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第1章 夢への誓い
2.王都にて
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森から王都まではそれなりに距離があり、徒歩だけではかなりの時間を要してしまう。それも、子供を連れていれば尚更である。
ザイン達が住む森は人里から離れた場所にある為、移動には何らかの乗り物を用意するのがベスト。
そこで、自身の結界を抜けたのを確認したガラッシアは、いつものように指笛を吹く。ピュイー! と高らかに響く指笛の音。
すると、森のどこかから駆け付けた、とある生物がやって来た。
「待っていたぞ、ギル。ジル」
ガラッシアが微笑と共に出迎えたのは、二頭のオス狼。
彼女の銀の髪よりも霞んだ灰色をした毛皮の獣達は、二頭並んでガラッシアの前で行儀良く待機している。
全身の毛が灰色なのがギル。脚先だけが黒い毛に覆われているのがジルだ。
二頭は普通の狼よりも身体が大きい、『鋼狼』という魔物の一種である。ギルとジルも幼い頃にガラッシアに拾われ、今日まで彼女の手脚となって、狩猟や移動手段として活躍している家族の一員だった。
「ディックは私と共にギルに乗れ。ザイン、ジルの扱いにはもう慣れたな?」
「うん。何度か乗ってるうちに、かなり乗りこなせるようになったからね」
「うむ、それならば良い。鋼狼の持久力ならば、王都には夕方の内に到着するだろう」
ザインはジルの頭を優しく撫で、そのお返しと言わんばかりに頬をべろりと舐められた。
「へへっ、くすぐったいよジル~!」
しばらくそうしてじゃれあった後、ジルの背中に飛び乗るザイン。
対してディックは怯えた様子で、恐るおそるギルににじり寄っていく。
「ど、どうしてお前はそんなに狼と仲良くなれるんだよ……!」
「別に、この子達は噛み付いてきたりしないぞ? ギルもジルも賢いからな」
「ザインの言う通りだぞ、ディック。お前は昔から生き物に触れるのが苦手だが……私と共に乗るのであれば、少しは不安も拭えるだろう」
そう言いながら、ガラッシアはディックの身体をひょいっと抱き上げた。
そのまま灰色のギルの背に乗せ、後から彼女もディックを背後から抱えるような形で、ギルの背中に跨がる。
しかし、狼に怯える当の本人は、それどころではなくなっていた。何故なら、ガラッシアの豊かな乳房がディックの背に押し付けられる状態になったからだ。
まだ十歳の少年であるとはいえ、ディックもザインも男女の身体の違いというのは認識している。特にディックは、ここ最近義母の女性らしい身体付きに対し、目のやり場に困っていた。
鋼狼への恐怖心より胸への恥じらいが上回ってしまったディックと、王都へ出掛ける期待感しか頭に無いザイン。
「では、ここからはギルとジルに任せるぞ。目指すは王都ノーティオだ。しっかりついて来い、ザイン」
「うん! よーしジル、出発だ!」
「ワウン!」
「バウッ!」
二頭の狼は走り出す。
ガラッシアはディックごと包み込むように前傾姿勢を取り、ギルにしがみ付く。ザインも二人を乗せたギルを追い、ジルの背に乗って森を突き進んでいった。
途中で狼達に休憩を取らせながら、ガラッシアの告げた通り日没前には王都の外壁が見えて来た。
ユーディキウム王国の王都であるノーティオは、周囲を湖に囲まれた美しい都である。
王都へと続く門の前には大きな橋が架かっており、ザイン達はその手前でギルとジルから降りた。
二頭は比較的穏やかな種類ではあるものの、分類としては間違い無く魔物だ。流石に魔物を王都に入れる訳にはいかない。
ザイン達が戻るまで、二頭には指笛の音が届く範囲で外での待機を命じ、三人はいよいよ王都へと足を踏み入れた。
門をくぐった先では、ザインがこれまで一度も見た事のない光景が満ち溢れていた。
大通りを行き交う、大勢の人々。
数え切れない程に建ち並ぶ家や、商業施設。
森の中の質素な家と、その周辺の草原辺りまでが世界の全てだった少年にとって、次々と視界に入る新たな刺激は激しく心を揺さぶるものである。
ザインはキラキラと目を輝かせた。
「わぁ~! 王都ってこんなに大きいんだね、母さん!! 人もいっぱい居る‼︎」
無邪気に喜ぶ息子を前に、ガラッシアはほんの少し目を伏せた後、にこりと微笑む。
「……ああ、色々な店も多く建ち並んでいるぞ。帰りにエイルへの土産でも買って帰ろうか」
「うん!」
大きく頷いたザインは、同じくソワソワとあちらこちらに視線を向けているディックに語り掛けていた。
(ザインは、物心つく前に私が拾った子……。こうして大きな都を見るのも、私達家族以外の者と出会うのも、今日が初めてなのだ)
だからこそ、母である自分が責任を持って育て上げなければならない。
(それが私の──この子達の母となるのだと決めた、鉄の誓いなのだから……!)
