護国の鳥

凪子

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春の章

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「軍人は何も無差別に人を虐殺するわけじゃない。それにエスペラントは幸い単一国家だから、国家間の戦争が起こる可能性もない。実際、年間を通じての軍属死傷者は毎年十名を切っている。誰も戦いなど望んではいないんだ。
世界が本当に平和であれば、自然と軍の在り方も変わってくるはずです」

「驚いたな。お父君とは随分考え方が違うようだ」

ルベリエは半ば嘲笑混じりに、半ば本気でそう言った。

「父は関係ない」

むきになったユリシスの口元がかたく強張っている。

ルベリエは嘆息すると、真正面から彼に相対して、

「なぜ、ここに入った」

ひどく静かな、だが返答の拒絶を許さぬ口調で問うた。

一瞬、ユリシスの表情を潔癖な逡巡がよぎった。

言うべきか言わざるべきか、行き詰まった思考がはけ口を求めて騒ぎ出す。

「軍を変えるためです」

端的な答えが空間を切り取った。

ルベリエは測るような眼差しを向けて黙っている。

「たとえどんな理由があろうと人殺しは恥ずべきことであり、戦いにおいて英雄などあり得ない。だからこそ僕は、戦いのない世界をつくりたい。平和で、誰もが幸せに暮らせる世界を。そうなったとき、軍は武力を用いないことで争いの抑止力としての役割を果たす、全く新しい組織に生まれ変わるんです。そのために僕は軍に入ります。そして、どんなに時間がかかっても必ず、自分の理想を実現させるつもりです」

ルベリエは終始口を挟まず、ユリシスの言葉に耳を傾けていた。

「笑いたければ笑ってください。綺麗事だと思われるのは重々承知しています」

だが予想に反して、ルベリエの表情は真剣そのものだった。

「……お前みたいな奴が一番危ないんだ」

至近距離に立っているというのに彼の言い草は独り言めいていて、その瞳ははるか遠い場所に据えられていた。
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