秋月の鬼

凪子

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九、

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「俺こそ人の腹に産まれし鬼よ。情を知らず愛を知らず、肉親の死すら何ら痛痒を感じぬ」

語り終えると、京次郎は深く息をついた。

「これは秋月にかけられし呪いだ。誰にも解くことはできぬ」

「上様はこの機を待っていらしたのですね」

常盤は静かに言った。

「嫁御探しは他家の動向を探るための策にすぎない。離反するか懐柔を目論むか、それぞれの出方を見るおつもりだったのでしょう。初姫様の時のように、家の思惑に巻き込まれないように。
そして、不満分子や反乱分子をあぶり出して一掃する。今ならば、上様はそのお力をお持ちでしょうから」

京次郎は目を瞬かせた。

「上様は気づいてほしかったのです。秋月の鬼の正体に」

風が梢を渡る氷のような音が、一際身に沁みる。

京次郎はこの目の前にいる小さな少女から、底知れぬ何かを感じ取った。

「秋月の鬼の正体は、誰も知られることはない。正体を知った者は、ことごとく殺されてしまうから」

怪訝な京次郎の表情が、徐々にかすかな恐怖を宿す。

この娘は何を言おうとしているのか。

「料理の試練の際に錯乱の香を焚いたのは別としても、夜更けに襲われて死んだ二人は秋月の鬼の正体を見たのでしょう。傷口は、どちらも下から鋭利な刃物で急所を突かれていました。あの二人の身長を鑑みても、上様の手によるものとは思われない。相当背の低い者に刺されなければ、ああはなりません」

京次郎の唇が半月形を描く。

「勘のいい娘よ」

「自ら鬼と名乗ってまで上様がかばいたいお方は、一人しかいらっしゃいませぬ」

常盤の目には覚悟の光が宿っている。

「今朝、あの方の手の甲に傷を見ました。あれは恐らく、死に際に悶え苦しんだ芙沙子様が抵抗して引っ掻いた傷」

京次郎の顔色は蒼白だった。

「秋月の鬼は、露姫様にございますね」

凛冽な一声が静寂を打った。






































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