(R18完結)傀儡師(かいらいし)は闇の中で啼く肉壺を激しく愛す

如月紫苑

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第四章 傀儡師と緑瞳の王

30 血のクーデター

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 夜明け寸前の静寂を切り裂く爆破音が轟く。王族のドアが一斉に破られ、仕掛けた火薬の匂いが漂う。悲鳴が上がる。
 俺は影に潜み、兵士を操る。強制的な傀儡の技は対象を完全に人形にする。ゼノやグンギのように意思の自由はない。完全な戦闘兵器だ。そして操られた事に気付かない。このレベルの傀儡ならば俺は広範囲に渡って数十人は動かせる。
 全王が知らなかった俺の力だ。
 その傀儡達は先陣を切り、敵兵を翻弄する。
 ゼノは剣を握り、階段を駆け上がる。なるべく目立たないように、だが彼の近くで俺はその影を追う。
 最初の標的はガゥルー家令嬢だ。彼の婚約者に宛がわれた部屋へと押し入る。
 彼の婚約者は綺麗な令嬢だ。間違いなく自分の価値を理解し、それを利用して更に高みを目指すタイプだ。だが今はその顔を恐怖と憎悪で歪ませ、兵を自分の前に何人も護らせている。
「君との婚約は破棄する」
 自分の家の私欲の為に王族の死を計画し、実行の手助けをした犯罪者。
「ガゥルー家。その爵位を剥奪し、財産を没収し、この国から追放する」
「いやぁああああ! あなたなんか! 卑しい者の血が入ったあなたなんかに! 王でもない癖に!」
 彼女の両隣の兵が突然その剣を構え直し、彼女へと突き付ける。
「きゃ⁉︎ なんで……」
「ガゥルー家へ追放通達する時までその者を牢屋へ」
 ゼノの凛とした声に俺の傀儡兵が喚く彼女を引き摺って行く。
「次は兄上、そして王妃」
 ゼノは剣をきつく掴み、廊下を駆けていく。王子の婚約者なのに、王子自身よりもいい部屋を使用していた婚約者だ。俺はそれに虫唾がしながらも黙って追う。廊下の影の中で誰にも見られないように、気付かれないように、王を追う。
 第一王子、そして王妃。王位を狙い、陰謀を巡らせてきた者達だ。
 ゼノは第一王子の部屋を素通りし、王妃の部屋へと向かう。豪華な装飾ですぐにどの部屋なのか一目で判断が付く。二人は金の髪を振り乱し、まだ華美な寝巻のまま兵に囲まれている。
「シアン、貴様! ついに血迷ったのか⁉︎ それともずっとその卑しい血に似合わねぇのに私の王冠を狙っていたのかよ⁉︎」
「……長年の謀反、裏での取引の数々、国の財源の私物化、従わぬ者の暗殺。第一王子ユアノと正妃キア姫、第二皇子シアンの名においてここにて告発する。捕らえよ」
 王子の声は冷たく、有無をも言わさぬ強さを持つ。
「ふざけるな! 妾腹の半奴隷が! 私が正統な王位継承者だ!」
 第一王子は剣を抜き、王妃は口を歪め、怒りと恐怖を露わにする。

カキィィィィン
 
 剣と剣がぶつかり、火花が飛び散る。
 傀儡兵は二人を護る兵士達に槍や剣を容赦なく討つ。俺は陰から彼等を操り、ゼノを援護する。
 第一王子は剣をゼノに振り下ろし、ゼノがそれを受ける。
「お前は……私の計画を潰すのか! 何年もかけて築き上げてきたこの私の計画を!」
「兄上も私が築き上げてきた人生を足蹴にしただろう」
 ゼノは一歩も引かず、鋭く剣を突き返す。刃が離れた瞬間、第一王子は刃を真横から振り回す。ゼノは僅かにバランスを崩すが、 流れるように右肘を兄の顔に叩き込む。そしてためらう事なく、王子の腹に凶器を沈める。
「きぃっ……やぁあああああ!」
 王妃の絶叫が廊下に響き渡る。
 悲鳴で部屋にいた俺の傀儡兵は攻め入ってきた廊下にいた敵兵を一人一人と斬っていく。
 王妃は短刀を握り締めてゼノに斬りかかろうとする。彼は軽く長剣を一振りし、彼女の短刀を払う。そして刃先を彼女の喉元に突き付ける。
「大人しくしろ、裏切り者」

