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第一章 記憶喪失の男
6 依頼主
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すぐに戦いの幕が切って落とされる。
俺は飛び掛かってきた暗殺者に蹴りを入れる。素早く手を振って傀儡に望みを伝える。
近くに来たグンギが無言で長い腕を伸ばし、後ろの方にいた暗殺者の頭を掴む。唸りながら力強い腕でその背骨を逆に折る。
隣にいた暗殺者がグンギに斬りかかるが、グンギはすぐにそれをかい潜って暗殺者を力強く吹き飛ばす。
「この化け物め……!」
離れた所から矢が連続して飛んでくる。手を振って傀儡をその鋭利な凶器から遠ざける。
「ィィイイググァッァアア」
グンギはそのばねのような筋肉を生かして上半身を低く屈める。咆哮と共にその長い四肢を振り回し、襲撃者たちを蹴散らす。
男は無表情と無言を貫いている。だけど体の強張りが感じている恐怖を素直に表現している。
空から俺の鷹が急下降して暗殺者を傷付け、翻弄していく。その僅かに注意が反れる度にグールが怪力で、その牙で喉を切り裂く。
逃げようとした最後の暗殺者に短剣を投げる。綺麗に背中に刺さるが、念には念を入れる。俺は這いつくばった暗殺者を足で地面に貼り付け、一気に短刀を引き抜く。
そして再び突き刺す。
「ぎぃぃぃいい……っ!」
付近には静寂だけが残る。
「……私……は、……」
男は小さく漏らす。
俺は呼吸を整えながら背後の彼を見る。相変わらず無表情を保とうとしている。だが吐き出される息や指先の微かな震え、強張った肩が、間近で戦闘を見た恐怖を隠しきれていない。
――――いや……これは……。血を見て震えているわけじゃないな。戦いが何かを思い出すきっかけになったのか?
俺は無言のまま静かに男に近付き、腕を回して抱き寄せる。
全身、強張る。
「……おい、離せ!」
その小さな声を無視して男を更にきつく抱き寄せる。
「私は……君の傀儡じゃない……っ」
彼は一瞬拒むように震えるが、徐々に俺に体重を預ける。
微細な震えが少しずつ収まっていく。
彼は目を閉じて額を俺に軽く押し当て、静かに息を整える。彼のその手の震えが落ち着くまで、俺はただ無言で静かに待つ。
「ジーク……何故、私を助けてくれた?」
「今回はお前を拾った縁だとでも思え」
「……ありがとう」
初めての心からの感謝に目を細める。
風が吹き、山の静粛が二人を包む。
傀儡達は静かに影の中で息を潜めている。俺の動きを追っている。
やがて男の手の震えが完全に収まると、俺は腕を緩める。
「お前、抱き心地がいいな。このまま一発やらないか?」
男は僅かに俺から体を離し、顔を上げ、微妙に挑発を混ぜた目で俺を睨みつける。
「止めとけ。ご褒美をしてやらなきゃいけないんだろ? 立たなくなるぞ」
――――いい返しだ。少しは落ち着いたな
俺は無言で口元を上げる。
腕を解くと男は俺から離れる。無表情が少し崩れ、彼の視線は忙しなく動いている。
――――残念だ。更に押したいが今は逃げるのが先だ
俺は少し歩き出し、足を止め、男を振り返る。
「……で、俺と来るのか?」
質問は確認に過ぎず、強制ではない。だがもうお互いに答えは分かりきっている。
男は微かに目を伏せてから俺と目を合わせる。もう恐怖も動揺も表情には出さず、心の奥で必死に感情を押し殺しているのが分かる。肩の震えも呼吸の乱れも最小限に抑えている。
だが全てを無理矢理押し殺しているだけだ。感じていない訳ではない。
新しく思い出した記憶の断片は新たな痕跡になってしまっているみたいだ。
「……あぁ、行く」
声は淡々としているが、少しずつ俺に心を開いているのが滲む。
彼は少し距離を置いて後ろからついてくる。
――――先程の奴等は最初何人いた? 街で俺達を囲んだ以外にも、離れていた使者はいたか? 暗殺部隊が壊滅したと伝わるのは時間の問題だ。依頼主へ真っ直ぐ報告しに行ったとしたらどれぐらいかかる?
