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【1】アリオン
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硬くひび割れた白い唇が真一文字に引き結ばれている。
皺の寄った化粧っ気のない顔に、厳格な眉と尖った鼻。
鋭く射抜くような目が、まじまじと返答を要求していた。
「すいません」
わけも分からず謝ると、清掃員は呆れた顔で言った。
「何を謝ってるの、あんた」
「えーっと……」
不躾な視線を避けようと目のやり場に困り、視線を落とすと胸元の名札には『浅間栄』とあった。
そういえば社長のまたいとことかなんとか、とにかく遠縁に当たる人だというのを聞いたことがあった。
社内の噂は矢よりも速い。
「お仕事の邪魔をしてすいませんでした」
再び頭を下げ、逃げるように非常階段から出ると、出たところで誰かと軽くぶつかった。
「すいません」
何だか今日は謝ってばかりの日だな。厄日か。
そんなことを考えながら相手を見ると、相手は床に尻もちをついて、辺りに白い斑を描いたように伝票の薄紙が散らばっていた。
「ごめん、江本さん」
慌ててしゃがみ込んで拾い集めると、細い指が静かに動いてそのうちの一枚を拾い上げた。
立ち上がっても視線を合わせるには少し下を向かなければならないほど、江本弥生は小柄だった。
英理は知らず小声になって、
「本当にごめん。怪我ない?」
弥生は一度だけこくりと首を動かすと、そのまま廊下を曲がって見えなくなった。
英理が所属する販売部と、エレベーターホールを隔てて反対側にある経理部が彼女の配属先だった。
販売部のフロアの半分ほどしかない、机と椅子が五つほどならんだ小さな島と、灰色のスチール戸棚に囲まれた空間。
彼女はいつも小鳥のようにそこに座っていた。入ってすぐの席に。
去年の春に入社してから、一度も休んだことがなかった。
皺の寄った化粧っ気のない顔に、厳格な眉と尖った鼻。
鋭く射抜くような目が、まじまじと返答を要求していた。
「すいません」
わけも分からず謝ると、清掃員は呆れた顔で言った。
「何を謝ってるの、あんた」
「えーっと……」
不躾な視線を避けようと目のやり場に困り、視線を落とすと胸元の名札には『浅間栄』とあった。
そういえば社長のまたいとことかなんとか、とにかく遠縁に当たる人だというのを聞いたことがあった。
社内の噂は矢よりも速い。
「お仕事の邪魔をしてすいませんでした」
再び頭を下げ、逃げるように非常階段から出ると、出たところで誰かと軽くぶつかった。
「すいません」
何だか今日は謝ってばかりの日だな。厄日か。
そんなことを考えながら相手を見ると、相手は床に尻もちをついて、辺りに白い斑を描いたように伝票の薄紙が散らばっていた。
「ごめん、江本さん」
慌ててしゃがみ込んで拾い集めると、細い指が静かに動いてそのうちの一枚を拾い上げた。
立ち上がっても視線を合わせるには少し下を向かなければならないほど、江本弥生は小柄だった。
英理は知らず小声になって、
「本当にごめん。怪我ない?」
弥生は一度だけこくりと首を動かすと、そのまま廊下を曲がって見えなくなった。
英理が所属する販売部と、エレベーターホールを隔てて反対側にある経理部が彼女の配属先だった。
販売部のフロアの半分ほどしかない、机と椅子が五つほどならんだ小さな島と、灰色のスチール戸棚に囲まれた空間。
彼女はいつも小鳥のようにそこに座っていた。入ってすぐの席に。
去年の春に入社してから、一度も休んだことがなかった。
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