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天正3年
第七十五話 愛染明王vs不動明王
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「ほっほ、遂に覚醒たわね。
ならば私も応えねばなるまいよ」
そう言って空に浮かぶ顔が言い、
「全諸金剛礼拝憤怒尊砕破」
と言う真言を唱えてそこに現れたのは竜の巻きついた剣を持つ仏。
それこそは、
「不動……」
「明王っ!?」
長雲と銀ちゃんが同時に声をあげる。
不動明王は数ある仏の中でも最上級と言われる明王だ。もちろん格上だから強いと言う訳では必ずしもないが。
不動明王の示すものは生死即涅槃。
生死を離れて涅槃はなく、涅槃を離れて生死もない。
それに対して愛染明王の示すものは
煩悩即菩提。
煩悩を離れて菩薩はなく、菩薩を離れて煩悩もない。
とまあ自分でもよく分からない事を言い始めたが、今の私はお市であってお市ではなく、半分は仏が憑依している、そんな状態である。
きっと対面してる母、不動明王の土田御前も同じ感じなのだろう。
不動明王を目の前に、頭の上の獅子の冠、通称獅子吼が本物の獅子に変化して相手に襲い掛かる。
と、不動明王も手にした剣の竜を具現化して、獅子と竜が相殺され消滅する。
続いて愛染明王はその六本の腕のうち四本で相手に掴み掛かろうとするが、二本しかない不動明王の腕が、物凄い怪力を発揮してそれらを全て防ぐ。
しかし愛染明王の残りの腕には弓と矢。
それを番て標的を定めるが、不動の剣がひとりでに動いて、その矢を寸断する。
かくして明王同士の戦いはほぼ互角の勝負となり、決着がつかない状況が続いていたが。
「|オン・マユラキランティ・ソワカ!」
「帰命奉甘露尊祓浄」
先程まで気絶していたお犬、そして吉乃が続けて真言を唱えてその体が光に包まれ……
お犬は四本の腕を持ち孔雀に乗った孔雀明王、
吉乃は八つの腕に蛇を巻きつけ、三つの目を持つ軍荼利明王にそれぞれ化身した。
「くっ、流石に一体三では分が悪い。
ここは退散するとしよう!」
そう言って不動明王は大きく飛翔し、
「ちょっと待った!」
と言う私の静止も聞かずに空の中に消えた。
と同時に、雲一つない青が天空を支配した。
逃げられたか……。
と思った瞬間、私は意識が遠くなるのを感じて元の人間の姿に戻っていて……
「イチ?おい、お市」
近くでそんな声がして目を開けると、そこには心配そうに私の顔を覗き込む銀ちゃん、長雲、そして吉乃とお犬の顔が。
どうも私はまた気を失ってしまったようだが、私の体が城に運ばれていない所を見ると、さほど時間は経っていないようでもあった。
そして。
「……ひいいいっ」
と腰を抜かして怯えた表情の、長門守代、内藤。
そりゃまあねえ、あの仏同士の争いを見ちゃったらそうなるか。
ならば私も応えねばなるまいよ」
そう言って空に浮かぶ顔が言い、
「全諸金剛礼拝憤怒尊砕破」
と言う真言を唱えてそこに現れたのは竜の巻きついた剣を持つ仏。
それこそは、
「不動……」
「明王っ!?」
長雲と銀ちゃんが同時に声をあげる。
不動明王は数ある仏の中でも最上級と言われる明王だ。もちろん格上だから強いと言う訳では必ずしもないが。
不動明王の示すものは生死即涅槃。
生死を離れて涅槃はなく、涅槃を離れて生死もない。
それに対して愛染明王の示すものは
煩悩即菩提。
煩悩を離れて菩薩はなく、菩薩を離れて煩悩もない。
とまあ自分でもよく分からない事を言い始めたが、今の私はお市であってお市ではなく、半分は仏が憑依している、そんな状態である。
きっと対面してる母、不動明王の土田御前も同じ感じなのだろう。
不動明王を目の前に、頭の上の獅子の冠、通称獅子吼が本物の獅子に変化して相手に襲い掛かる。
と、不動明王も手にした剣の竜を具現化して、獅子と竜が相殺され消滅する。
続いて愛染明王はその六本の腕のうち四本で相手に掴み掛かろうとするが、二本しかない不動明王の腕が、物凄い怪力を発揮してそれらを全て防ぐ。
しかし愛染明王の残りの腕には弓と矢。
それを番て標的を定めるが、不動の剣がひとりでに動いて、その矢を寸断する。
かくして明王同士の戦いはほぼ互角の勝負となり、決着がつかない状況が続いていたが。
「|オン・マユラキランティ・ソワカ!」
「帰命奉甘露尊祓浄」
先程まで気絶していたお犬、そして吉乃が続けて真言を唱えてその体が光に包まれ……
お犬は四本の腕を持ち孔雀に乗った孔雀明王、
吉乃は八つの腕に蛇を巻きつけ、三つの目を持つ軍荼利明王にそれぞれ化身した。
「くっ、流石に一体三では分が悪い。
ここは退散するとしよう!」
そう言って不動明王は大きく飛翔し、
「ちょっと待った!」
と言う私の静止も聞かずに空の中に消えた。
と同時に、雲一つない青が天空を支配した。
逃げられたか……。
と思った瞬間、私は意識が遠くなるのを感じて元の人間の姿に戻っていて……
「イチ?おい、お市」
近くでそんな声がして目を開けると、そこには心配そうに私の顔を覗き込む銀ちゃん、長雲、そして吉乃とお犬の顔が。
どうも私はまた気を失ってしまったようだが、私の体が城に運ばれていない所を見ると、さほど時間は経っていないようでもあった。
そして。
「……ひいいいっ」
と腰を抜かして怯えた表情の、長門守代、内藤。
そりゃまあねえ、あの仏同士の争いを見ちゃったらそうなるか。
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