思考を巡らす。
――――……三日ほどか? つまり三日後には依頼主である王に俺の関与も伝わるって事だ
俺は無言で男をちらっと見る。
男の正体についてはいくつかの仮説が出来た。どれも先が暗い。そしてどれも血生臭くなりそうだ。傀儡でもない男の為のに、俺の大切な家族をこれ以上危険な目に合わせる訳にはいかねぇ。
――――俺のものになるかならないか、決めて貰うしかない。なれば何としてでも護る。ならなければ捨てて行く
俺も傀儡以外に心を許すつもりはない。どんなに興味が湧いても、気になる男でも、俺の傀儡でない者にこれ以上何かをする訳にはいかない。
――――だから、絶対に、お前には傀儡になって貰うぞ
男の伏せられた綺麗なエメラルドの瞳を眺めながら、俺は静かに目を細める。
俺は飛び掛かってきた暗殺者に蹴りを入れる。素早く手を振って傀儡に望みを伝える。
近くに来たグンギが無言で長い腕を伸ばし、後ろの方にいた暗殺者の頭を掴む。唸りながら力強い腕でその背骨を逆に折る。
隣にいた暗殺者がグンギに斬りかかるが、グンギはすぐにそれをかい潜って暗殺者を力強く吹き飛ばす。
「この化け物め……!」
離れた所から矢が連続して飛んでくる。手を振って傀儡をその鋭利な凶器から遠ざける。
「ィィイイググァッァアア」
グンギはそのばねのような筋肉を生かして上半身を低く屈める。咆哮と共にその長い四肢を振り回し、襲撃者たちを蹴散らす。
男は無表情と無言を貫いている。だけど体の強張りが感じている恐怖を素直に表現している。
空から俺の鷹が急下降して暗殺者を傷付け、翻弄していく。その僅かに注意が反れる度にグールが怪力で、その牙で喉を切り裂く。
逃げようとした最後の暗殺者に短剣を投げる。綺麗に背中に刺さるが、念には念を入れる。俺は這いつくばった暗殺者を足で地面に貼り付け、一気に短刀を引き抜く。
そして再び突き刺す。
「ぎぃぃぃいい……っ!」
付近には静寂だけが残る。
「……私……は、……」
男は小さく漏らす。
俺は呼吸を整えながら背後の彼を見る。相変わらず無表情を保とうとしている。だが吐き出される息や指先の微かな震え、強張った肩が、間近で戦闘を見た恐怖を隠しきれていない。
――――いや……これは……。血を見て震えているわけじゃないな。戦いが何かを思い出すきっかけになったのか?
俺は無言のまま静かに男に近付き、腕を回して抱き寄せる。
全身、強張る。
「……おい、離せ!」
その小さな声を無視して男を更にきつく抱き寄せる。
「私は……君の傀儡じゃない……っ」
彼は一瞬拒むように震えるが、徐々に俺に体重を預ける。
微細な震えが少しずつ収まっていく。
彼は目を閉じて額を俺に軽く押し当て、静かに息を整える。彼のその手の震えが落ち着くまで、俺はただ無言で静かに待つ。
「ジーク……何故、私を助けてくれた?」
「今回はお前を拾った縁だとでも思え」
「……ありがとう」
初めての心からの感謝に目を細める。
風が吹き、山の静粛が二人を包む。
傀儡達は静かに影の中で息を潜めている。俺の動きを追っている。
やがて男の手の震えが完全に収まると、俺は腕を緩める。
「お前、抱き心地がいいな。このまま一発やらないか?」
男は僅かに俺から体を離し、顔を上げ、微妙に挑発を混ぜた目で俺を睨みつける。
「止めとけ。ご褒美をしてやらなきゃいけないんだろ? 立たなくなるぞ」
――――いい返しだ。少しは落ち着いたな
俺は無言で口元を上げる。
腕を解くと男は俺から離れる。無表情が少し崩れ、彼の視線は忙しなく動いている。
――――残念だ。更に押したいが今は逃げるのが先だ
俺は少し歩き出し、足を止め、男を振り返る。
「……で、俺と来るのか?」
質問は確認に過ぎず、強制ではない。だがもうお互いに答えは分かりきっている。
男は微かに目を伏せてから俺と目を合わせる。もう恐怖も動揺も表情には出さず、心の奥で必死に感情を押し殺しているのが分かる。肩の震えも呼吸の乱れも最小限に抑えている。
だが全てを無理矢理押し殺しているだけだ。感じていない訳ではない。
新しく思い出した記憶の断片は新たな痕跡になってしまっているみたいだ。
「……あぁ、行く」
声は淡々としているが、少しずつ俺に心を開いているのが滲む。
彼は少し距離を置いて後ろからついてくる。
――――先程の奴等は最初何人いた? 街で俺達を囲んだ以外にも、離れていた使者はいたか? 暗殺部隊が壊滅したと伝わるのは時間の問題だ。依頼主へ真っ直ぐ報告しに行ったとしたらどれぐらいかかる?
思考を巡らす。
――――……三日ほどか? つまり三日後には依頼主である王に俺の関与も伝わるって事だ
俺は無言で男をちらっと見る。
男の正体についてはいくつかの仮説が出来た。どれも先が暗い。そしてどれも血生臭くなりそうだ。傀儡でもない男の為のに、俺の大切な家族をこれ以上危険な目に合わせる訳にはいかねぇ。
――――俺のものになるかならないか、決めて貰うしかない。なれば何としてでも護る。ならなければ捨てて行く
俺も傀儡以外に心を許すつもりはない。どんなに興味が湧いても、気になる男でも、俺の傀儡でない者にこれ以上何かをする訳にはいかない。
――――だから、絶対に、お前には傀儡になって貰うぞ
男の伏せられた綺麗なエメラルドの瞳を眺めながら、俺は静かに目を細める。
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