秋月の鬼

凪子

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五、

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ご家老は常盤を見ても何ら咎めることはなかった。

恐らく容認したわけではなく、取るに足らないと黙殺したのであろうが。

どちらにせよ、つまみ出されないのなら、ここにいる資格があると思っていいのだろう。

飛龍の間は、どうやら茶室であるようだった。

無論、全員が入ることができるわけもなく、候補者たちは五名ずつ入室して試練を受けることになり、残りの者は手前の控えの間にて待たされることとなった。

『第一の試練はお茶』。

そう察して、候補者たちの緊張はゆるんだ。

目上の者の前で茶を点てることなど、姫君であれば朝飯前のこと。頻繁に経験していて当然である。

ご家老の言葉に、どれほど厳しい難関が待ち受けているのであろうかと身構えていた彼女らの間に、肩すかしを食ったような雰囲気が流れた。

自然、控えの間では盛んなお喋りに花が咲く。

「ああ!」

夕霧が常盤と話していると、大声を上げて割って入った者があった。

彼女は常盤を押し退けるようにして、

「姐さん!夕霧姐さんじゃありませんか」

濃い紫に金の装飾のなされたとても派手な大袖を肩の辺りまでだらしなくはだけて、腰の前で赤帯をゆるく結んでいる。

一見して遊女であると分かった。

辺りを憚らぬ大声に、姫君たちからは冷ややかな視線が注がれる。夕霧は閉口した。

だがその遊女は、すり寄るように夕霧に追いすがり、

「わっちです。末乃でありんすよう」

甘ったるい声に鳥肌が立った。

誰かれ構わず媚を売る賎しさには、気品も品格も微塵も感じられない。

常盤は眉を寄せた。

「……まさか、こんなところで会うとはね」

夕霧は硬い表情のまま、おざなりな返事をした。

末乃は自分が浮いていることに気づいていないのか頓着しないのか、夕霧の両手を握り締めて熱っぽく語る。

「ええ、ええ、本当に。わっちも扇屋を辞めてここに来たんでありんす。夕霧姐さんまでここにいなさるとは思いもしんせんした。堪忍しておくれやす」

「構わないよ。芳野を辞めた遊女が何をしようと自由さ」

「ありがとうござんす。とは言え、わっちなど姐さんの足元にも及ばぬ器量ゆえ、もう諦めました。自分の身は重々弁えております。どうか上様のご正室になられても、この末乃のことをお忘れにならないでくださいませ」

郭言葉と普通の言葉が混じった気持ちの悪い言葉遣いをする末乃に、夕霧は苛立ったように眉間にくっきりと皺を刻んだ。

――芳野の里の面汚しが。

そう思っているのがありありと分かる。

末乃は夕霧の召し物や髪を褒め称えた後、自分がどれほど遊廓一の花魁を尊崇してきたかを切々と訴え、徹頭徹尾常盤を無視したたま、そそくさと姿を消した。

「とんだ災難だよ。不出来な浮かれ女のせいで、赤っ恥を掻かされた」

苦々しく毒づいた夕霧に、常盤は苦笑してみせた。

遊女上がりがと蔑んだ容花や他の姫君たちにとっては、芳野一の花魁も、今の低俗な遊女も、同じものに映るのだろう。

夕霧の哀しみが伝わってくるような気がして、常盤はそっと彼女の手を取った。
































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