ガラッシアは胸中で決意を新たにし、軽く息を吐いてから、息子達の手を取った。
ザインとディックは、両側から彼女の顔を見上げる。
「……王都は広い。迷子にならないよう、しっかりと手を繋いでいくぞ」
「分かったよ、母さん!」
「ほ、本気かよザイン……! 十歳にもなって母さんと手を繋ぐなんて……」
「お前達は、目を離すと危なっかしいからな。何らかのトラブルにでも巻き込まれたらどうするつもりだ? 私の目は背中にまで付いてはいないのだぞ?」
「そ、それは……」
厳しい視線を向けるガラッシア。
それを浴びるディックは、反論出来ずに彼女に手を引かれるしかなかった。
これまで二人がしでかしてきた問題の数々に、義母はいつも頭を悩ませている。
故に彼女は家の周囲に結界を張り、彼らが勝手に森の奥へと行かないよう、普段から二頭の狼に監視を任せているのだった。
「全く……。好奇心が旺盛すぎるのも困りものだ。もう少しだけでも、私の言い付けを守ってもらいたいものだよ」
────────────
その日はガラッシアが事前に予約しておいた宿へと直行し、朝一番に神殿へ向かう事になった。
王都ノーティオの中心部に位置するノーティオ大神殿は、三百年前に勇者が召喚された地として国内外で有名であり、王国一の観光名所として名を馳せている。
石造りの巨大な建造物の扉を潜り抜け、中で受付を済ませれば、すぐに二人のスキル判定が始まった。
保護者であるガラッシアと共にザイン達が案内されたのは、ステンドグラス越しに色彩鮮やかな光が降り注ぐ、祈りの間の一つ。
ザインとディックは女神像の前に跪き、神官による祈りの言葉に耳を傾ける。
「女神フィロソフィアの名の下に、天より授かりし力の名を我らに明かし給え……」
両手を胸の前で組み、熱心に祈りを捧げる男性神官。
ザイン達も同様の姿勢で、黙して儀式の終わりを待っている。
そんな様子を背後から眺めるガラッシアは、一年振りに訪れた大神殿の空気に、懐かしさを覚えていた。
エイルのスキル判定を済ませた一年前も、彼女はここで起きた三百年前の出来事を思い返していたのだ。
──異世界からの勇者の召喚。
その現場に偶然居合わせていたのが、他でもないガラッシアだった。
(お前が召喚された事を切っ掛けに、この世界に『スキル』が誕生した。あれからもう三百年……。あの日のお前と同じ十歳の少年達の母になるなど、当時は思いもしなかったな……)
勇者は世界を救い、最期は穏やかにその生涯を終えた。
百年にも満たない付き合いだったが、長命種であるエルフの彼女にとって、今でも忘れられない色鮮やかな思い出の日々。
幼き日の勇者の姿を息子達の背に重ね、ガラッシアは思う。
(私はエルフで、あの子達は人間で──きっと私は、お前の時のように最期を看取る事になるのだろう。それは仕方の無い事だと分かってはいる。だが……)
──それでもやはり、いつも置いて逝かれてしまうのは……寂しいよ。
いつか来る別れを、息子達の記念すべき日に想像してしまうだなんて、母親として失格だ。
そう思いはするものの、子供の成長というのは早いもので……。
つい先日まで腕の中で眠っていた小さな赤子が、ふと気が付けば、元気に外を駆け回るわんぱく坊主になっている。
そう遠くない将来、子供達は好きな相手を見付け、結婚して家を出て行ってしまうだろう。
そうなればガラッシアは、いつ里帰りするとも知れない子供達の帰りを待つだけの日々だ。
(もっとこの子達と共に暮らしたいと願うのは、きっと私の我儘なのだろう……)
祈りの言葉だけが響く厳かな空間で、銀糸のエルフが表情を曇らせる最中、神官の祝詞は最後の一文に差し掛かる。
「慈悲深き女神、フィロソフィアの光の加護がこの者らにあらん事を……」
そうして神官が祈りを終えると、彼はゆっくりと振り返った。
「……これにて、魔力属性とスキル判定の儀式は完了となります。まずはそちらの茶色の髪の……ディックさん、でしたね」
「お、おう!」
