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第三章 真実の刃
21 毒
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◇◇
その日は一日中歩いた。裏山から山脈へと続く道を抜けていく。
敵が近くにいるとタッピーが上空から知らせてくれる。
だが夜になると生い茂った森の場所に差し掛かる。鷹の優れた夜間視力を持ってしても幾十にも重なる葉っぱが邪魔をして視野が悪くなる。慎重に歩を進めているせいでスピードも落ちる。
俺と出会ってからずっと歩き詰めだったゼノの足裏はもう何度も血豆が潰れている。弾かれ者でも王子である。王子として基本的な体力作りや護衛術は習ったのだろう。それでも肉体をここまで酷使する事は稀だったはずだ。足を引き摺り始めたのを一生懸命隠そうとする。
――――痛そうだな
表情には出さないがかなり痛いという感覚が伝わってくる。無理をさせ過ぎて明日歩けなくなのは困る。
正直に言えばまだ安全圏ではないが、彼の心身のケアがしたい。
「……今夜はここで休もう」
俺の声にゼノは明らかに安堵の表情を浮かべる。
すぐに火を起こし、ゼノの靴を脱がせる。湿気と汗、そして血の匂いが足に染み付いている。俺はなるべく優しく彼の足の傷に薬を塗り込んで手当しながら彼の状態を観察する。
あの奴隷の一件からゼノは自分の立場や他人に対する見え方をより一層気にするような感じを受けるようになった。特に何かを思い出す度に自分の亡霊と葛藤している雰囲気を受ける。
だがあの奴隷の一件は大きく彼の為にもなる変化をもたらした。
俺を完全に信頼し、拒絶しなくなった。
それは彼自身にもみえる変化として表れ、以前よりも自分の能力に対する自信と信頼を感じられる。
軽く食事を終え、横になる。グンギは俺の右に寄り添い、ゼノは俺の左で目を閉じる。
疲労のせいですぐにゼノの寝息が聞こえてくる。熱で火照った体を静めるように深呼吸をする。
彼の寝顔を眺めながら抱き寄せた肩を起こさないようにそっと撫でる。愛おしくて堪らない。
グンギとはまた違う、別の愛おしさ。
グンギは家族だ。恋人でもある。
――――ならばゼノは? ゼノも家族で恋人なはずなのに、何故愛おしいと思うこの気持ちはグンギに対するものと少し異なる? ゼノは俺にとって……何なのだ?
……パキ
「っ!」
その小さな地面を踏む音にすぐに飛び起きる。
次の瞬間、大量に矢が夜の暗さに紛れ込み、雨のように俺達の上へと振り落ちてくる。
ヒュンヒュンッ ヒュン ヒュンッ
俺は寝ているゼノを蹴って位置を変えさせる。すぐに彼が寝ていた場所に矢が三本刺さる。
グンギは俺が反応した瞬間に飛び起き、真っ直ぐ闇に紛れている暗殺部隊へと走っている。山の戦いに長けたグールはその長い手足で木の幹にしがみ付き、鋭角に方向転換しては敵を翻弄させる。
――――多い! これだけ暗いと見えねぇ!
夜目も人間より利くグンギの興奮が伝わってくる。そしてゼノの興奮も。
だが。矢の数があまりにも多い。
そして、グンギが異様な匂いを嗅ぎ取る。
――――毒矢か! ここで終わらせる気だ!
その毒矢は雪崩のようにゼノに降りかかるように弧を描き、徐々にスピードを増やし、再び彼に死の雨を降らそうとしている。
――――避けきれねぇ!
「ゼノ!」
咄嗟に彼を抱き抱え、体を覆う。
毒矢が自分の肩と腿に刺さるのを感じる。体が衝撃で跳ねる。
痛みよりも燃えるような熱さが体を貫く。
「ぐっ……!」
「ジーク!」
ゼノの恐怖に引き攣った悲鳴が聞こえる。
地面が揺れる。
空が騒めく。
体から力が抜けていく。視界がぐにゃりとひしゃげる。
「ぐっ、ぅぇえええっ」
体を折り、夕飯を全て吐き出す。熱いのに、寒い。異様な汗が噴き出る。
地面から次々と俺の傀儡達が怒りに狂ったように飛び出し、暗殺部隊を壊滅していく。グンギも怒りで我を忘れたかのように敵の喉を噛み裂き、唸り声を上げる。
俺は地面へと崩れ落ちる。
倒れた場所からゼノを目で追う。彼はよろけながら近付いた敵に俺が渡していた短刀を喉に突き刺す。
――――やれば出来るじゃないか。頑張ったな、ゼノ
傀儡達が怒りの牙を敵に埋めていく。その怪我の上を更に別の怒りの攻撃で怪我を広げていく。
ゼノも俺の近くで俺を護るように近付こうとする敵に怒りを向ける。そして見事に俺を護っている。
俺は色んな叫び声や悲鳴、武器の金属音、傀儡達の唸り声や攻撃音を聞きながら少し微笑んで目を閉じる。
「お前は……十分、俺なしでも強いよ」
俺は少し笑いながら意識を手放す。
「ジーク!」
――――大丈夫だから。大丈夫だから、泣くな、ゼノ……
