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第四章 傀儡師と緑瞳の王
28 死後の約束
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「王になる私は……嫌いなのか?」
彼の絞り出すような声に、嘘など吐けない。彼に嘘は吐けない。
「ゼノも、シアン王子も、何よりも愛している」
「……私は君の傀儡のまま、生きていく。ジークを、ずっと愛する。それが、私の愛だ」
俺は彼の顔を両手で包み込むように持ち、優しい口付けをその唇に掠める。
「王でいる間は、一緒にいられないのが分かっていてもか?」
「……それでも、私はジークを愛する」
手で彼の顔から首をなぞり、愛おしい者の左胸の上で手を止める。力強い鼓動は出会った時のままだ。掌のその感触に伏せていた目を上げる。
「……『死体』?」
俺の腕が無意識に強張る。彼は俺の心を読んだのだろう。ただ、その意味は理解していない。
「ジーク、『死体』って……何?」
彼が少し眉を顰める。
「私の事をここまで大事にしてくれた人は君以外には今まで誰もいない。私をここまで、ちゃんと見ていてくれた者はいない。私を、ここまで愛してくれた者もいない。ジークは今、私が生きていける理由。だから何か選択肢があるんだったら、知りたい。どんな事でも、知りたい」
俺は少し躊躇う。俺の心にあるのは彼の魂の死刑宣言に等しいから。
それを感じ取ったのだろう。ゼノは俺の目を真っ直ぐ見て強く言い放つ。
「どんな状態でも、君の側にいたい」
――――本当に、強くなったな
「……お前の死後を俺にくれ」
「約束しよう。王でなくなる瞬間から先、君に全てを捧げる」
戸惑う事もせず、すぐに彼が返事をする。俺は彼を抱き締めたまま、唇が触れる近さで囁く。
「ゼノの遺体を、俺にくれ。俺が、お前を、起こす。死後は俺だけの傀儡として側にいろ」
ゼノの目が驚愕で見開く。
「そんな事、出来るのか?」
「あぁ。だが、死に戻りのお前は人にあらず。俺の死の傀儡となる。人格も意識もある。心を通して意思の疎通は出来る。……だが声を発する事も出来ないし俺から長距離離れる事も出来なくなる。俺が側にいないと死ぬ。死んだらもう二度と起きない。人形のような強制傀儡と自由意思を持った傀儡の中間にいる者となってしまう。……魂も体も俺に縛られてしまう」
「……それで、いい。それが、いい。側にいられる。ジークのいる場所が、俺の帰る場所だ」
「……あぁ。俺が死ぬまでずっと……一緒だ」
ゼノはゆっくりと顔を上げ、再び俺と唇を重ねる。最初は静かに、次第に深く、激しく。息が混じり、心臓の音が重なる。
「約束だ。絶対に、約束してくれ。私の死後は必ず一緒にいると、約束してくれ」
「約束だ。お前が死んだその日に、迎えに行く。死後、一番最初に見るのは、この俺の顔だ」
彼の目から一筋の涙が流れる。
俺は屈んでそれを舐め取る。その塩気に心を痛めながら彼をきつく抱き締める。
「約束だから。……絶対に、約束だから、ジーク」
「あぁ。約束する」
何度も確認する彼に、何度も同じ返事をする。
夜明けは彼の最後のあがきへと続く合図だと俺も彼も理解をしている。ちらっと見る彼の横顔は燃えるような決意が揺るがない。だがそのエメラルドの瞳の奥には静かな痛みが潜んで見える。
「……もう少しで、全部終わるんだ」
――――俺との生活も、王子としての逃亡も
短く息を吐きながら呟いた彼は優しく俺の肩に腕を回す。
「でも……もう……これ以上あの椅子を汚される訳にはいかないんだ」
彼の指先は震えている。だがそれは恐怖からではなく、覚悟を決めた男の武者震いだ。
俺は低く笑う。
「随分と良い目になったな。……もう王の顔だ」
お互いにそれ以上明日の事は口にせず、息を貪るように唇を重ねる。熱が爆ぜたように体が反応をする。
「……激しく、抱いてくれ」
「言われなくても、絶対に消えない場所で、俺を刻み込むつもりだ」
――――最後の、夜だから
お互いにそれを考えたのだろう。その考えが一瞬、強烈な強さで心を引き裂く。
服を乱暴に剥ぎ、肌を俺の目に曝す。今、彼は俺が何をしてもそれを黙って受け入れるだろう。
その受け入れ方があまりにも強く、美しい。
