女子高生占い師の事件簿

【３】ホラリー

73

午後三時きっかりに、その男性は現れた。

スーツの肩が濡れているの見て、恵果はタオルを差し出した。

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました、こちらへどうぞ」

「あ、ありがとうございます。噂どおり、とても……お綺麗な方ですね」

「まあ。ありがとうございます」

律は飲んでいたコーラを吹き出しそうになった。

お綺麗？？

それに、恵果はふだん、間違っても「まあ」なんて言うキャラじゃない。

「騙されてませんか」と口を挟もうとしたが、恵果が睨みつけている手前、自粛した。

服装は会社帰りのサラリーマンっぽいと思ったけれど、それにしては時間が早い。

律の姿を見とがめた男性は、ぎょっとしたようだったが、恵果が軽くとりなした。

「彼はここのバイトの店員です。秘密を漏らしたりはしません。もし気になるようでしたら、たたき出しますけど」

律はどう見てもバイトとは言いがたい格好と態度だったが、男性は頷いた。

「あ、結構です。大丈夫です」

「おかけください」

律の座っている席より三つ前の席に、二人は向かい合って座った。

「改めまして、はじめまして。占星術師の佐伯恵果です」

恵果は『占い師』と聞いて人々が想像するような衣装――漆黒のワンピースや、たっぷりとした袖の服―ーに身を包んでいない。

あえてなのか、偶然なのかは分からないが、緊張感や神秘性に欠けることは確かだ。

ともかく男性は、少し表情を緩ませて、落ちついた様子で答えた。

「市井清隆です。今日は、よろしくお願いします」

優しくて誠実そうな男だ。律は思った。

「生年月日と産まれた時間、場所をお願いします」

「あ、はい」

男性は予め書いてきたであろう紙を取り出した。

恵果はそれを見つめ、ホロスコープを作成するために紙とペンを準備する。