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第一章 記憶喪失の男
3 スタンピード被害の村
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◇◇
オークの大群が潰した村は悲惨な状態だ。
家という家は殆ど破砕されている。地面の柱から折られ、屋根が崩れ落ち、壁は粉砕している。中の私物も道中に散乱している。
そして至る所に遺体。人を引きずった跡も地面に刻まれている。
グンギは先程からそわそわしている。
「……ジーク様」
「あぁ、分かっている。こいつに見えない場所で喰ってこい」
隣の男が不審な表情で俺を見る。グンギは嬉しそうに横の瓦礫へと走って行く。
「お前は気にしなくっていい」
――――こんな育ちの良さそうなボンボンじゃグンギが遺体喰っているって知ったら卒倒しそうだな
フグォオガァアアアア
オークの遠吠えがする。前方を見ると斧と剣を持ったオークが三体瓦礫の後ろから出てくるところだ。
「おい、お前。邪魔になるからここら辺で動かずに待っとけ」
俺は荷物を落とすと一番近いオークに向かって走り出す。オークは俺に気付き、『新しい玩具がいる』と嬉しそうに顔を歪める。
掌を広げ、人差し指と中指を折り曲げる。すぐに俺の魔力に繋がっているグンギが反応をする。グンギはオークの真横から走り出て、長い腕でオークの足首を掴むと一気に引っ張り上げる。
グールの腕力は強い。しなやかな強さで手足は長い。そして俺はその長所を最大限にまで引っ張り出せる。今日はなるべくグンギの力量が知りたくって手をあまり出すつもりはない。
グンギは唸りながら腕を伸ばし、掌でオークの耳を強打する。
グゥゥゥウウアアァァ!
オークは悲鳴を上げながら両手で自分の頭部を護るようにして抱える。
そこを反対側から飛び上がった俺が首を剣で刺す。
グンギはもう次のオークに飛び着いている。だが上半身に張り付いたグンギの背中に別のオークが斧を振り落とす。
「グンギ! 避けろ!」
グンギは俺の声に反応をしてすぐにオークから飛び降りる。
ドスッ
オークの斧が張り付かれていたオークの背中に刺さる。刺さった一体は怒りの籠った眼を俺に向ける。
――――くそ、避けきれねぇ!
「タッピー!」
「ジーク様!」
グンギが下からオークの腕を蹴り上げる。それが生んだ数秒の隙間に猛烈なスピードで空から急下降した鷹がオークの腕に真っ直ぐに刺さる。
この隙に俺は急いで姿勢を立て直す。
グンギはそのまま斧を持ったオークの口に両腕を突っ込み、強引に引き裂く。
「イグゥァァッ!」
グンギはそのまま背中に傷を負ったオークの首を捻って倒す。
「ジーク様、怪我⁉︎」
「大丈夫。とてもいい動きだったな、グンギ。素晴らしい」
俺のグールは嬉しそうな顔をして目を潤ませる。奴は唇をチラッと舐める。何をして欲しいかは明白だ。だが流石の俺でも今さっきまで死体を食べていた口に舌を入れるのは躊躇する。
俺は奴の頭を撫でて体を離す。グンギは少し不満そうにするがすぐにまた食べに姿を消す。
先程から感じている小さな反応を追って崩れ落ちた廃墟へと入って行く。
カタ……ン
子供二人、身を寄せ合っている。何日隠れていたのだろうか。やつれた顔が恐怖の目で俺を見る。
俺は子供達の前に跪いて彼等を見る。彼等は色んな感情が入り混じった視線で俺を見上げる。恐怖、混乱、そして激しい悲しみ。
「親はまだ生きているか?」
兄なのだろうか、妹を庇う感じで僅かに頭を振る。
「……他に生きている人がいるか分かるか?」
再び、無言で小さく頭を横に振る。
俺は腕を真っ直ぐ横に伸ばすとすぐに鷹が俺の腕に止まる。兄妹は少しびっくりしたようにその鷹を見る。
「この子の名前はタッピーだ。格好いい鳥だろ。こんな可愛い顔をしているのにとても強い。オークにも怖がらずに勇敢に立ち向かうぐらい。君達を護ってくれる」
子達は俺の顔を見上げる。涙の痕が頬の汚れに何層もの筋を描いた跡がある。俺に促され、鷹の首を撫でる。タッピーは気持ち良さそうに目を閉じ、頭を揺らしながら喉を鳴らす。
