秋月の鬼

凪子

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三、

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予測通り、常盤達が案内されたのは城の内殿ではなく、外堀の中にある離れの建物だった。

賓客を招いた際の宿泊場所を兼ねているらしく、広さは常盤の家の何倍もある。

靴を脱いで座敷に上がると、見事な透かし彫りのされた欄間から、屹立する天守閣の様子が目に入る。

天上には黒雲を纏い修羅のような形相でこちらを睨みつける龍。

丸柱や欄干、渡された梁の一つ一つは丹色か黒色あるいは釉薬の碧に塗られ、細工がなされ、畳は今にも藺草の匂い立つような新品同然のものだった。

夕霧は、自分の肩ほども背丈のない少女を見つめる。

他国の客分でさえ気後れを禁じえないこの場所で、常盤は驚くほど落ちついていた。

今にも描かれた虎が飛び出してきそうな衝立を抜け、錦の几帳を通り、金箔の貼られた襖を開けると、華々しい女の園が広がっていた。

その数ざっと百人といったところか。焚きしめた香が混ざり合い、恍惚とするほどの芳しい薫りとなって鼻腔をくすぐる。

ひしめき合って座る女子の着物が彩なす様子は、さながら絵巻物の世界であった。

「ここが控えの間である」

と従者は言った。

入室した常盤と夕霧に、容赦ない視線がいくつも飛び、肌に突き刺さってくる。

さすがの夕霧も緊張した面持ちで、言葉もなくその場に座りこむと、落ちつかなげに視線を彷徨わせている。

常盤は取り澄ました面持ちで部屋のぐるりを観察すると、音もなく静かに部屋の隅に腰を下ろした。

遊廓という女の牙城にあってなお身のすくむ思いがするというのに、常盤の感じている緊張はいかほどのものだろう。

夕霧はちらりと横目で常盤を窺う。

ぼろの襦袢をまとい、ろくに紅も差していない常盤は、見るからに闖入者であった。

明らかに周囲の光景から浮いている。

そんな常盤の傍に、ずかずかと足を踏み鳴らして寄ってくる人影があった。

猫の子にするように、いきなり襟首を掴まれる。

見上げれば、美しい眉を刷いた顔を怒りに紅潮させ、あわせの上に豪奢な打掛を羽織った姫君らしき少女が立っていた。
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