(R18完結)傀儡師(かいらいし)は闇の中で啼く肉壺を激しく愛す

如月紫苑

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第二章 記憶の扉

14 腐った国の内部

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 やがて夜は明け、窓から差し込んだ朝の光がベッドの足元を照らす。枕に広がった彼の髪の毛が黒い影から綺麗な茶色へと変化してくる。
 俺はゆっくりと目覚めてきた彼の背や肩を撫でる。快楽で濡れた体は俺の体温を思い出し、僅かに震える。
「おはよう」
 ゼノは俺の低い囁きに目を開き、鋭い視線を合わせる。それが彼の精一杯の表面的な抵抗。
「……ジークは……私を、どうするつもりだ?」
 俺は彼の髪に指を通してその感触を楽しむ。
「本音か?」
 彼は体を強張らせ、頷く。
「お前がトロトロになるまでそのケツを犯すつもりだ」
「私は……本気で訊いている!」
「俺も本気で答えている」
 俺は裸のまま上半身を起こし、彼を眺める。
「政治には一切興味ないんだ。この国に対する特別な思い入れもない。誰が王座に座ろうが大差ないと思っている。しかしその過程でお前を傷つけるのは許さない。政治が絡んでくるのならば仕方がない。お前が笑ってくれるのならば政治にも関わろう。だが、もしこういう状態じゃなければ、俺は朝から晩までじっくりとそのケツに何度も濃いのを注ぎたい。ゼノが素直に気持ち良さそうに喘ぐのをじっくりと楽しみたい。それが一番やりたい事だ」
「君は……他には、ないのか⁉︎」
「ない」
 俺は憤慨をしている彼の表情を見て口角を上げる。実によく表情が動くようになって嬉しい。
「実にシンプルでいいだろ。俺は傀儡を愛している。隠れた目的や利用なんて考えてねぇよ。それをもうようになっただろ?」
 俺は僅かに笑いながらそう言うとゼノは俺を睨む。布団の端を掴む指先に力が入っている。俺は彼の手には触れずに少し目にかかっている前髪をどかす。
「お前が感じている俺の感情は全て本物だ。傀儡師は傀儡とは切っても切り離せねぇよ。逆も然り。俺はお前を裏切らねぇ」
 一度起きたゼノは相当疲れていたのだろう、俺の言葉を何度も反芻して考えている内に再び眠りにつく。俺も少し寝不足気味で一緒に寝てしまう。傀儡達の生命エネルギーやら魔力によって普通の人よりも体力もありゆっくりと時間が流れる俺の体内は、普段はそこまで睡眠も休みも必要としていない。だが立て続けに傀儡の契約をするのは流石に体の負担が大きい。
 再び起きた時にはもう太陽も真上に差し掛かっている。
 彼もたくさん休んだ為か落ち着いている。
 起きてこない俺達を心配したグンギは長い手足を折り込んでドアの前にちょこんと座り込んでいた。申し訳ない反面、そのコンパクトなサイズに可愛過ぎて悶絶をする。ゼノはそんな俺に冷めた視線を送ってきたが、グンギの姿勢に僅かな笑みが浮かんだのを見逃さなかった。
 真昼の眩しい太陽が建物の屋根で反射をして目に刺さる。俺達は情報集めも兼ねて町へ朝食を食べ来ている。
「腹減ったな」
 ゼノは色々考え込んでしまい、少し心ここに在らずで頷く。すれ違う人が増えると無意識に俺の近くに寄る。
 何度か寄ったことのある食堂は昼の客で賑わっている。念の為、入り口が見える席に座る。木の床が軋む音、食器がぶつかり合う音、笑い声や話す声が飛び交う。
「まだ第二王子が見つからねぇってよ」
「流石にもう殺されたんじゃねぇのか? 妾腹の子なんて王家にとって厄介者でしかないし」
「女だったら政略結婚とかで使い道あるんだが男だとなぁ。邪魔でしかないだろうな。しかも頭は優秀らしいから第一王子は面白くないだろ」
  食事をしながら周囲の会話に耳を傾ける。ゼノは聞こえてくる内容に無表情になりながら食事を続ける。
「王都にいる妹から聞いたんだが、王都は相当やばいらしいぜ。全ての角に兵がいて顔を何度も確認されるんだと」
「シアン王子を探しているのか?」
「じゃね? 俺が王子ならば逃げるけどな。第二王子派だった新興派も議員の逮捕で荒れ始めているらしいし」
「商会が内乱を企てたってやつだろ? 証拠は貴族派に捏造されたって聞いたぞ」
「第一王子も第三王子も王の側近と結託しているって噂だし、捏造するのは簡単だろうな」
「国の方針が不透明過ぎるんだよ。そもそも王自身は誰を自分の後継者にするかなんてどうでもいいらしいじゃん。相変わらず妾にはぞっこんらしいし」
「じゃ王は第二王子派か?」
「いや、妾には惚れているけどシアン王子には無関心って聞いたぞ」
「案外、王自身もシアン王子を疎ましく思ってるとか」
「それはあるかもな。議会でも権力を纏めようと中立派が裏で必死に策を巡らせているし」
「第二王子の新興派は黙ってないだろ。いくら議員が逮捕されたからって、資金はあるから反発しそうだし」
「商会が権力を握るにはシアン王子が必要なんだろ? 商会は第一や第三王子を操れなさそうだし。あの王妃が目を光らせているだろうしな」
「第二王子は立場上色々押しに弱いんだろうな。味方してくれるのって母親ぐらいだろうな」
「王は王で新税を課す準備に入るし全く国民を見てねぇよ。通行税ってなんだよ。一般市民は普通の道すら歩いたらいけねぇってか」
「がめついよな。王も貴族もいいもん食って、いい服着て、いい女抱いて、金は国民から巻き上げる。不公平にもほどがあるぜ」
「だが派閥争いで新興派が勝つ可能性もあるんだろ? そうなったら貴族派は全員処刑されるかもな。中立派も危ない。血の政権交代だ」
「クーデターか? 商会権力か……そうなったらそうなったで財源があっても変な法律が乱立しそうだな。あの第二皇子じゃそいつらを止められそうにもねぇし。まじで内戦寸前だしもはやこの国はおしまいだな」
「内戦? 心配なのは内戦の方じゃねぇだろ。隣国との戦争の可能性も高まっているし、確かにおしまいだな」
 ゼノは会話にずっと肩を震わせ、下を向いたまま静かにスープをかき混ぜている。冷静な振りをしているが視線は彷徨っている。俺は先に食べ終わってゆっくりとコーヒーを飲みながら彼の様子を見ている。
「王権なんて大体どこも腐っているよ」
 俺は周りに聞こえないように低く呟く。ゼノは一瞬何かを言いかけるように口を開けるが、すぐに口を閉じて目を背ける。
 男達の会話が隣国の姫君の話題へと移ったところで、俺達は無言で席を立つ。
 その後の買い出し中もゼノの目はずっと伏せられたままだ。
 再び山へと入り、家へと帰る。彼はずっと言葉少なに後をついて来る。彼に踏まれた枯れ葉の砕ける音が聞こえる。
 俺の家に着くと彼はそのままベッドに直行して腰掛ける。
 