ガッチャァアン
 
「ぅうっ、ぅっ、ユアノ、ユアノっ!」
 王妃は嗚咽を漏らし、短刀を落とす。
「逃げないように拘束をしろ」
 傀儡兵は床に崩れ落ちた王妃を掴む。第一王子が息途絶えたのを確認してからゼノは王妃を冷たく見下ろす。
「第三皇子はどこにいる?」
 氷のような視線に震えながらも王妃は涙を流し、睨み返す。
「あなたなんかに……、あなたなんかに、絶対に、教えないわ!」
「……そうか」
 ゼノは彼女をそれ以上問い詰めずに部屋を出る。俺は傀儡へをそこに残し、再びゼノの影を追う。
「……あとは、母上と王のみ」
 そして彼は一部屋の前で足を止める。王の部屋に一番近かいのは彼の母の部屋だ。
 ゼノは頑丈そうな部屋の扉を破る。足がドアに衝突する寸前に彼の脚力を上げて力を引き出す。

バキッ キィィィィィ……

 ロックの鍵が壊れ、ドアが開く。
 美しい女性が震えながらも立ち上がる。ゼノのあのエメラルドの瞳は彼女から貰ったものだ。綺麗で意思が強い瞳だ。彼女の横には年老いて小さくなった王が座っている。手も骨ばり、王としての威厳はもうない。
「貴様……息子の分際で父に盾突くのか⁉」
「そうよ、シアン! 私達、ずっとあなたの安全を心配していたのよ! 無事だったのならば、何故知らせてくれなかったの?」
「二度目の暗殺を遂行する為にか?」
「な……何を……」
 ゼノによく似た美しい顔が驚愕と恐怖で歪む。青褪めても綺麗だ。一国の王を虜にしただけはある。
「シアン……止めて……いつもの優しいシアンに戻って。ママを怖がらせないで……」
「王。国民の為ならず私欲の為に王座を利用し、国民と国に重度の損失と打撃を与えてきた罪は重い。王位の剥奪、そして死刑を宣告する」
「な……何、を……」
「そうよ、シアン……。あなたの父親よ……」
「母上……、そなたも、もう終わりだ。王位継承権のある第二王子を暗殺しようとした罪は重い。第二皇子シアンの名の元、死刑を宣告する」
 王子の声は冷たく、死刑の宣告を下す声に迷いはない。
 シアンの母上は叫び、机や椅子を押し倒しながら王子に飛びかかろうとする。
 だがゼノは一歩も引かず、剣を横に構える。
「貴女の愛を、ずっと……信じていた……」
「やめ……!」
 彼女の声は嗚咽に変わる。
「母上。もう……これ以上、貴女に私を殺させない」
 王子は静かに、しかし真っ直ぐ剣を自分の母に向ける。彼女の抵抗が鈍る。
 王はその二人の様子を横で眺めていたが自分の息子の強い視線が自分に向くと悲鳴を上げながら後退る。
「王、今ここで私に斬られるか、国民の前で斬首されるかを選べ」
「……そんなの……そんなの、どちらも選べる訳ないであろう!」
 王は悲鳴を上げるように叫び、背後で握り締めていた短刀を抜く。優雅な装飾の付いた、実用性よりも見せる為の短刀だ。ゼノは冷静に長剣を構え、その短刀をいとも簡単に王の震える手から薙ぎ払う。
「死を以て国民に詫びろ」
 ゼノは静かにと王の喉元をその剣で撫でる。王の目は驚愕に見開き、声なく喉を掻きむしる。
 そしてゆっくりと真っ赤で柔らかそうな絨毯へと崩れ落ちる。
「……ジーク」
 俺は無言で見守っていた影から傀儡兵を部屋に踏み込ませる。シアン王子の暗殺の黒幕を拘束し、王の死を確認する。
 意識を上空を飛んでいるタッピーへと移し、城内の残党を探す。
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