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第一章
討伐
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音のした場所では、魔導馬車が1台横転し、周囲に犬の魔物が彷徨いていた。
「グルルルル……」
飢餓状態だ。
ここのところ何も口にしていなかったのだろう。涎を口から垂らし、馬車から餌が出てくるのを今か今かと待っている。
「馬車から出ないで下さい!」
ルクは大声を出して警戒を呼びかける。それに魔物の気を引く目的もある。案の定、魔物はこちらに気づく。
「貴女は、下がってて下さい!私が片付けます!」
丸腰だから、戦えないと判断されたのだろう。まあ、クリネの実力を知るいい機会であると考え、ルクは素直に下がる。
クリネは腰から剣を抜く。鈍い銀の刀身はよく鍛えられているのが素人目でもわかった。
初めて見る構えで魔物と対峙するクリネ。互いに隙を窺う。一瞬で決着がつく。気を抜いた方の負けだ。
「フッ!」
「グッ!」
人間離れした速度で、攻撃を仕掛ける。魔物はその速さに驚き、体が僅かに硬直する。直ぐに姿勢を立て直すが、時既に遅し。
肉薄したクリネが洗練された突きを放つ。
脳天を狙い、放たれた一撃は分厚い魔物の皮膚を貫通する。
剣を引き抜くと、声も出さず犬は倒れ込む。
「「「「おおっ!」」」」
どうやら馬車の陰からみて見ていた商人たちが歓声を上げる。
「大切な商品を守って頂き有難う御座いました。」
「護衛の方はどうされたんですか?」
クリネが不思議そうに尋ねる。
確かに言われてみれば、こんな場所を横断するというのに護衛の姿が一切見えない。
「お恥ずかしい話なのですが……私達は商売を始めたばかりで護衛を雇うお金がないの無いのですよ……」
とリーダー格らしき青年は力なく笑う。
ルクはチラリとクリネの方に目をやる。すると彼女はルクの言わんとすることが分かったのか、頷く。それを確認すると、
「分かりました。僕達が護衛を引き受けます」
「こ、困ります!先程も言ったように…」
「いや、報酬は要らないですよ」
「ええっ!?」
ここで金を貰ったらそれまでだが、貰わなければ、コネと貸しを作れる。この2つは簡単に金では買えない。よっぽどこちらの方がいい、とルクは考えていた。
その後、ルク一行は地方国家ベセノムに到着した。ベセノムは高い魔鋼製の城壁に囲まれていた。
商人たちとクリネとのおかげで入国はスムーズに済んだ。ルクは、パスポートが要るのかと焦ったが、それは杞憂に終わった。名前と年齢と出身地を聴かれただけだった。出身地以外は嘘偽りなく答えた。
「この国は、他の国に比べて出入国し易いんですよ。どうやら人をとにかく集めたいみたいで」
とは、助けた商人のリーダー格、アキマークからの説明だ。何故人を集めたいかは分からないと言っていたが。
無事にベセノムに入ることが出来た。2人はアキマーク一行と別れ、ベセノムの中心街を歩いていた。地方とはいえ、さすが中心街。高いビルが乱立し、至る所に電車や魔導車が走っている。この都市独特の騒音や景観はルクにとっては、初めてのものだった。
「へぇ、ルクさんってアズノベルト出身だったんですね」
「うん。まぁ、産まれたら直ぐに色んな所に旅をしてるんだけどね」
そう言っておかないと嘘がバレる危険が高まるとルクは考えていた。
万が一、この北東地域最大の国であるアズノベルトに行くことがあった時に困る。
つまり、旅をしていると言っていた方が都合がいいのだ。
「私も行きたいなぁ、旅」
「じゃあ、行きましょうよ」
「え?」
突然の提案に驚くクリネ。
「だって、すごい行きたそうですもん」
「で、でも…」
「ハンターの仕事が忙しいと」
ルクは彼女の気持ちを先読みする。すると、クリネは気まずそうに頷く。
「だったら……」
「だったら?」
「僕も貴女を手伝いますよ」
「ええっ!?」
先程の何倍も驚くクリネ。そして直ぐに
「……お気持ちはありがたいですが、そんな急にはハンターにはなれないんですよ…」
ハンターと聞くと、荒っぽい無法者の成れの果てのイメージがあるかもしれない。
だが、この世界においてそれは間違いである。
狩猟協会というものがある。本部は大王国に位置し、各国家に支部がある。ハンターへの仕事の斡旋が主な業務である。戦争が勃発した際には、上級ハンター達を招集したりする。
そしてこの組合は国家から認められた独立組織である。つまり、ハンターはれっきとした職業なのである。ただ、ほかの職と比べると危険度が遥かに高いので、人気がないというだけで。
ハンターになりたければ、それ相応の手続きを踏む必要があるのだ。履歴書はもちろんのこと、筆記や実技の試験など一般企業と変わらない審査を受ける。
合格後、長い研修期間を経て、ようやくハンターになれる。
「そして、晴れてハンターになったとしても、初めのうちは先輩の荷物持ちなどをやらされるんです」
「なんか、会社みたいですね」
「そうですね。人の命がかかってるから、おいそれとハンターにさせる訳には行かないみたいらしくて」
ルクは、暫く沈黙した後、口を開く。
「ハンターに簡単になれないことは分かりました」
「なら、すみませんが…」
「僕に案があります。1日だけ猶予をください」
「い、いいですけど。何をするつもりなんですか?」
「内緒です」
笑いながらルクは言った。クリネは、何故だか嫌な予感がするのであった。