ギシッ
 
 今までずっと考えていた事を、小さな震える声で吐き出す。
「私は……あの日、死ぬべきだった」
 俺は何も言わずに彼が自分の感情と静かに戦うのを見守る。
「あの日……、暗殺されそうになった。家族の誰かが実際に依頼をして、私を殺そうとした」
 彼の言葉は悲痛、否定、困惑、そして絶望が混ざる。俺は静かに彼の横に座り、手を握る。彼の強張った肩が僅かに俺の方へと傾く。
「……私自身は……誰からも……」
 彼のか細い言葉が途切れる。ゼノは視線を繋いだ手へと落とす。
 震える手で俺の手を握ったり離したりして、必死に感情を押し殺そうとしている。だが心は正直で痛いほどの感情が流れてくる。
「……ジーク……」
 その小さな縋るような呟きに彼の肩に触れる。ゼノは一瞬体を硬直させるが、素直に俺に寄りかかる。
「誰からもじゃない。俺は、お前がいなきゃ嫌だ」
 彼が欲している言葉を何度も囁く。
「皆……私に死んで欲しがっている……」
 声が震える。醜い権力争いに巻き込まれるどころか、争いの中心にいるゼノ。彼自身権力に興味があろうがなかろうが周りは全く気にしていない。ゼノの存在自体が凶器であり、憎悪の対象であり、最強の駒である。
 家族からは死を望まれ、他人からは利用される。彼自身、自分の状況が分かっていてもどうしようもなかったのだろう。
 
――――だからあの無表情な冷たさで自分の心を護っていたのか
 
「俺がゼノに生きていて欲しい。だから俺が、セノを護る。心配するな」
 彼の横に体を寄せ、彼の肩をきつく抱き寄せる。上部の言葉よりも、俺の体温が、俺の心が彼に伝わるようにきつく。
 彼の涙が頬を伝う。
「俺には飾らないでいい。どんなゼノでもゼノだ。そのままのお前を愛している」
 彼の力の抜けた体をゆっくりと横たえる。静かに唇を重ねると彼の方から舌を滑り込ませてくる。何度も優しく気持ちが伝わるように絡ませ、髪を撫でる。立った股間が彼に当たらないように気を付けながら彼が落ち着くまで優しく、ゆっくりと頭や肩を撫でる。
 彼は目を閉じたまま、俺の熱を感じるように震える吐息を吐く。血縁者に疎まれる記憶と殺されそうになった恐怖との狭間で、唯一俺が味方だという事実を受け入れ始めている。俺と繋がれば繋がるだけ、俺の心が感じられる。それはつまり、俺は彼を裏切らず、嘘を吐かないという確認が持てる事でもある。
 そんな小さな、だが大きな心の変化がこの静かな夕方生まれ始める。
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