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第二章 記憶の扉
10 ゼノの正体
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◇
「殺さ……ない……で」
小さな呻き声に目が醒める。
暗闇の中、隣のベッドを見るとゼノは顔を歪めて苦しそうに呼吸を荒げている。シーツを掴む指先は真っ白だ。
「なんで……いや……だ……。なんで……なんで……っ」
彼の言葉がずっしりとした重みを持ってのしかかるようだ。明らかに夢の中でトラウマに関連した何かを思い出しているのだろう。彼の長い睫毛を濡らす涙が顔を伝う。
静かに立ち上がり、シーツを持ち上げて彼の体の横に滑り込む。
ゼノが目をぱっと見開く。俺の顔を目掛けて飛んできた拳を受け止め、ベッドにねじ伏せる。
「……ふざけるな! 今すぐ離れろ……! 今は……今は絶対に、嫌だっ!」
「嫌だね。俺の傀儡が苦しんでいる」
彼は全力で暴れる。俺の腕に爪を立て、足で俺を蹴る。まるで野生の獣のように抵抗する。
「……クソ野郎……っ」
俺を罵るゼノの顔は恐怖、悲しみ、そして痛みで顰められている。
俺はその抵抗一つ一つを受け止め、彼をシーツに縫い付ける。汗が浮いた額に軽く唇を押し付ける。
彼がビクッと全身を強張らせるのを感じて手首を離し、固まった彼を自分の方へと引き寄せる。
「大丈夫。……何もしないから」
彼の背中をゆっくり撫でると抵抗が弱まる。
髪にキスをし、肩を抱き寄せると今度は自分から俺にしがみ付く。
「……っ。……ぅ……」
彼の抑えていた嗚咽が漏れる。
俺は無言でずっと胸元で震える彼を強く抱き締め、俺の体温を伝える。
――――まるで小さな子供と手負いの獣が合わさったみたいだな。色々思い出したのか
「……ん……」
やがて嗚咽は小さくなり、疲れて意識を手放したゼノの規則正しい寝息が聞こえてくる。
静かに腕枕をしたまま仰向けにし、頬を撫でる。
「俺が護る。……絶対にお前を殺させない」
小さく耳元で囁くと涙が横に伝い、彼の茶色い髪の毛に消えていく。
何度も優しく囁き、ずっと彼の頬と頭を撫でた。
朝方、彼が起きそうになると俺は撫でるのを止めて静かに彼の顔を眺める。酷く頼りない。
やがて彼の目が見開き、俺と目が合うと恥ずかしそうに顔を顰める。だが大人しく俺に抱き寄せられる。
「……私がいると……君も命を狙われるぞ」
「そうだな。だが心配するな」
静かな呟きにはまだ僅かな震えが潜んでいる。
俺は数回彼の髪にキスをしてから無抵抗なゼノをもう少しきつく抱き締める。
「殺されそうだった」
「あぁ」
「……必死に逃げて……崖から落ちた」
「落ちたおかげで俺と会えただろ」
彼は俺の顔を見上げる。俺は少し微笑んで彼の額に唇を寄せる。
「大丈夫だ。俺が護る。お前が誰だったとしても、関係ない」
彼が僅かに強張る。
「……私が、誰か、知っているのか?」
「……街での一連の出来事で大体想像が付いた。だけどお前はゼノ、俺の傀儡だ。それだけが俺にとって唯一意味のある事だ」
「私を……利用するつもりか?」
「政治にも権力にも興味はない。俺が興味あるのはお前の心と体だ」
ゼノは目を逸らす。俺は上半身を起こして彼の頭を撫でながら静かに訊く。
「何を思い出した?」
「……皆、私を殺したがっている……。……私の存在を、兄と正妻や弟達、貴族派が疎ましく思っていた事。……私……私は、名ばかりの……見せかけ王子……だと、いう事……」
俺は震え始める男を強く抱き締める。
「お前は俺にとっては『ゼノ』だ」
俺は両手で彼の頬を軽く包むと落ち着かせるように額に優しく口付ける。
少しずつ彼の腰を自分の方へと引き寄せる。ゼノの僅かに立ち上がった陰茎を感じながら手は腰より下に行かないように気を付ける。
快楽よりも俺を信用して貰うのが最優先事項になったからだ。
彼の頬にはまだ昨夜の涙痕が残っている。親指で僅かに彼の潤んだ目元を擦る。
「誰が敵でも関係ない。俺の恋人に、俺の家族に手を出す奴は一人残らず潰す」
彼は何も言わないが体の力を抜く。
