秋月の鬼

凪子

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五、

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「おはようございます」

城仕えのはしためが、朝食に黒塗りの御膳を五つ運んできた。

布団は綺麗に畳まれて箪笥にしまわれる。

今まで自分のことは全て自分でしてきた常盤にとって、格別な厚遇に思われた。

だが他の姫君たちは、文字どおり箸より重いものは持ったことのない身、何もかも人任せで、独りでは湯浴み一つできないことに常盤は驚かされていた。

白米に、茸と山菜のお吸い物、焼き魚と、芋や野菜の煮物、青菜の煮浸し、漬物にだし巻き卵。

これほど多くの品が食卓に並んだことはなく、目をみはる。

ほくほくと湯気を上げているのを見つめ、思わず喉を鳴らした。

贅沢な食事を噛みしめるようにして味わう。

真覚が特に驚いたり感激していない様子を見ると、彼女にさえこの程度の食事は標準的なものなのだろう。

――これが、農村と都の差か。

恵まれた暮らしを当然のように享受する者がいる一方で、その残飯にすらありつけず飢えと渇きに倒れる者がいる。

見知らぬ人間の気配と緊張に眠れなかったのか、夕霧や清子の疲労の色は濃い。

容花も箸の進みが遅いように思われた。

ぐっすりと安眠し、食事をぺろりとたいらげているのは常盤だけだ。

食事中も誰ひとり口を開かず、重苦しい沈黙が肩の辺りでわだかまっている。

これが貴族や武家の姫君たちにとっての日常なのかと思うと、常盤は同情を禁じえなかった。

何かを聞かれたり言われたりするまでは、決して口を開かないことがたしなみなのだとしても。

候補者の姫たちが召使や家来に運ばせた大量の荷物は、別室に安置されている。

お召し替えともなれば、そちらに足を運び、衣装方が五、六人がかりで帯を締め、髪を結う。

衣装も装束も持ってきていない常盤といえば、その間できるのは部屋でぼんやりすることだけだ。

着替えた服を洗濯に出せば、婢にさえ顔をしかめられる始末。

ようやく準備が整うと、また使いの者が呼びに来て、飛龍の間へと案内された。

盛装した姫や令嬢が、楚々と居並びしゃらりしゃらりと髪飾りの音を立てながら歩いていく様子は、壮麗たる眺めであった。

くゆらせた香に白粉の薫りが混ざりあう。

長い髪は結わずに垂らす者もあれば、きりりと結い上げる者もいた。

姫たちの行列に混ざって歩く常盤の様子は、傍目にもどれほどか滑稽に映ったことだろう。

誰もが花の中に紛れこんだ土くれを見るような奇異の目で常盤を眺め、何の間違いだろうと首を傾げた。

常盤は堂々と肩で風を切って歩いた。
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