緊張した面持ちで返事をしたディック。
魔力属性には一から十までの能力段階があり、数字が大きい程、その属性の魔法に高い適性を持っている事になる。
例えば、火属性の一段階であれば、小指の爪程度の大きさの炎を出すので精一杯。反対に、十段階であれば街一つを吹き飛ばす程の大爆発を起こせてしまう。
平均的には三~七までの適性を持つ者が大部分を占めている。その判定には『鑑定スキル』を持つ神官などが集まる神殿に赴くのが一般的であり、それ以外の手段では滅多に自身の能力を知る事は出来ない。
「ディックさん。貴方の魔力属性は、風の三段階です。そして、所有スキルは『見切り』。能力段階については、まだ成長の見込みがあるようですね」
「風属性……! 母さんと同じだ‼︎」
子供の内に三段階と判定されるのは、将来有望であると言われている。
身体の成長と共にある程度の段階アップが見込める為、『見切り』のスキルと合わせて、なかなかに期待の持てる結果だ。
母と同じ風属性持ちだと知ったディックは、ぶんぶんと尻尾を振る子犬のように喜びを露わにしていた。
「続いて赤髪の……ザインさん、でしたね」
「は、はい……!」
義兄弟の華々しい判定結果に、思わず唇を噛み締め、緊張するザイン。
剣の腕でディックに劣るザインにとって、この判定は心臓が破裂しそうな程に不安の大きいものである。
神官はザインに目を向け、口を開く。
「ザインさん。貴方の魔力属性は──」
女神に与えられし鑑定スキルによって見出された、ザインの判定結果。
彼の口から告げられた内容が後に世界を大きく揺るがす『新スキル』の発見となる事を、この時はまだ──誰も知らない。
ザイン達が住む森は人里から離れた場所にある為、移動には何らかの乗り物を用意するのがベスト。
そこで、自身の結界を抜けたのを確認したガラッシアは、いつものように指笛を吹く。ピュイー! と高らかに響く指笛の音。
すると、森のどこかから駆け付けた、とある生物がやって来た。
「待っていたぞ、ギル。ジル」
ガラッシアが微笑と共に出迎えたのは、二頭のオス狼。
彼女の銀の髪よりも霞んだ灰色をした毛皮の獣達は、二頭並んでガラッシアの前で行儀良く待機している。
全身の毛が灰色なのがギル。脚先だけが黒い毛に覆われているのがジルだ。
二頭は普通の狼よりも身体が大きい、『鋼狼』という魔物の一種である。ギルとジルも幼い頃にガラッシアに拾われ、今日まで彼女の手脚となって、狩猟や移動手段として活躍している家族の一員だった。
「ディックは私と共にギルに乗れ。ザイン、ジルの扱いにはもう慣れたな?」
「うん。何度か乗ってるうちに、かなり乗りこなせるようになったからね」
「うむ、それならば良い。鋼狼の持久力ならば、王都には夕方の内に到着するだろう」
ザインはジルの頭を優しく撫で、そのお返しと言わんばかりに頬をべろりと舐められた。
「へへっ、くすぐったいよジル~!」
しばらくそうしてじゃれあった後、ジルの背中に飛び乗るザイン。
対してディックは怯えた様子で、恐るおそるギルににじり寄っていく。
「ど、どうしてお前はそんなに狼と仲良くなれるんだよ……!」
「別に、この子達は噛み付いてきたりしないぞ? ギルもジルも賢いからな」
「ザインの言う通りだぞ、ディック。お前は昔から生き物に触れるのが苦手だが……私と共に乗るのであれば、少しは不安も拭えるだろう」
そう言いながら、ガラッシアはディックの身体をひょいっと抱き上げた。
そのまま灰色のギルの背に乗せ、後から彼女もディックを背後から抱えるような形で、ギルの背中に跨がる。
しかし、狼に怯える当の本人は、それどころではなくなっていた。何故なら、ガラッシアの豊かな乳房がディックの背に押し付けられる状態になったからだ。
まだ十歳の少年であるとはいえ、ディックもザインも男女の身体の違いというのは認識している。特にディックは、ここ最近義母の女性らしい身体付きに対し、目のやり場に困っていた。