彼の絞り出すような声に、嘘など吐けない。彼に嘘は吐けない。
「ゼノも、シアン王子も、何よりも愛している」
「……私は君の傀儡のまま、生きていく。ジークを、ずっと愛する。それが、私の愛だ」
俺は彼の顔を両手で包み込むように持ち、優しい口付けをその唇に掠める。
「王でいる間は、一緒にいられないのが分かっていてもか?」
「……それでも、私はジークを愛する」
手で彼の顔から首をなぞり、愛おしい者の左胸の上で手を止める。力強い鼓動は出会った時のままだ。掌のその感触に伏せていた目を上げる。
「……『死体』?」
俺の腕が無意識に強張る。彼は俺の心を読んだのだろう。ただ、その意味は理解していない。
「ジーク、『死体』って……何?」
彼が少し眉を顰める。
「私の事をここまで大事にしてくれた人は君以外には今まで誰もいない。私をここまで、ちゃんと見ていてくれた者はいない。私を、ここまで愛してくれた者もいない。ジークは今、私が生きていける理由。だから何か選択肢があるんだったら、知りたい。どんな事でも、知りたい」
俺は少し躊躇う。俺の心にあるのは彼の魂の死刑宣言に等しいから。
それを感じ取ったのだろう。ゼノは俺の目を真っ直ぐ見て強く言い放つ。
「どんな状態でも、君の側にいたい」
――――本当に、強くなったな
「……お前の死後を俺にくれ」
「約束しよう。王でなくなる瞬間から先、君に全てを捧げる」
戸惑う事もせず、すぐに彼が返事をする。俺は彼を抱き締めたまま、唇が触れる近さで囁く。
「ゼノの遺体を、俺にくれ。俺が、お前を、起こす。死後は俺だけの傀儡として側にいろ」
ゼノの目が驚愕で見開く。
「そんな事、出来るのか?」
「あぁ。だが、死に戻りのお前は人にあらず。俺の死の傀儡となる。人格も意識もある。心を通して意思の疎通は出来る。……だが声を発する事も出来ないし俺から長距離離れる事も出来なくなる。俺が側にいないと死ぬ。死んだらもう二度と起きない。人形のような強制傀儡と自由意思を持った傀儡の中間にいる者となってしまう。……魂も体も俺に縛られてしまう」
「……それで、いい。それが、いい。側にいられる。ジークのいる場所が、俺の帰る場所だ」
「……あぁ。俺が死ぬまでずっと……一緒だ」
ゼノはゆっくりと顔を上げ、再び俺と唇を重ねる。最初は静かに、次第に深く、激しく。息が混じり、心臓の音が重なる。
「約束だ。絶対に、約束してくれ。私の死後は必ず一緒にいると、約束してくれ」
「約束だ。お前が死んだその日に、迎えに行く。死後、一番最初に見るのは、この俺の顔だ」
彼の目から一筋の涙が流れる。
俺は屈んでそれを舐め取る。その塩気に心を痛めながら彼をきつく抱き締める。
「約束だから。……絶対に、約束だから、ジーク」
「あぁ。約束する」
何度も確認する彼に、何度も同じ返事をする。
夜明けは彼の最後のあがきへと続く合図だと俺も彼も理解をしている。ちらっと見る彼の横顔は燃えるような決意が揺るがない。だがそのエメラルドの瞳の奥には静かな痛みが潜んで見える。
「……もう少しで、全部終わるんだ」
――――俺との生活も、王子としての逃亡も
短く息を吐きながら呟いた彼は優しく俺の肩に腕を回す。
「でも……もう……これ以上あの椅子を汚される訳にはいかないんだ」
彼の指先は震えている。だがそれは恐怖からではなく、覚悟を決めた男の武者震いだ。
俺は低く笑う。
「随分と良い目になったな。……もう王の顔だ」
お互いにそれ以上明日の事は口にせず、息を貪るように唇を重ねる。熱が爆ぜたように体が反応をする。
「……激しく、抱いてくれ」
「言われなくても、絶対に消えない場所で、俺を刻み込むつもりだ」
――――最後の、夜だから
お互いにそれを考えたのだろう。その考えが一瞬、強烈な強さで心を引き裂く。
服を乱暴に剥ぎ、肌を俺の目に曝す。今、彼は俺が何をしてもそれを黙って受け入れるだろう。
その受け入れ方があまりにも強く、美しい。
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※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
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