(R18完結)傀儡師(かいらいし)は闇の中で啼く肉壺を激しく愛す

如月紫苑

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第二章 記憶の扉

16 抗いたいが為に

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「……その震えを飲み込んでやる」
 言い終わるより前に彼の唇に自分のを重ねた。強張った唇の間から強引に舌を押し込む。柔らかな粘膜をなぞると力が抜けてくる。
「……っ……ん……」
 ゼノの喉から喘ぐような声が漏れる。俺を止める為か、俺に縋る為か、俺のシャツの胸元を掴む。
 やがて唇を離すと二人の唇を繋げていた唾液の糸が細くなり、切れる。
「どうだ? 恐怖なんて吹っ飛ぶほど気持ちいいだろ?」
「……ゲス野郎……」
 彼は息を乱し、俺を睨み上げる。腰が引けているのは俺に硬くなった股間を隠しているせいか。それに気付かないふりで優しく後頭部を撫でる。
 俺の胸元に額を押し付け、暫く身動きをしない。やがてゼノの震えた小さな声が聞こえる。
「さっき……夢で思い出していたんだ」
 俺は手を止めずに無言で彼をベッドの上に誘導する。大人しく座った彼は俺にしがみ付いたままだ。
 指先が白くなるまで俺の服をきつく握り締めている。本人は否定していても、確実に俺に対する感情が芽を吹き出している。
 安心感か、救済か、あるいは別の何かかを求めている。
 俺はその小さな始まりを楽しむように、更に強く抱き寄せる。ゼノは俺のきつく抱き締める腕に身を任せ、ぽつりと漏らす。
「……俺の父は、王は……俺の母上を心底愛している」
 その声音には皮肉も怒りもなく、ただ苦みだけが滲んでいる。
「王は奴隷だった母上に一目惚れをしたんだ。その場で母上を買取、王宮へと連れ帰った。王宮にとって母上は異質な存在だった。王は王妃よりも奴隷を寵愛した。毎夜母上の部屋に通い、王妃の寝所に行かなかくなった。自由も与えた。……王妃がそれを面白く思うはずがない」
 ゼノは短く息を吐き、視線を伏せる。
「母上は私を腹に宿した。王はそれでも母上の所に通い詰めた。やがて私が生まれ、立てるようになるとすぐに母上の部屋から追い出された」
 俺は彼の後頭部をずっと撫でる。
「……王妃は母上に手を出せない分、私に恨みを向けた。第一王子……私の兄上もだ。正妃の血を引く正当な後継ぎなのに、王が母上にばかり目を向けるから、兄上の立場が悪い。兄上もその苛立ちと屈辱をずっと私に向けてきた」
 俺は彼の柔らかな髪に口付ける。
「……お前は王宮の腐った愛憎の中で生まれたってわけか」
「……だから王の健康が悪くなり始めてきた今、派閥間の争いが激化してきた。伝統と血筋を重んじる正妃と兄上の味方の貴族派。父の寵姫である母上を担ぎ上げて王を操ろうとする中立派。そして……商人や戦争を望んでいる軍人の一部の新興派。彼等は戦の利権を握るために弱い立場の私を利用しようとしている」
「どことの戦争だ?」
 俺の冷静な問いに彼がすぐに応える。
「ザハル。私を名ばかりの王座に就け、自分達が裏で政権を握るつもりだ」
「東の山脈国家、ザハルか。鉱石と綿の産地だったよな? 確かにあの国を押さえれば莫大な利益が手に入りそうだ。それについて貴族派はどう思っているんだ?」
「貴族派自体は僅かに賛成寄りだが、それよりも兄上と王妃が戦争を望んでいると思う。軍を動かす権限を握れば王座も視野に入れられる。私を排除すれば、実質、王妃と兄が揺るがぬ権力を持てる」
 ゼノは一度言葉を切って唇を噛む。
「だけど、中立派も大人しくはしていない。母上が元奴隷だという事を利用して改革だの平民の地位向上だのと耳触りのいい言葉を並べ、小規模な商売をしている商人や平民を取り込もうとしている。王は王で政治には全く無関心、最低限の業務しかしていない。最近はその業務ですら側近が代わりにやっているぐらいだ。……この国の中枢はぐちゃぐちゃだ」
「つまり新興派はお前に飾り物の王として城へ戻って欲しいが、貴族派と中立派はお前が邪魔だと」
 彼は俺から少し離れて自分の指先を見る。
「……中立派は……違うと思いたい……」
「『思いたい』、けど?」
 彼は静かに黙ったまま視線を下げる。
「……もし私が殺されたら、王は傷心の母上に付きっきりで政治に携わる事がなくなるはずだ。その隙に自分達に有利な法案を押し通せるだろう。戦争を起こせば新興派も抵抗を弱める。私が呼吸をしている事が、色んな人達にとって都合が悪い」
 彼の声は震えているが、冷静に自分の危険な立場と存在を把握している。

