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五、
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彼女は、自分のことを御目付役と名乗った。
「あなた方には、これからわたくしの前で、わたくしの点てた茶を飲んでいただきます」
質問を許さない冷厳な声音に、すくんだようにお芙沙の侍女が身を引いた。
「上様の奥方たるもの、茶道の心得などあって当然。どんな状況にも動じず、慎み深くたおやかにある、それがたしなみというものです」
雰囲気に呑まれたまま、常盤はぼうっと部屋を見回し、掛け軸やら飾り棚やらを眺めていた。
「では、まずはあなたから」
そう言われて町娘らしき少女が、おずおずと茶碗を手にする。
くるりくるりと二度回し――なるほど、そうやって飲めばいいのかと常盤が思っていると、口をつけた途端、町娘はかっと目をこぼれんばかりに見開いた。
「何」
町娘は喉に手をやり、掻きむしるように爪でひっかいた。顔中に苦悶の色を露わにして。
「あ……!!!」
蒼然となった四人の前で、からん、ころころころ――と、茶器が彼女の手を離れ、畳を転がった。
「ぐ……が……!」
お芙沙の侍女が、弾かれたように立ち上がった。
初姫と呼ばれた少女も、顔を強張らせて硬直している。
御目付役であるその女性だけが、平然とのたうちまわる町娘を眺めていた。
「――毒」
誰ともなしに呟きが漏れる。
常盤は慄然と、目の前の凄惨な光景を見つめていた。
町娘は二度ほどせき込み、口から赤褐色の液体を吐き出すと、石のように動かなくなった。
「な……な……」
恐れおののいているお芙沙の前を素通りし、どこからともなく現れた男たちが、死んだ町娘の遺骸を手際よく担いで去ってゆく。
一部始終を眺めていた御目付役は、何事もなかったかのように次の茶を点てる。
「御目付役様!これは一体どういうことです。あなた様は、わたくしたちに死ねとおっしゃるのですか」
御目付役は薄氷のような笑みをたたえて、ゆるりと言った。
「わたくしは、二度同じ説明はいたしません」
生き残った四人は戦慄した。
御目付役が、地獄の釜を覗く鬼女のように見えた。
「あなた方には、これからわたくしの前で、わたくしの点てた茶を飲んでいただきます」
質問を許さない冷厳な声音に、すくんだようにお芙沙の侍女が身を引いた。
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雰囲気に呑まれたまま、常盤はぼうっと部屋を見回し、掛け軸やら飾り棚やらを眺めていた。
「では、まずはあなたから」
そう言われて町娘らしき少女が、おずおずと茶碗を手にする。
くるりくるりと二度回し――なるほど、そうやって飲めばいいのかと常盤が思っていると、口をつけた途端、町娘はかっと目をこぼれんばかりに見開いた。
「何」
町娘は喉に手をやり、掻きむしるように爪でひっかいた。顔中に苦悶の色を露わにして。
「あ……!!!」
蒼然となった四人の前で、からん、ころころころ――と、茶器が彼女の手を離れ、畳を転がった。
「ぐ……が……!」
お芙沙の侍女が、弾かれたように立ち上がった。
初姫と呼ばれた少女も、顔を強張らせて硬直している。
御目付役であるその女性だけが、平然とのたうちまわる町娘を眺めていた。
「――毒」
誰ともなしに呟きが漏れる。
常盤は慄然と、目の前の凄惨な光景を見つめていた。
町娘は二度ほどせき込み、口から赤褐色の液体を吐き出すと、石のように動かなくなった。
「な……な……」
恐れおののいているお芙沙の前を素通りし、どこからともなく現れた男たちが、死んだ町娘の遺骸を手際よく担いで去ってゆく。
一部始終を眺めていた御目付役は、何事もなかったかのように次の茶を点てる。
「御目付役様!これは一体どういうことです。あなた様は、わたくしたちに死ねとおっしゃるのですか」
御目付役は薄氷のような笑みをたたえて、ゆるりと言った。
「わたくしは、二度同じ説明はいたしません」
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御目付役が、地獄の釜を覗く鬼女のように見えた。
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