秋月の鬼

凪子

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四、

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通されたのは離れにある建物のさらに北郭、いくつもの部屋が整然と並び、先ほどと違って華美な装飾は一切施されておらず、家具や調度品もない殺風景な部屋だった。

およそ二十畳の広間に五人ずつが無造作に割り振られ、布団が運び込まれる。

常盤にとっては合部屋の宿屋に泊まるのと変わらないが、高貴な身分の方々にとっては、見も知らぬ人間と同室で過ごすなど考えられないことであるに違いなかった。

文句や不満がひとしきり述べられたが、案内人である彼らは眉ひとつ動かさず、

「ならばお引き取りいただこう。我々はそれで全く構わない」

頑強な態度は、主君の意向を反映していることに相違なかった。

「何を考えているのかね、若様は。仮にも自分の嫁を探そうって時に、こんな窮屈な部屋に私らを閉じ込めて」

運よく同室になることができた夕霧が、憤懣やるかたないといった調子で毒づいた。

「階段の上にも同じように部屋が広がっているのでしょうか」

「恐らくそうだろう。東西南北に同じ形の離れがある。ざっと見積もって五十は同じような造りの部屋があるようだ」

まるで宿屋だよと夕霧は言った。

「試練は明日、中央の飛龍の間にて知らせる。それまでゆるりとされるがよかろう」

常盤を除いた誰もが、白い目で案内人の男を見つめる。

食事は御膳で出され、共同だが大湯殿がついている。湯浴みも自由にできるというわけだ。

井戸水や河で体を清め、ろくに湯浴みをしたこともない常盤にとっては、温かい湯を使え、食べるものに不自由せず、柔らかな布団にくるまって眠れるというだけで天国のようだった。

座って行李から書物を取り出し読み始めると、

「へえ。墨子じゃないか。あんた漢籍が読めるのかい?」

夕霧が驚いたように目を見張っている。

常盤は頷いた。

「都の生まれじゃないだろう?学塾にでも通ったのかい」

「私は暮里村の生まれでございます。父が昔、白鴎の真田塾で書生をしておりましたので、書物や知識は父から与えられました」

「真田塾」

夕霧は唇を湿して、親指の爪を噛んだ。

記憶の底をさらい、その名を思い出す。

確かそれは、他国にも轟く高名な学府ではなかったか。
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