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【4】トランジット
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比呂はやんわりとその手を払いのけ、服の襟元を正した。
「そう興奮するなって。何もしてないよ。……今はまだ、ね」
静は視線で殺してやりたいとでも言いたげに比呂を睨みつけた。
「俺がここに来たのは、君に釘を刺しておこうと思ってね」
「言われなくても分かってる。いつか来るだろうとは思ってたよ。あいつが入院したときからな」
「分かってるんなら話が早い。恵吾様が亡くなったときの話だけど、父も叔父たちも、君に関与するつもりがなさそうだから、俺が来たんだ。一応、筋は通しておかないとと思ってね」
けろりとした様子で言う比呂に向かって、静はせせら笑った。
「へえ?お前には、形だけでもこっちに義を置くだけの分別があったってのか?」
「いや、訴訟を起こされると面倒ってだけだよ。そんな小金大した問題じゃないけど、体面上まずいんらしいんだよね。君らの存在が公になるのは」
比呂は全く悪びれずに言った。
「そんなことだろうと思ったよ」
それで、と比呂は言を継いだ。
「次期総裁に就任する権利は、長子である俺の父がもらう。その後はどうなるか分からないけど、最終的には俺に回ってくることになるだろう」
「まどろっこしい言い方はよせ。虫唾が走る」
静の口調からは、苛立ちが滲み出ていた。
「そうだね。じゃあ単刀直入に言おう。君には、藤森グループ次期総裁候補の座を降りてもらう。そして、今後藤森が得るであろう全ての利潤、財産、権利、人脈、その他もろもろを永遠に放棄してもらう」
比呂は重々しく言ったが、静はその言葉を鼻であしらった。
「もとより、お前らの領域に踏み込む気はないさ」
「どうかな?君は賢い。ぼんくらな従兄弟どもとは違う。一番厄介な相手だ」
あれは、恵果が生まれる前だった。
母に手を引かれ、一度だけ静は藤森の邸へ足を運んだ。
凍えるような薄ら寒い視線と、ぞんざいな態度を示されたことばかりが記憶に残っている。
そこで出会った少年の顔も。
「いずれ君は俺たちの脅威になるだろう。ま、お祖父様が自分で撒いた種だけどね。どこまでやってくれるのか楽しみにしてるよ」
比呂は話はすんだとばかりに立ち上がった。
「せいぜい買いかぶっておいてもらうとするか」
静は煙草を取り出した。
「そう興奮するなって。何もしてないよ。……今はまだ、ね」
静は視線で殺してやりたいとでも言いたげに比呂を睨みつけた。
「俺がここに来たのは、君に釘を刺しておこうと思ってね」
「言われなくても分かってる。いつか来るだろうとは思ってたよ。あいつが入院したときからな」
「分かってるんなら話が早い。恵吾様が亡くなったときの話だけど、父も叔父たちも、君に関与するつもりがなさそうだから、俺が来たんだ。一応、筋は通しておかないとと思ってね」
けろりとした様子で言う比呂に向かって、静はせせら笑った。
「へえ?お前には、形だけでもこっちに義を置くだけの分別があったってのか?」
「いや、訴訟を起こされると面倒ってだけだよ。そんな小金大した問題じゃないけど、体面上まずいんらしいんだよね。君らの存在が公になるのは」
比呂は全く悪びれずに言った。
「そんなことだろうと思ったよ」
それで、と比呂は言を継いだ。
「次期総裁に就任する権利は、長子である俺の父がもらう。その後はどうなるか分からないけど、最終的には俺に回ってくることになるだろう」
「まどろっこしい言い方はよせ。虫唾が走る」
静の口調からは、苛立ちが滲み出ていた。
「そうだね。じゃあ単刀直入に言おう。君には、藤森グループ次期総裁候補の座を降りてもらう。そして、今後藤森が得るであろう全ての利潤、財産、権利、人脈、その他もろもろを永遠に放棄してもらう」
比呂は重々しく言ったが、静はその言葉を鼻であしらった。
「もとより、お前らの領域に踏み込む気はないさ」
「どうかな?君は賢い。ぼんくらな従兄弟どもとは違う。一番厄介な相手だ」
あれは、恵果が生まれる前だった。
母に手を引かれ、一度だけ静は藤森の邸へ足を運んだ。
凍えるような薄ら寒い視線と、ぞんざいな態度を示されたことばかりが記憶に残っている。
そこで出会った少年の顔も。
「いずれ君は俺たちの脅威になるだろう。ま、お祖父様が自分で撒いた種だけどね。どこまでやってくれるのか楽しみにしてるよ」
比呂は話はすんだとばかりに立ち上がった。
「せいぜい買いかぶっておいてもらうとするか」
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