――――的確なね自分の状況を把握していてどうにもならない事に絶望しているのか
 
 俺は離れたゼノの後頭部を抱え込むように引き寄せる。
「王座だの権力だの、全部くれてやれ。お前は死んだ事にすればいい」
 ゼノは目を伏せたまま息を詰める。
「……簡単に言うなよ」
「簡単だろ。本気で王座に就く気がないんだったら、な。お前は何もしなくっていい。俺が全部やってやるぞ」
 ゼノは無言で目を閉じる。
 その姿勢で暫く深呼吸をすると、落ち着きを取り戻したのだろうか。ゼノは両手で俺の胸を押し返す。
 それは明らかな拒絶だ。
「……もう離せ」
 流れてくる拒絶、そして抵抗。

――――自分の運命に抗いたいのか

 俺は大げさに肩を竦めて口角を上げる。
「なんだよ。折角お前が絶対に生きていけるような出口を提案してやったのに」
「……私は……」

カチャ
 
 ドアが開いてグンギが外から覗き込む。俺と視線が合うと後ろ手にドアを閉め、擦り寄ってくる。
 僅かに血の匂いがする。グンギは床に座り込むと俺を潤んだ瞳で見上げる。脚の間で布を押し上げている熱が見える。
 俺は笑いながらグンギの顔を両手で引き寄せる。彼は両腕で俺の頭部を抱き締めながら自ら舌を差し出す。濡れた音とグンギの甘えるような喘ぎ声がする。
「……ジーク様」
「いい子だ、グンギ。ご褒美が欲しいのか?」
 グンギは一瞬俺の横にいるゼノをちらりと見るが、俺の股間に片手を添える。
「欲しい」
「……お前はいつも素直で可愛いな。ゼノも見習ったらどうだ?」
「君はやっぱり最低だ」
「そうだな。俺は最低だ。だがお前も素直になったらどうだ? 俺にも、自分にも」
 ゼノの顔が強張る。俺から顔を背ける。否定もせず、ただ無言で唇を噛む。
「俺に抱かれたくないのに、俺が他の男を抱くのは嫉妬するのか?」
「そうじゃないっ!」
 強く否定をする。だがその否定はあまりにも早く、強く発せられる。
 俺がグンギの顎を持ち上げ、ゼノに見せつけるように優しくグンギの口内を愛撫をするように口付ける。
「ゼノ、お前は本当は何が欲しい? 何がしたい? それを真剣に考えてみたらどうだ?」
 笑いながらそう告げ、グンギを抱き上げる。グールは嬉しそうに足を腰に巻き付けてくる。
 背中にゼノの視線を感じる。痛いぐらいに突き刺さってくる。だが彼には今夜はちゃんと彼自身と向き合って欲しい。
 隣の寝室への扉が閉まる直前、背後からゼノの吐息が聞こえる。
 それは俺を引き留めたいのか、苛立っているのか分からないような溜息にも聞こえた。
 


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