71 / 138
【3】ホラリー
71
しおりを挟む
そんな今を時めく女性が、
「何でまたこんな、古びた喫茶店に?」
律が呟くと、ドアを開いて出てきた恵果が、腰に手を当ててにっこりと笑った。
「古びた喫茶店で悪かったわね」
「げ。恵果」
「盗み見はよくないわね、りっちゃん。お引き取りください」
鼻先で閉まったドアに、律は肩を落として失言を悔やんだ。
仁科めぐみの歩いた後には、深く甘い残り香が漂っていた。
頼み込んで何とか店に入れてもらった律は、ようやく座れた席でアイスコーヒーを口にし、人心地ついた。
「確か、この辺に座ってたよな」
仁科めぐみの座っていた辺りをぽんぽん、とたたく。
恵果は律を横目で見て、険のある声で言った。
「エロ男」
「ばっ、違ぇよ!相手は全国的有名人だぜ?!誰でもやるって、普通」
「やらないよ。りっちゃんのスケベ」
「あのなあ……」
弁解の余地なしと悟って、律は無条件降伏した。
「分かった。謝るから」
なぜ恵果に謝らなければならないのかは謎だが。
「何か聞きたそうな顔してるね」
「そりゃ。だって、占ってたんだろ?仁科さんを」
「美人となると目の輝きが違うね。りっちゃん」
「やけに突っかかるな、お前」
ぶつくさ文句を言いながらも、恵果はどこか嬉しそうだ。
律は店の中を眺め、改めて思う。
今まで考えたことはなかったけれど、この店は無意識に歩いていれば簡単に見落としてしまうくらいの、ひっそりとした佇まいである。
ガラス張りではないので、中に誰かがいたとしても外からは見づらい内装になっている。
看板も扉も控えめで主張しない。それどころか、今どき『食べログ』にも載っていない。
まさに、絶好の隠れ家というわけだ。
「言っとくけど、クライアントのことは話せないよ。守秘義務っていうものがありますから」
「占い師にそんなもんあるのかよ」
「とにかく、駄目ったら駄目」
恵果は一歩も譲る気はなさそうで、律はため息をついた。
仕方がない、諦めるしかなさそうだ。
「何でまたこんな、古びた喫茶店に?」
律が呟くと、ドアを開いて出てきた恵果が、腰に手を当ててにっこりと笑った。
「古びた喫茶店で悪かったわね」
「げ。恵果」
「盗み見はよくないわね、りっちゃん。お引き取りください」
鼻先で閉まったドアに、律は肩を落として失言を悔やんだ。
仁科めぐみの歩いた後には、深く甘い残り香が漂っていた。
頼み込んで何とか店に入れてもらった律は、ようやく座れた席でアイスコーヒーを口にし、人心地ついた。
「確か、この辺に座ってたよな」
仁科めぐみの座っていた辺りをぽんぽん、とたたく。
恵果は律を横目で見て、険のある声で言った。
「エロ男」
「ばっ、違ぇよ!相手は全国的有名人だぜ?!誰でもやるって、普通」
「やらないよ。りっちゃんのスケベ」
「あのなあ……」
弁解の余地なしと悟って、律は無条件降伏した。
「分かった。謝るから」
なぜ恵果に謝らなければならないのかは謎だが。
「何か聞きたそうな顔してるね」
「そりゃ。だって、占ってたんだろ?仁科さんを」
「美人となると目の輝きが違うね。りっちゃん」
「やけに突っかかるな、お前」
ぶつくさ文句を言いながらも、恵果はどこか嬉しそうだ。
律は店の中を眺め、改めて思う。
今まで考えたことはなかったけれど、この店は無意識に歩いていれば簡単に見落としてしまうくらいの、ひっそりとした佇まいである。
ガラス張りではないので、中に誰かがいたとしても外からは見づらい内装になっている。
看板も扉も控えめで主張しない。それどころか、今どき『食べログ』にも載っていない。
まさに、絶好の隠れ家というわけだ。
「言っとくけど、クライアントのことは話せないよ。守秘義務っていうものがありますから」
「占い師にそんなもんあるのかよ」
「とにかく、駄目ったら駄目」
恵果は一歩も譲る気はなさそうで、律はため息をついた。
仕方がない、諦めるしかなさそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる