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天正3年

第七十七話 槇島城の戦い 中編

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 私はお市。
 兄の信長が現在幕府軍と戦闘中であるが、殺しても死なない不死の兵隊に苦戦中である。

 さて、どうしたものかと思っていると。

「お困りかな?」

 と声がしてその方を向くと、そこにいたのは着ている服が黒基調で肩口から見える衣のみ白の陰陽師。

 彼は、確か以前キリシタン陰陽師のマノエルと一緒に会ったことがある。ええと名前は確か土御門……

土御門つちみかど  有脩ありながだよ。
 豊後ではマノエルと会ったらしいね、彼から手紙を貰ったよ」

 えっ?
 ええまあ、向こうで色々ありまして。

「ああ、紹介するよ。こちらが息子の」
 勘解由小路かでのこうじ在綱あきつなです」

 と自己紹介したのは白基調で肩口から見える衣が黒の陰陽師。

 見た目は確かに親子なのだが苗字も服も違う二人。
 勘解由小路ってそもそも、マノエルの苗字だった気がする。

「実は一人息子のマノエルが出て行った事で勘解由小路家の跡取りが居なくなってね、うちの息子を勘解由小路の養子に出したんだ」
 と父の土御門。

 ああ、だからマノエルみたいな白の服を着てるのか。

「そして勘解由小路家は代々妖や不死の異形を祓う家系でね、この手の類に詳しい」
「と言うよりもですね、ぜひお市様には知って頂きたい存在というか黒幕が」
 父と息子の在綱くんが交互にそう説明する。

 ああ、やっぱりいたのか。
 不死の兵隊に関しては、土田御前とは別の糸を引いている者がいると思っていたよ。

「これには日本でキリスト教を布教しているイエスズ会が関わっています」


 うん?
 キリスト教は確かに仏教と違って異端の宗教だが、むしろ悪魔祓いが主で不死の兵隊は真逆の存在だと思うんだが。

「例えばですけど、お市様。
 ある村に不死の魔物が現れて、それをキリスト教の信徒がやってきて退治したら、その村から感謝されて布教しやすくなりますよね」

 ああ、そう言う事か。
 別働隊で不死兵を操る死霊使いを先行させて、本隊はそれを浄化して布教すると。
 いや、何と言う自作自演。

「そして別働隊は気づいてしまうのです。
 いやこれ、別に本体にくっつくよりむしろ、自分らで動けば戦国日本を牛耳れるぞ」

 あー、そう言う事か全て理解した。
 ちなみに在綱くん、その黒幕の親玉も判明してるの?

「はい。不死隊の総大将はアンジェロと呼ばれていて本名は弥次郎ヤジロウ
 日本で殺人を犯して海外逃亡し、 馬來マラヤ(マレーシア)でイエスズ会と出会います。
 その後印度インド臥亜ゴアで洗礼を受け、恐らくはこの時期に死霊術を会得しています」

 アンジェロね……母の土田御前に加えて、また厄介な相手の存在を知ってしまったもんだ。

「でも悪い話ばかりではないですよ、お市様」
 と胸を張る在綱くん。

「そのために父や私が来たのです!」





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