ウェルテルの陰謀 -美少女と美少年(?)に囲まれた俺の運命やいかに?ー

凪子

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第二章

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自ら消してしまうほど、犯人の顔と共に封じ込めてしまうほど、辛い記憶。

――空白の一日に何があった?

自宅に届いた脅迫状と、里香から渡されたコピーの文面をためつすがめつして思索に耽る。

学部前にあるベンチに座っていると、昼休みを過ごす学生が群れをなして歩いていくのが見える。

家で独りきりでいるときに、こんな胸糞の悪くなることを考えるのはたまらないが、明るい日差しの下なら少しはマシな考えが浮かんできそうな気がする。

そもそも、この二通の手紙――『いとしのシャルロッテ』とかいう寒気のしそうな恋文と、赤インクに彩られた警告文――が、同じ差出人からによるものだとは、真啓には思えなかった。

文面から見て、この『シャルロッテ』とやらが北大路公香であることは間違いない。

では、ウェルテルは一体誰だ?

こいつは、恋に破れたからといって、大人しく自殺してくれるようなタマじゃないぞ。

どん、と背中をたたかれて、

「うわっ!」

真啓は思わずのけぞった。慌てて二枚の手紙を後ろ手に隠す。

「あ、ご、ごめんなさい」

両手を胸の前で合わせ、申しわけなさそうな顔をしている少女。

学校でちょくちょく顔を合わせているはずなのに、久しぶりに会ったような気がする。

都築理沙だった。

「や、こっちこそごめん。ビビリすぎたよね俺」

「ううん。有澤君、お昼は?」

問われて、急に空腹を感じていることに気づいた。

いつもなら、公香に飯屋やカフェテリアに引っ張られていくので、何も考えずとも昼飯にありつけていたからだ。

そもそも真啓は食に執着がなく、栄養バランスを気にするどころか、受験勉強中は固形食やゼリーを流し込むことですませていた。

「まだだよ。都築さんは?」

理紗はおずおずと言った。

「あ、あの、これ、もしよかったら……」

差し出されたキャンディーカラーのランチボックスには、色とりどりのサンドイッチが敷き詰められていた。

「うわ、すげー!これ、都築さんが自分で?」

理紗はかわいらしくはにかんだ。

「ちょっと作りすぎたから……」

女の子の手作りお弁当を食べられるなんて――まるで夢のようだ。

上がりきったテンションを抑えるのに苦心しながら、真啓は卵サンドを摘まんだ。

現実であることを確かめるかのように、ゆっくりと噛みしめる。

口の中でふわふわのパンと卵の風味が味わい深く広がる。

とびきり美味しかった。
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