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【3】ホラリー
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その日、街には夏の終わりを惜しむような雨が降りしきっていた。
だから、律はそぞろ歩きをしていた。
比呂からは、今日のライブは雨天休止というラインが来た。
専門学校も今日は行く用事がない。
というわけで、律は喫茶店【オリオン】を目指した。
恵果の叔母が経営する、小ぢんまりとした居心地のいい場所だ。
そこで作詞でもしようかと思ったのだ。
――恵果の顔が見たい、という動機がたとえ一ミリほど紛れていようとも、律はそれを認めることを断固拒否した。
入り口の手前まで来て足を止めた。
見間違いかと思って目をこする。だが、間違いなかった。
窓際の一番後ろの席で、恵果と向き合って座る美貌の女性がいた。
「げ」
律は最近口にする機会の多い感嘆句を、再びうめいた。
自分の網膜と記憶が正しければ、その女性は、テレビを見ている人間であれば誰でも一度は見たことがある、超有名人のものだったので。
女性が立ち上がり、丁寧に恵果にお辞儀をするのを見て、律は慌てて道の脇へ飛びのいた。
カランコロンと鈴の音がして、女性が店から出てくる。
颯爽とした後姿が遠ざかるのを見て、律は確信した。
「やっぱり、仁科めぐみだ」
それは、いずれ法曹界を牛耳るだろうとも言われている敏腕弁護士の名だった。
テレビのコメンテーターとしても、数多くの番組に出演している。
ついこの間も、日本を代表する大学付属病院に勤める外科医、吉崎孝治の執刀した手術の医療ミスの原告弁護士を担当し、それまで伏せられていた病院側の大規模な過失が明らかになった。
彼女の周りは、常に華やかで人騒がせなニュースがつきまとう。
吉崎孝治は『黄金の右腕』の異名を取るほどの名医であり、甘いマスクで女性患者に人気を博していた。
仁科めぐみは、彼に振られた腹いせに原告をたきつけたのだという根も葉もない噂が週刊誌やワイドショーを賑わせたこともあった。
だから、律はそぞろ歩きをしていた。
比呂からは、今日のライブは雨天休止というラインが来た。
専門学校も今日は行く用事がない。
というわけで、律は喫茶店【オリオン】を目指した。
恵果の叔母が経営する、小ぢんまりとした居心地のいい場所だ。
そこで作詞でもしようかと思ったのだ。
――恵果の顔が見たい、という動機がたとえ一ミリほど紛れていようとも、律はそれを認めることを断固拒否した。
入り口の手前まで来て足を止めた。
見間違いかと思って目をこする。だが、間違いなかった。
窓際の一番後ろの席で、恵果と向き合って座る美貌の女性がいた。
「げ」
律は最近口にする機会の多い感嘆句を、再びうめいた。
自分の網膜と記憶が正しければ、その女性は、テレビを見ている人間であれば誰でも一度は見たことがある、超有名人のものだったので。
女性が立ち上がり、丁寧に恵果にお辞儀をするのを見て、律は慌てて道の脇へ飛びのいた。
カランコロンと鈴の音がして、女性が店から出てくる。
颯爽とした後姿が遠ざかるのを見て、律は確信した。
「やっぱり、仁科めぐみだ」
それは、いずれ法曹界を牛耳るだろうとも言われている敏腕弁護士の名だった。
テレビのコメンテーターとしても、数多くの番組に出演している。
ついこの間も、日本を代表する大学付属病院に勤める外科医、吉崎孝治の執刀した手術の医療ミスの原告弁護士を担当し、それまで伏せられていた病院側の大規模な過失が明らかになった。
彼女の周りは、常に華やかで人騒がせなニュースがつきまとう。
吉崎孝治は『黄金の右腕』の異名を取るほどの名医であり、甘いマスクで女性患者に人気を博していた。
仁科めぐみは、彼に振られた腹いせに原告をたきつけたのだという根も葉もない噂が週刊誌やワイドショーを賑わせたこともあった。
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