犯人はこいつです!〜足りないのは動機と証拠とアリバイと〜

高前タルソン

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第一章

出会い

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山ノ井冬香は寝坊した。
ベッドの上で頭をかきながら考え込む。
真夜中までの聞き込み。少しやりすぎたか。
昨日は正直なところ何も手がかりは掴めなかった。
(刑事になってもう10年だ。いつもこんな感じだな・・・私、むいてないのかもしれないな)
冬香は首を振る。
「いや、やめやめ。ネガティブはだめだ!」冬香は両手で自分の両頬をパンと叩き立ち上がった。

(今日は事務処理、それから被害者の家だ。)歯を磨きながら冬香は考える。
顔を洗った後、いつものスーツに着替え、玄関を出るまで実に10分。化粧など触ってすらいない。
とにかく時間が欲しい。寝坊しておいて考えることでもないが。冬香はそんなことを考えながら駅に向かう。


「たぶんこの辺のはず・・・」冬香は被害者である須本冴子の家を探している。九月とはいえまだまだ暑い。上着を脇に抱え、住宅街の坂道を登っていく。スマートフォンの地図アプリはすぐ目の前の二階建ての家を指し示している。
(ん?誰かいる?)
須本家の前で、高校生らしき男子が三人談笑をしている。もちろん冬香に面識はない。
(高校生?制服も着てるし、なんの用だろう?)刑事の性か、冬香は近寄らずに一度身を隠すことにした。


正太郎はチャイムを押した。家の中で呼び出し音
が鳴っているのを確認できる。少し待ったが反応はない。もう一度押してみる。
「留守か・・・」正太郎は残念そうにつぶやく。
「そういうこともあるよな。ていうか、人生ってこういうことの方が多いよな」猫田がいつものように能天気に言う。
「正太郎、どうすんだ?待ってみるか?」林が問い掛ける。
「出直そう。マモル悪いな、付き合ってもらったのに。」
「えっ?俺は?」猫田が驚いたような顔をする。
「お前は勝手についてきたんじゃん」正太郎は笑いながら言う。そして三人とも大笑い。
「ところでさ、被害者の家族に何を聞くつもりだったのさ?」と、猫田。
「うん、吉田麗という女性を知っているか?または被害者は知っていたか?」
「なるほど。真犯人のうららちゃんと亡くなった須本さんが知り合いならただの事故ではなくなると。そういうこと?」
「うん。そういうこと。」正太郎はうなづく。


(今、吉田麗と言ったか?なぜ高校生が田村の恋人の名を・・・?)
隠れて三人の様子を見ていた冬香はかなり驚いていた。
(話を聞かないわけにはいかないな)冬香は三人の前に向かう。

「ねえ。」
「?」知らぬ女に声をかけられ、三人はその人物に振り向く。
「な、なんですか?」猫田が答える。
「今、吉田麗と聞こえたんだけど・・・。なぜあなたたちがその名前を知ってるの?」
三人は目を合わせる。唐突だが確信をつく質問にどう答えたらいいかわからないのだ。しばしの沈黙の後、やがて正太郎が口を開く。
「あの・・・あなたは誰ですか?その質問にはお答えしなければいけませんか?」
「あ、ごめんなさい。驚かせたか。そりゃそうよね、高校生だもんね。」冬香はお尻のポケットから警察手帳を出して三人に見せる。
「私は山ノ井冬香。S県警の刑事です。今、ある事件の調査中で聞き込みを続けています。ご協力をお願いできますか?」
「刑事!初めて見た!」
猫田、そこかよ?と心の中で思いながら、正太郎は口を開いた。
「はい。吉田麗はうちの学校の教師です。」
「なるほど!」探す手間が省けた。
「真犯人、ということも言ってたわよね?どういうこと?」
こいつ、どこかで聞いてたな?正太郎は穿った目で、目の前の刑事を睨む。
「ごめん、フェアじゃないね。実は盗み聞きしてました。刑事のくせで。ごめんなさい」冬香は頭を下げる。
「刑事さん、調査してんのは例の交通事故?うららちゃんを疑ってんの?日本の警察は優秀だな!」猫田が好奇心をむき出しにしている。
(おいおい、猫田)正太郎は頭を抱える。
「え?なぜそう思うの?まさか、あなたたちもその事件を?それになぜ吉田麗が真犯人などと言ったの?もしかして、目撃者?」冬香は頭が混乱する。
「刑事さん、落ち着いてください。」
「いや、ごめんなさい。落ち着けない。」冬香は額の汗をぬぐい、深く息を吸って吐いた

この刑事に何をどこまで話すべきだろうか。正太郎は考える。真犯人という言葉と吉田麗の名前まで聞かれてしまったのだ。もう適当な言い訳では帰してくれないだろう。かと言って、自分の能力のことを話しても信じてくれるわけがない。
いや、いっそのこと打ち明けてみようか。馬鹿にされたならされたでそれまでのことだ。
マモルにも聞かれてしまうが、大丈夫だと思う。マモルは信用できる男だ。
正太郎は決心をした。

「刑事さん、実は・・・」正太郎は言葉を探しながら、ゆっくりと話し始めた。

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