俺の意識はその真っ暗な闇の中へと沈み込んだ。
その日は一日中歩いた。裏山から山脈へと続く道を抜けていく。
敵が近くにいるとタッピーが上空から知らせてくれる。
だが夜になると生い茂った森の場所に差し掛かる。鷹の優れた夜間視力を持ってしても幾十にも重なる葉っぱが邪魔をして視野が悪くなる。慎重に歩を進めているせいでスピードも落ちる。
俺と出会ってからずっと歩き詰めだったゼノの足裏はもう何度も血豆が潰れている。弾かれ者でも王子である。王子として基本的な体力作りや護衛術は習ったのだろう。それでも肉体をここまで酷使する事は稀だったはずだ。足を引き摺り始めたのを一生懸命隠そうとする。
――――痛そうだな
表情には出さないがかなり痛いという感覚が伝わってくる。無理をさせ過ぎて明日歩けなくなのは困る。
正直に言えばまだ安全圏ではないが、彼の心身のケアがしたい。
「……今夜はここで休もう」
俺の声にゼノは明らかに安堵の表情を浮かべる。
すぐに火を起こし、ゼノの靴を脱がせる。湿気と汗、そして血の匂いが足に染み付いている。俺はなるべく優しく彼の足の傷に薬を塗り込んで手当しながら彼の状態を観察する。
あの奴隷の一件からゼノは自分の立場や他人に対する見え方をより一層気にするような感じを受けるようになった。特に何かを思い出す度に自分の亡霊と葛藤している雰囲気を受ける。
だがあの奴隷の一件は大きく彼の為にもなる変化をもたらした。
俺を完全に信頼し、拒絶しなくなった。
それは彼自身にもみえる変化として表れ、以前よりも自分の能力に対する自信と信頼を感じられる。
軽く食事を終え、横になる。グンギは俺の右に寄り添い、ゼノは俺の左で目を閉じる。
疲労のせいですぐにゼノの寝息が聞こえてくる。熱で火照った体を静めるように深呼吸をする。
彼の寝顔を眺めながら抱き寄せた肩を起こさないようにそっと撫でる。愛おしくて堪らない。
グンギとはまた違う、別の愛おしさ。
グンギは家族だ。恋人でもある。
――――ならばゼノは? ゼノも家族で恋人なはずなのに、何故愛おしいと思うこの気持ちはグンギに対するものと少し異なる? ゼノは俺にとって……何なのだ?
……パキ
「っ!」
その小さな地面を踏む音にすぐに飛び起きる。
次の瞬間、大量に矢が夜の暗さに紛れ込み、雨のように俺達の上へと振り落ちてくる。
ヒュンヒュンッ ヒュン ヒュンッ
俺は寝ているゼノを蹴って位置を変えさせる。すぐに彼が寝ていた場所に矢が三本刺さる。
グンギは俺が反応した瞬間に飛び起き、真っ直ぐ闇に紛れている暗殺部隊へと走っている。山の戦いに長けたグールはその長い手足で木の幹にしがみ付き、鋭角に方向転換しては敵を翻弄させる。
――――多い! これだけ暗いと見えねぇ!
夜目も人間より利くグンギの興奮が伝わってくる。そしてゼノの興奮も。
だが。矢の数があまりにも多い。
そして、グンギが異様な匂いを嗅ぎ取る。
――――毒矢か! ここで終わらせる気だ!
その毒矢は雪崩のようにゼノに降りかかるように弧を描き、徐々にスピードを増やし、再び彼に死の雨を降らそうとしている。
――――避けきれねぇ!
「ゼノ!」
咄嗟に彼を抱き抱え、体を覆う。
毒矢が自分の肩と腿に刺さるのを感じる。体が衝撃で跳ねる。
痛みよりも燃えるような熱さが体を貫く。
「ぐっ……!」
「ジーク!」
ゼノの恐怖に引き攣った悲鳴が聞こえる。
地面が揺れる。
空が騒めく。
体から力が抜けていく。視界がぐにゃりとひしゃげる。
「ぐっ、ぅぇえええっ」
体を折り、夕飯を全て吐き出す。熱いのに、寒い。異様な汗が噴き出る。
地面から次々と俺の傀儡達が怒りに狂ったように飛び出し、暗殺部隊を壊滅していく。グンギも怒りで我を忘れたかのように敵の喉を噛み裂き、唸り声を上げる。
俺は地面へと崩れ落ちる。
倒れた場所からゼノを目で追う。彼はよろけながら近付いた敵に俺が渡していた短刀を喉に突き刺す。
――――やれば出来るじゃないか。頑張ったな、ゼノ
傀儡達が怒りの牙を敵に埋めていく。その怪我の上を更に別の怒りの攻撃で怪我を広げていく。
ゼノも俺の近くで俺を護るように近付こうとする敵に怒りを向ける。そして見事に俺を護っている。
俺は色んな叫び声や悲鳴、武器の金属音、傀儡達の唸り声や攻撃音を聞きながら少し微笑んで目を閉じる。
「お前は……十分、俺なしでも強いよ」
俺は少し笑いながら意識を手放す。
「ジーク!」
――――大丈夫だから。大丈夫だから、泣くな、ゼノ……
俺の意識はその真っ暗な闇の中へと沈み込んだ。
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