クリネが思案顔でいても、ルクはニコニコしたままだった。
「グルルルル……」
飢餓状態だ。
ここのところ何も口にしていなかったのだろう。涎を口から垂らし、馬車から餌が出てくるのを今か今かと待っている。
「馬車から出ないで下さい!」
ルクは大声を出して警戒を呼びかける。それに魔物の気を引く目的もある。案の定、魔物はこちらに気づく。
「貴女は、下がってて下さい!私が片付けます!」
丸腰だから、戦えないと判断されたのだろう。まあ、クリネの実力を知るいい機会であると考え、ルクは素直に下がる。
クリネは腰から剣を抜く。鈍い銀の刀身はよく鍛えられているのが素人目でもわかった。
初めて見る構えで魔物と対峙するクリネ。互いに隙を窺う。一瞬で決着がつく。気を抜いた方の負けだ。
「フッ!」
「グッ!」
人間離れした速度で、攻撃を仕掛ける。魔物はその速さに驚き、体が僅かに硬直する。直ぐに姿勢を立て直すが、時既に遅し。
肉薄したクリネが洗練された突きを放つ。
脳天を狙い、放たれた一撃は分厚い魔物の皮膚を貫通する。
剣を引き抜くと、声も出さず犬は倒れ込む。
「「「「おおっ!」」」」
どうやら馬車の陰からみて見ていた商人たちが歓声を上げる。
「大切な商品を守って頂き有難う御座いました。」
「護衛の方はどうされたんですか?」
クリネが不思議そうに尋ねる。
確かに言われてみれば、こんな場所を横断するというのに護衛の姿が一切見えない。
「お恥ずかしい話なのですが……私達は商売を始めたばかりで護衛を雇うお金がないの無いのですよ……」
とリーダー格らしき青年は力なく笑う。
ルクはチラリとクリネの方に目をやる。すると彼女はルクの言わんとすることが分かったのか、頷く。それを確認すると、
「分かりました。僕達が護衛を引き受けます」
「こ、困ります!先程も言ったように…」
「いや、報酬は要らないですよ」
「ええっ!?」
ここで金を貰ったらそれまでだが、貰わなければ、コネと貸しを作れる。この2つは簡単に金では買えない。よっぽどこちらの方がいい、とルクは考えていた。
その後、ルク一行は地方国家ベセノムに到着した。ベセノムは高い魔鋼製の城壁に囲まれていた。
商人たちとクリネとのおかげで入国はスムーズに済んだ。ルクは、パスポートが要るのかと焦ったが、それは杞憂に終わった。名前と年齢と出身地を聴かれただけだった。出身地以外は嘘偽りなく答えた。
「この国は、他の国に比べて出入国し易いんですよ。どうやら人をとにかく集めたいみたいで」
とは、助けた商人のリーダー格、アキマークからの説明だ。何故人を集めたいかは分からないと言っていたが。
無事にベセノムに入ることが出来た。2人はアキマーク一行と別れ、ベセノムの中心街を歩いていた。地方とはいえ、さすが中心街。高いビルが乱立し、至る所に電車や魔導車が走っている。この都市独特の騒音や景観はルクにとっては、初めてのものだった。
「へぇ、ルクさんってアズノベルト出身だったんですね」
「うん。まぁ、産まれたら直ぐに色んな所に旅をしてるんだけどね」
そう言っておかないと嘘がバレる危険が高まるとルクは考えていた。
万が一、この北東地域最大の国であるアズノベルトに行くことがあった時に困る。
つまり、旅をしていると言っていた方が都合がいいのだ。
「私も行きたいなぁ、旅」
「じゃあ、行きましょうよ」
「え?」
突然の提案に驚くクリネ。
「だって、すごい行きたそうですもん」
「で、でも…」
「ハンターの仕事が忙しいと」
ルクは彼女の気持ちを先読みする。すると、クリネは気まずそうに頷く。
「だったら……」
「だったら?」
「僕も貴女を手伝いますよ」
「ええっ!?」
先程の何倍も驚くクリネ。そして直ぐに
「……お気持ちはありがたいですが、そんな急にはハンターにはなれないんですよ…」
ハンターと聞くと、荒っぽい無法者の成れの果てのイメージがあるかもしれない。
だが、この世界においてそれは間違いである。
狩猟協会というものがある。本部は大王国に位置し、各国家に支部がある。ハンターへの仕事の斡旋が主な業務である。戦争が勃発した際には、上級ハンター達を招集したりする。
そしてこの組合は国家から認められた独立組織である。つまり、ハンターはれっきとした職業なのである。ただ、ほかの職と比べると危険度が遥かに高いので、人気がないというだけで。
ハンターになりたければ、それ相応の手続きを踏む必要があるのだ。履歴書はもちろんのこと、筆記や実技の試験など一般企業と変わらない審査を受ける。
合格後、長い研修期間を経て、ようやくハンターになれる。
「そして、晴れてハンターになったとしても、初めのうちは先輩の荷物持ちなどをやらされるんです」
「なんか、会社みたいですね」
「そうですね。人の命がかかってるから、おいそれとハンターにさせる訳には行かないみたいらしくて」
ルクは、暫く沈黙した後、口を開く。
「ハンターに簡単になれないことは分かりました」
「なら、すみませんが…」
「僕に案があります。1日だけ猶予をください」
「い、いいですけど。何をするつもりなんですか?」
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笑いながらルクは言った。クリネは、何故だか嫌な予感がするのであった。
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