俺は最後に彼の頭を一度撫で、立ち上がる。
――――これから派手な戦いになりそうだな
「殺さ……ない……で」
小さな呻き声に目が醒める。
暗闇の中、隣のベッドを見るとゼノは顔を歪めて苦しそうに呼吸を荒げている。シーツを掴む指先は真っ白だ。
「なんで……いや……だ……。なんで……なんで……っ」
彼の言葉がずっしりとした重みを持ってのしかかるようだ。明らかに夢の中でトラウマに関連した何かを思い出しているのだろう。彼の長い睫毛を濡らす涙が顔を伝う。
静かに立ち上がり、シーツを持ち上げて彼の体の横に滑り込む。
ゼノが目をぱっと見開く。俺の顔を目掛けて飛んできた拳を受け止め、ベッドにねじ伏せる。
「……ふざけるな! 今すぐ離れろ……! 今は……今は絶対に、嫌だっ!」
「嫌だね。俺の傀儡が苦しんでいる」
彼は全力で暴れる。俺の腕に爪を立て、足で俺を蹴る。まるで野生の獣のように抵抗する。
「……クソ野郎……っ」
俺を罵るゼノの顔は恐怖、悲しみ、そして痛みで顰められている。
俺はその抵抗一つ一つを受け止め、彼をシーツに縫い付ける。汗が浮いた額に軽く唇を押し付ける。
彼がビクッと全身を強張らせるのを感じて手首を離し、固まった彼を自分の方へと引き寄せる。
「大丈夫。……何もしないから」
彼の背中をゆっくり撫でると抵抗が弱まる。
髪にキスをし、肩を抱き寄せると今度は自分から俺にしがみ付く。
「……っ。……ぅ……」
彼の抑えていた嗚咽が漏れる。
俺は無言でずっと胸元で震える彼を強く抱き締め、俺の体温を伝える。
――――まるで小さな子供と手負いの獣が合わさったみたいだな。色々思い出したのか
「……ん……」
やがて嗚咽は小さくなり、疲れて意識を手放したゼノの規則正しい寝息が聞こえてくる。
静かに腕枕をしたまま仰向けにし、頬を撫でる。
「俺が護る。……絶対にお前を殺させない」
小さく耳元で囁くと涙が横に伝い、彼の茶色い髪の毛に消えていく。
何度も優しく囁き、ずっと彼の頬と頭を撫でた。
朝方、彼が起きそうになると俺は撫でるのを止めて静かに彼の顔を眺める。酷く頼りない。
やがて彼の目が見開き、俺と目が合うと恥ずかしそうに顔を顰める。だが大人しく俺に抱き寄せられる。
「……私がいると……君も命を狙われるぞ」
「そうだな。だが心配するな」
静かな呟きにはまだ僅かな震えが潜んでいる。
俺は数回彼の髪にキスをしてから無抵抗なゼノをもう少しきつく抱き締める。
「殺されそうだった」
「あぁ」
「……必死に逃げて……崖から落ちた」
「落ちたおかげで俺と会えただろ」
彼は俺の顔を見上げる。俺は少し微笑んで彼の額に唇を寄せる。
「大丈夫だ。俺が護る。お前が誰だったとしても、関係ない」
彼が僅かに強張る。
「……私が、誰か、知っているのか?」
「……街での一連の出来事で大体想像が付いた。だけどお前はゼノ、俺の傀儡だ。それだけが俺にとって唯一意味のある事だ」
「私を……利用するつもりか?」
「政治にも権力にも興味はない。俺が興味あるのはお前の心と体だ」
ゼノは目を逸らす。俺は上半身を起こして彼の頭を撫でながら静かに訊く。
「何を思い出した?」
「……皆、私を殺したがっている……。……私の存在を、兄と正妻や弟達、貴族派が疎ましく思っていた事。……私……私は、名ばかりの……見せかけ王子……だと、いう事……」
俺は震え始める男を強く抱き締める。
「お前は俺にとっては『ゼノ』だ」
俺は両手で彼の頬を軽く包むと落ち着かせるように額に優しく口付ける。
少しずつ彼の腰を自分の方へと引き寄せる。ゼノの僅かに立ち上がった陰茎を感じながら手は腰より下に行かないように気を付ける。
快楽よりも俺を信用して貰うのが最優先事項になったからだ。
彼の頬にはまだ昨夜の涙痕が残っている。親指で僅かに彼の潤んだ目元を擦る。
「誰が敵でも関係ない。俺の恋人に、俺の家族に手を出す奴は一人残らず潰す」
彼は何も言わないが体の力を抜く。
俺は最後に彼の頭を一度撫で、立ち上がる。
――――これから派手な戦いになりそうだな
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