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【4】トランジット
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「息子さんが出馬されるんですか?」
そのころ恵果は、大沢邸のだだっぴろい客間に通されて、玉露茶をすすっていた。
占いが終わってひとしきり歓談した後、そろそろお暇しようとしていた時分だった。
五十代も半ばを超え、いまだに若々しさと威厳を保つ政界の旗手は、鷹揚に頷いた。
「はい。私の長男を、今度の衆議院議員の選挙に出馬させようと考えています」
「そうですか。応援してますね。私はまだ選挙権ないけど」
「ありがとうございます。つきましては、よき結果が得られるように、占っていただきたく思っているのですが」
恵果は一瞬、目を丸くした。
「私でよろしければ占いますが……あの、誰か他の方をお雇いになっては?」
「なぜですか?報酬が不服なら、倍払います。いや、三倍払ってもいい」
身を乗り出した大沢巳喜男を見て、恵果は首を振った。
「そうではありません。あなたとの信頼関係を築くことは成功しましたが、息子さんが私を信用してくださるかは分からない、ということです。
息子さんご自身が選ばれた占い師のほうが、息子さんも安心して任せられるのではないでしょうか。
十六の小娘にあれこれ指図されて、腹が立たない大人はいませんから」
「何をおっしゃるんですか。私が五回の落選を喫し、絶望に打ちひしがれていたとき、そこから救ってくださったのはあなただ。演説の日取りと方角、チラシ、SNS、テレビ出演、テーマカラー……全てをあなたの言葉に従ったからこそ、私は議員になれた。そして今、さらなる高みを目指すことができるんです」
「それは、私の力ではありません。あなたが占いの結果をうまく利用した上で、ご自身で努力なさったからです」
恵果はきっぱりと言い切った。
驕りも恩着せがましい態度も見せない恵果に、巳喜男はさらに感じ入ったように目を細める。
そのころ恵果は、大沢邸のだだっぴろい客間に通されて、玉露茶をすすっていた。
占いが終わってひとしきり歓談した後、そろそろお暇しようとしていた時分だった。
五十代も半ばを超え、いまだに若々しさと威厳を保つ政界の旗手は、鷹揚に頷いた。
「はい。私の長男を、今度の衆議院議員の選挙に出馬させようと考えています」
「そうですか。応援してますね。私はまだ選挙権ないけど」
「ありがとうございます。つきましては、よき結果が得られるように、占っていただきたく思っているのですが」
恵果は一瞬、目を丸くした。
「私でよろしければ占いますが……あの、誰か他の方をお雇いになっては?」
「なぜですか?報酬が不服なら、倍払います。いや、三倍払ってもいい」
身を乗り出した大沢巳喜男を見て、恵果は首を振った。
「そうではありません。あなたとの信頼関係を築くことは成功しましたが、息子さんが私を信用してくださるかは分からない、ということです。
息子さんご自身が選ばれた占い師のほうが、息子さんも安心して任せられるのではないでしょうか。
十六の小娘にあれこれ指図されて、腹が立たない大人はいませんから」
「何をおっしゃるんですか。私が五回の落選を喫し、絶望に打ちひしがれていたとき、そこから救ってくださったのはあなただ。演説の日取りと方角、チラシ、SNS、テレビ出演、テーマカラー……全てをあなたの言葉に従ったからこそ、私は議員になれた。そして今、さらなる高みを目指すことができるんです」
「それは、私の力ではありません。あなたが占いの結果をうまく利用した上で、ご自身で努力なさったからです」
恵果はきっぱりと言い切った。
驕りも恩着せがましい態度も見せない恵果に、巳喜男はさらに感じ入ったように目を細める。
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