秋月の鬼

凪子

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五、

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――そういうことか。

常盤は、狂ったように早打ちする心臓を宥めながら、心の中で呟いた。

御家老は昨日言ったではないか。

何が起ころうとも責任は取らない。それなりの覚悟が必要、と。

たとえ死人が出てもお上は一切関知しない。

それはつまり、要らないと思った人間には容赦しないと、これは命がけの試練だと、そういう意味だったのだ。

仮にも一国の領主の正室に収まろうというのだから、こちらも命を賭ける覚悟があって当然ということか。

お芙沙はちらりと横目で侍女を見る。

彼女はもはや、すっかり戦意を喪失してしまっている。恐怖のあまり失禁しかねない様子だ。

無理もないことだった。

初姫は恐怖を胆力でねじ伏せ、気丈な態度を保っている。

そして常盤はどうかというと――お芙沙は驚きに息を止めた。

――なぜ。どうして。

常盤はいたって平静なまま、ちょこなんと部屋の隅に座っている。

その瞳に、いささかの恐怖も絶望も映さずに。

疑問が憤りとなって喉の奥に突き上げる。

――お前は死が怖くないというの。この状況下で、どうしてそこまで人を食ったような澄まし顔でいられるの。

「次はあなたです」

お芙沙の肩がびくりと跳ね上がる。

隣に座っていた侍女が、今にも泣き出しそうな顔でお芙沙を見つめている。

「お芙沙様……」

「さあ。どうしたのです」

お芙沙は唇を噛みしめた。

侍女はわっと畳に泣き伏した。

「申し訳ありません……!どうぞ、どうぞご勘弁を……」

お芙沙は大きく嘆息した。

「わたくしとこの者は失格で構いません。辞退申し上げます」

この状況で、ほかに一体どうしろというのだろう。

上様の嫁になることが至上命題とは言え、命を失っては元も子もない。

ずらずらと条件やら何やら言い連ねてはいるが、結局は都合よく候補者を追い払うためにお上の取った汚い手段ではないか。
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