線は無関心に滑っていく。今の所、彼が興味を示しているのは俺だけだ。それもほんの僅かな興味に留まるぐらいだが。
「傀儡師! 探したんだぞ。もっと見付けやすい場所にいろ」
声のする方を向くと古くからのお得意さんの使者数名が偉そうな態度で歩いてくる。
癪に障る声で一人の男が俺に何かを差し出す。真っ赤なシーリングワックスで封をした手紙だ。
「依頼だ」
その表情は軽蔑と面倒の感情で醜く歪み、強制的に仕事を押し付ける気満々だ。
「おい、傀儡師! さっさと任務を請けろ! こっちは忙しいんだ」
俺は足を止め、いつもの愛想笑いを引っ込める。そのイラつく態度に目が据わる。
「興味ない。礼儀すらもねぇ奴等から仕事を請けるほど暇じゃねぇんだよ。それに『任務』と言われても俺は彼の部下じゃねぇ」
使者の一人が拳を振り上げ、声を荒げる。口の動きと共に口ひげが上下する。
「ふざけるな! 傀儡師如きに拒否は許されるとでも思っているのか! 俺達の命令は依頼主の命令と同じだ! それにこれは至急執行されなきゃいけねぇ仕事なんだよ!」
――――急ぎの暗殺依頼か
冷たい瞳で彼らを見据える。低く、冷酷な声が出る。
「何度でも言う。興味ねぇ」
数人が同時に詰め寄り、俺と男を囲むように包囲をする。俺は足を止め、ポケットに入れていた手を出す。
「傀儡師、依頼主が誰なのか知っているだろう!」
「知っている。それでも興味ない。引き受けて欲しいのならばもっとマシな使者を送れ、と伝えとけ」
「ふざけるな! 請けなければ――――」
「請けなければ、何だ。俺を打ちのめすとでも? お前等が?」
一瞬、隣の男の冷たい瞳が不安そうに俺に注がれるが、表面的には無表情のままだ。俺が全く動じないのを見て少し安心したのか、視線を前に向ける。
その時だ。
使者の一人が男の顔を訝しげに見ていたが目を見開き、喉から変な音を出す。他の使者も男の顔に見覚えがあるのか、急に態度を変える。
「……そ、そんな……」
その声を合図に、使者達は慌てて後退りし、街の裏手へ一気に退散していく。
頭の中で危険信号が煩く鳴る。
まだ状況を理解していない感じの男の肩に腕を回し、素早く誘導するように足を早める。
――――……街を抜けきれるか⁉︎
「急げ!」
俺の切羽詰まった声に男は大人しく従う。胸騒ぎに急かされるようにすぐ山へと向かう。冷汗がこめかみに浮かぶ。
街を出るとすぐに闇の中から影が複数現れる。
――――くそ、遅かったか!
男は恐怖の混ざった視線で俺を見る。俺は彼の方を一瞬だけ見ると素早く彼を自分の後ろに隠す。それで少し安心したのだろう。男は周りの人間達を見回してから俺に委ねるように微かに身を寄せる。
「心配するな。拾ったんだ。俺が護ってやる」
俺はグンギとタッピーを呼び寄せながら襲撃者達を迎え撃つ体制に入る。
さっきの使者達とは違う者達だ。服装と持っている武器からして暗殺者六名、その内の一人は偵察だ。使者達とどこかで合流して急遽危険分子の俺達を消す事にしたのだろう。
――――俺ではなく、こいつが目的なのか
俺は背後に隠れている男をチラッと見る。
「ここから動くなよ」
俺は一歩前に出る。視線は暗殺者達から逸らさずに、無言で男を護りやすい位置へと誘導する。
彼は微かに肩を震わせながらも俺に従う。冷静な表情に変化はないが暗殺者に向けられた恐怖がその目にはっきりと映っている。
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