「タッピーが一番近い村まで案内してくれる。そこでちゃんとした大人に面倒を見て貰え」
「……お兄さんは?」
男の子の頭を優しく撫でる。
「俺に子供の面倒は見られねぇよ」
タッピーは俺の腕から飛び立つと、子供達はゆっくり道沿いを歩いていく。何度か俺を振り返り、子供達は丘の向こうの方へと消えていく。
暫く彼等を見送っていると影が静かに俺の横に来る。
男を見ると初めて表情が少し変化している。とても微妙だが、男を半日見てきてやっと気付くような微妙な変化。それは少しばかりの興奮と尊敬に近い表情だ。
――――へぇ。子供に弱いのか、それとも闘いに興奮したのか
「こっち来い」
男は言われた通り俺に付いてくる。一軒の崩れた家に入ると俺は散らばった靴を漁る。男の足元をちらっと見と、やはり枝や小石で昨日よりも傷付いたように思う。
「サイズはどうだ?」
男は無言で靴を履こうとするがかなりきつそうだ。それから数足試して一番合う物にする。
「……助かる」
「辺境まではかなりの距離がある。靴ないとその柔らかそうな足裏が今以上に血だらけになる」
「……君は、確かに……強いな」
「ああ、俺は強い」
「あのモンスターはさっき初めて……その……人形にしたんだろ? あんなに強いって知っていて契約したのか?」
珍しく興味がある様子に少し意表を突かれながら答える。
「人形ではなく傀儡だ。潜在能力の強い弱いはそれなりに感知出来る。だがそれを最大限引き出せるかどうかは傀儡と傀儡師の繋がりの強さで左右される」
「……強くって……羨ましい……」
その小さな呟きは彼の本心なのだろう。俺はそれには何も言わず、他に生存者がいるかどうかを探し始める。
「傀儡は……人形とは違うのか? あのモンスターが怪我をしないように注意していたな」
「違う。俺の傀儡は意識を持たせたままだ。傀儡は俺の人形ではない。恋人であり、子であり、共に戦う味方であり、生きる理由だ。何よりも大切にする。他の傀儡師はどうだか知らねえけどな」
「……信頼しているんだな」
「俺が信じるのは自分と自分の傀儡だけだ。他人は信じねぇよ」
――――特に人間なんて浅ましい生き物は、な
オークの大群が潰した村は悲惨な状態だ。
家という家は殆ど破砕されている。地面の柱から折られ、屋根が崩れ落ち、壁は粉砕している。中の私物も道中に散乱している。
そして至る所に遺体。人を引きずった跡も地面に刻まれている。
グンギは先程からそわそわしている。
「……ジーク様」
「あぁ、分かっている。こいつに見えない場所で喰ってこい」
隣の男が不審な表情で俺を見る。グンギは嬉しそうに横の瓦礫へと走って行く。
「お前は気にしなくっていい」
――――こんな育ちの良さそうなボンボンじゃグンギが遺体喰っているって知ったら卒倒しそうだな
フグォオガァアアアア
オークの遠吠えがする。前方を見ると斧と剣を持ったオークが三体瓦礫の後ろから出てくるところだ。
「おい、お前。邪魔になるからここら辺で動かずに待っとけ」
俺は荷物を落とすと一番近いオークに向かって走り出す。オークは俺に気付き、『新しい玩具がいる』と嬉しそうに顔を歪める。
掌を広げ、人差し指と中指を折り曲げる。すぐに俺の魔力に繋がっているグンギが反応をする。グンギはオークの真横から走り出て、長い腕でオークの足首を掴むと一気に引っ張り上げる。
グールの腕力は強い。しなやかな強さで手足は長い。そして俺はその長所を最大限にまで引っ張り出せる。今日はなるべくグンギの力量が知りたくって手をあまり出すつもりはない。
グンギは唸りながら腕を伸ばし、掌でオークの耳を強打する。
グゥゥゥウウアアァァ!
オークは悲鳴を上げながら両手で自分の頭部を護るようにして抱える。
そこを反対側から飛び上がった俺が首を剣で刺す。
グンギはもう次のオークに飛び着いている。だが上半身に張り付いたグンギの背中に別のオークが斧を振り落とす。
「グンギ! 避けろ!」
グンギは俺の声に反応をしてすぐにオークから飛び降りる。
ドスッ
オークの斧が張り付かれていたオークの背中に刺さる。刺さった一体は怒りの籠った眼を俺に向ける。
――――くそ、避けきれねぇ!