鋼狼への恐怖心より胸への恥じらいが上回ってしまったディックと、王都へ出掛ける期待感しか頭に無いザイン。
「では、ここからはギルとジルに任せるぞ。目指すは王都ノーティオだ。しっかりついて来い、ザイン」
「うん! よーしジル、出発だ!」
「ワウン!」
「バウッ!」
二頭の狼は走り出す。
ガラッシアはディックごと包み込むように前傾姿勢を取り、ギルにしがみ付く。ザインも二人を乗せたギルを追い、ジルの背に乗って森を突き進んでいった。
途中で狼達に休憩を取らせながら、ガラッシアの告げた通り日没前には王都の外壁が見えて来た。
ユーディキウム王国の王都であるノーティオは、周囲を湖に囲まれた美しい都である。
王都へと続く門の前には大きな橋が架かっており、ザイン達はその手前でギルとジルから降りた。
二頭は比較的穏やかな種類ではあるものの、分類としては間違い無く魔物だ。流石に魔物を王都に入れる訳にはいかない。
ザイン達が戻るまで、二頭には指笛の音が届く範囲で外での待機を命じ、三人はいよいよ王都へと足を踏み入れた。
門をくぐった先では、ザインがこれまで一度も見た事のない光景が満ち溢れていた。
大通りを行き交う、大勢の人々。
数え切れない程に建ち並ぶ家や、商業施設。
森の中の質素な家と、その周辺の草原辺りまでが世界の全てだった少年にとって、次々と視界に入る新たな刺激は激しく心を揺さぶるものである。
ザインはキラキラと目を輝かせた。
「わぁ~! 王都ってこんなに大きいんだね、母さん!! 人もいっぱい居る‼︎」
無邪気に喜ぶ息子を前に、ガラッシアはほんの少し目を伏せた後、にこりと微笑む。
「……ああ、色々な店も多く建ち並んでいるぞ。帰りにエイルへの土産でも買って帰ろうか」
「うん!」
大きく頷いたザインは、同じくソワソワとあちらこちらに視線を向けているディックに語り掛けていた。
(ザインは、物心つく前に私が拾った子……。こうして大きな都を見るのも、私達家族以外の者と出会うのも、今日が初めてなのだ)
だからこそ、母である自分が責任を持って育て上げなければならない。
(それが私の──この子達の母となるのだと決めた、鉄の誓いなのだから……!)
ガラッシアは胸中で決意を新たにし、軽く息を吐いてから、息子達の手を取った。
ザインとディックは、両側から彼女の顔を見上げる。
「……王都は広い。迷子にならないよう、しっかりと手を繋いでいくぞ」
「分かったよ、母さん!」
「ほ、本気かよザイン……! 十歳にもなって母さんと手を繋ぐなんて……」
「お前達は、目を離すと危なっかしいからな。何らかのトラブルにでも巻き込まれたらどうするつもりだ? 私の目は背中にまで付いてはいないのだぞ?」
「そ、それは……」
厳しい視線を向けるガラッシア。
それを浴びるディックは、反論出来ずに彼女に手を引かれるしかなかった。
これまで二人がしでかしてきた問題の数々に、義母はいつも頭を悩ませている。
故に彼女は家の周囲に結界を張り、彼らが勝手に森の奥へと行かないよう、普段から二頭の狼に監視を任せているのだった。
「全く……。好奇心が旺盛すぎるのも困りものだ。もう少しだけでも、私の言い付けを守ってもらいたいものだよ」
────────────
その日はガラッシアが事前に予約しておいた宿へと直行し、朝一番に神殿へ向かう事になった。
王都ノーティオの中心部に位置するノーティオ大神殿は、三百年前に勇者が召喚された地として国内外で有名であり、王国一の観光名所として名を馳せている。
石造りの巨大な建造物の扉を潜り抜け、中で受付を済ませれば、すぐに二人のスキル判定が始まった。
保護者であるガラッシアと共にザイン達が案内されたのは、ステンドグラス越しに色彩鮮やかな光が降り注ぐ、祈りの間の一つ。
ザインとディックは女神像の前に跪き、神官による祈りの言葉に耳を傾ける。
「女神フィロソフィアの名の下に、天より授かりし力の名を我らに明かし給え……」
両手を胸の前で組み、熱心に祈りを捧げる男性神官。
ザイン達も同様の姿勢で、黙して儀式の終わりを待っている。
そんな様子を背後から眺めるガラッシアは、一年振りに訪れた大神殿の空気に、懐かしさを覚えていた。
エイルのスキル判定を済ませた一年前も、彼女はここで起きた三百年前の出来事を思い返していたのだ。
──異世界からの勇者の召喚。
その現場に偶然居合わせていたのが、他でもないガラッシアだった。
(お前が召喚された事を切っ掛けに、この世界に『スキル』が誕生した。あれからもう三百年……。あの日のお前と同じ十歳の少年達の母になるなど、当時は思いもしなかったな……)
勇者は世界を救い、最期は穏やかにその生涯を終えた。
百年にも満たない付き合いだったが、長命種であるエルフの彼女にとって、今でも忘れられない色鮮やかな思い出の日々。
幼き日の勇者の姿を息子達の背に重ね、ガラッシアは思う。
(私はエルフで、あの子達は人間で──きっと私は、お前の時のように最期を看取る事になるのだろう。それは仕方の無い事だと分かってはいる。だが……)
──それでもやはり、いつも置いて逝かれてしまうのは……寂しいよ。
いつか来る別れを、息子達の記念すべき日に想像してしまうだなんて、母親として失格だ。
そう思いはするものの、子供の成長というのは早いもので……。
つい先日まで腕の中で眠っていた小さな赤子が、ふと気が付けば、元気に外を駆け回るわんぱく坊主になっている。
そう遠くない将来、子供達は好きな相手を見付け、結婚して家を出て行ってしまうだろう。
そうなればガラッシアは、いつ里帰りするとも知れない子供達の帰りを待つだけの日々だ。
(もっとこの子達と共に暮らしたいと願うのは、きっと私の我儘なのだろう……)
祈りの言葉だけが響く厳かな空間で、銀糸のエルフが表情を曇らせる最中、神官の祝詞は最後の一文に差し掛かる。
「慈悲深き女神、フィロソフィアの光の加護がこの者らにあらん事を……」
そうして神官が祈りを終えると、彼はゆっくりと振り返った。
「……これにて、魔力属性とスキル判定の儀式は完了となります。まずはそちらの茶色の髪の……ディックさん、でしたね」
「お、おう!」
緊張した面持ちで返事をしたディック。
魔力属性には一から十までの能力段階があり、数字が大きい程、その属性の魔法に高い適性を持っている事になる。
例えば、火属性の一段階であれば、小指の爪程度の大きさの炎を出すので精一杯。反対に、十段階であれば街一つを吹き飛ばす程の大爆発を起こせてしまう。
平均的には三~七までの適性を持つ者が大部分を占めている。その判定には『鑑定スキル』を持つ神官などが集まる神殿に赴くのが一般的であり、それ以外の手段では滅多に自身の能力を知る事は出来ない。
「ディックさん。貴方の魔力属性は、風の三段階です。そして、所有スキルは『見切り』。能力段階については、まだ成長の見込みがあるようですね」
「風属性……! 母さんと同じだ‼︎」
子供の内に三段階と判定されるのは、将来有望であると言われている。
身体の成長と共にある程度の段階アップが見込める為、『見切り』のスキルと合わせて、なかなかに期待の持てる結果だ。
母と同じ風属性持ちだと知ったディックは、ぶんぶんと尻尾を振る子犬のように喜びを露わにしていた。
「続いて赤髪の……ザインさん、でしたね」
「は、はい……!」
義兄弟の華々しい判定結果に、思わず唇を噛み締め、緊張するザイン。
剣の腕でディックに劣るザインにとって、この判定は心臓が破裂しそうな程に不安の大きいものである。
神官はザインに目を向け、口を開く。
「ザインさん。貴方の魔力属性は──」
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これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
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