「タッピー!」
「ジーク様!」
グンギが下からオークの腕を蹴り上げる。それが生んだ数秒の隙間に猛烈なスピードで空から急下降した鷹がオークの腕に真っ直ぐに刺さる。
この隙に俺は急いで姿勢を立て直す。
グンギはそのまま斧を持ったオークの口に両腕を突っ込み、強引に引き裂く。
「イグゥァァッ!」
グンギはそのまま背中に傷を負ったオークの首を捻って倒す。
「ジーク様、怪我⁉︎」
「大丈夫。とてもいい動きだったな、グンギ。素晴らしい」
俺のグールは嬉しそうな顔をして目を潤ませる。奴は唇をチラッと舐める。何をして欲しいかは明白だ。だが流石の俺でも今さっきまで死体を食べていた口に舌を入れるのは躊躇する。
俺は奴の頭を撫でて体を離す。グンギは少し不満そうにするがすぐにまた食べに姿を消す。
先程から感じている小さな反応を追って崩れ落ちた廃墟へと入って行く。
カタ……ン
子供二人、身を寄せ合っている。何日隠れていたのだろうか。やつれた顔が恐怖の目で俺を見る。
俺は子供達の前に跪いて彼等を見る。彼等は色んな感情が入り混じった視線で俺を見上げる。恐怖、混乱、そして激しい悲しみ。
「親はまだ生きているか?」
兄なのだろうか、妹を庇う感じで僅かに頭を振る。
「……他に生きている人がいるか分かるか?」
再び、無言で小さく頭を横に振る。
俺は腕を真っ直ぐ横に伸ばすとすぐに鷹が俺の腕に止まる。兄妹は少しびっくりしたようにその鷹を見る。
「この子の名前はタッピーだ。格好いい鳥だろ。こんな可愛い顔をしているのにとても強い。オークにも怖がらずに勇敢に立ち向かうぐらい。君達を護ってくれる」
子達は俺の顔を見上げる。涙の痕が頬の汚れに何層もの筋を描いた跡がある。俺に促され、鷹の首を撫でる。タッピーは気持ち良さそうに目を閉じ、頭を揺らしながら喉を鳴らす。
「タッピーが一番近い村まで案内してくれる。そこでちゃんとした大人に面倒を見て貰え」
「……お兄さんは?」
男の子の頭を優しく撫でる。
「俺に子供の面倒は見られねぇよ」
タッピーは俺の腕から飛び立つと、子供達はゆっくり道沿いを歩いていく。何度か俺を振り返り、子供達は丘の向こうの方へと消えていく。
暫く彼等を見送っていると影が静かに俺の横に来る。
男を見ると初めて表情が少し変化している。とても微妙だが、男を半日見てきてやっと気付くような微妙な変化。それは少しばかりの興奮と尊敬に近い表情だ。
――――へぇ。子供に弱いのか、それとも闘いに興奮したのか
「こっち来い」
男は言われた通り俺に付いてくる。一軒の崩れた家に入ると俺は散らばった靴を漁る。男の足元をちらっと見と、やはり枝や小石で昨日よりも傷付いたように思う。
「サイズはどうだ?」
男は無言で靴を履こうとするがかなりきつそうだ。それから数足試して一番合う物にする。
「……助かる」
「辺境まではかなりの距離がある。靴ないとその柔らかそうな足裏が今以上に血だらけになる」
「……君は、確かに……強いな」
「ああ、俺は強い」
「あのモンスターはさっき初めて……その……人形にしたんだろ? あんなに強いって知っていて契約したのか?」
珍しく興味がある様子に少し意表を突かれながら答える。
「人形ではなく傀儡だ。潜在能力の強い弱いはそれなりに感知出来る。だがそれを最大限引き出せるかどうかは傀儡と傀儡師の繋がりの強さで左右される」
「……強くって……羨ましい……」
その小さな呟きは彼の本心なのだろう。俺はそれには何も言わず、他に生存者がいるかどうかを探し始める。
「傀儡は……人形とは違うのか? あのモンスターが怪我をしないように注意していたな」
「違う。俺の傀儡は意識を持たせたままだ。傀儡は俺の人形ではない。恋人であり、子であり、共に戦う味方であり、生きる理由だ。何よりも大切にする。他の傀儡師はどうだか知らねえけどな」
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