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二章
21話
誓約の儀から5日が経つ。祝いの品の中で普段の生活に使えそうなものを部屋に置き、宝石等の財産は新たに作られた保管庫に収められている。
エンティーはベッドから目覚めては、これは夢ではないかと頬を抓る朝を繰り返す日々が続いていた。シャングアとは、食事以外は顔を合わせる機会が無い。彼は見合いから逃げてはいたが、公務には真面目に取り組んでいるからだ。貴重な休憩時間を割いて会いに来てくれていた事実に気づいたエンティーはシャングアに謝り、彼は「そんなこと言わないで」と慌てて話す場面が夕食時あった。
ティーセットと焼菓子のクッキーを乗せたトレーを持つリュクは、廊下を歩いて行く。
《カンッカンッ》と音が、エンティーの部屋に近づく程に大きくなっていく。
「エンティー。少し休憩したらどうだ?」
軽く扉を叩いた後、入室をしてきたリュクは、足踏み式の機織りを行っているエンティーに言う。
用意された絹糸を使い、4日間でおよそ10mの長さまで布が出来上がっている。食事と講師との勉強、時折読書をしているが、多くの時間を機織りに費やしている。
エンティーはΩだからと評価されていなかったが、同じ年頃の中でも機織りが速く、布の仕上がりは綺麗であった。リュクはそれを知っているが、だからと言って続けさせては彼が体調を崩す原因になってしまう。
「大丈夫」
「ずっと座って同じ姿勢で作業し続けるのは体に悪い。休憩をして、自分の体を大事にしないと」
机にトレーを置き、リュクはもう一度言う。このやり取りは、3日前から行っている。最初の内は満足すれば終わるだろうと見守っていたが、今は止めるべきだと思い引かなかった。
「あと少しくらい……」
「駄目だ。休憩してくれ」
さらに強く言われ、エンティーは渋々ではあるが休憩をする事に決めた。
祝いの品として運び込まれたソファへ寝転び、エンティーはクッションへと全体重を掛けると、大きなため息を着いた。
「何か悩みでもあるのか?」
リュクには、気を紛らわす為にエンティーが機織りに集中しているように見えた。そう思い問いかけると、エンティーは素直に頷いた。
「あるよ。だって、俺は普通の誓約と違うでしょう? 沢山のお祝い貰って、でも俺はそれに見合うのかなって。せめてお返しできればと思って、布を織っているんだ」
祝いであってもそれ程の価値が自分にあるなんて、エンティーは全く思えない。シャングアへ贈ると言い、今織っている布は祝いの品々に比べ、霞んで見える程だ。だが、何もしないわけにはいかず、今の自分が出来る事をと機織りを続けていた。
「エンティーが織った布なら、きっとみんな喜んでくれるさ」
エンティーはいつ折れてもおかしくない程に後ろ向きの考えを持っていながらも、ひた向きな明るさを持っている事を、リュクはある程度理解している。周囲から否定され自己肯定感を踏み潰され続けても、その強さがあったからエンティーは笑顔を失わなかった。
「そうだと良いけれど」
「絶対喜ぶって」
「……シャングアも?」
最近聞いた中でも一番不安そうな声でエンティーは言った。
それに対し、その名前が一番に出た事をリュクは内心喜ぶ。
「あの人なら、エンティーが贈るものは全部喜ぶさ」
リュクの迷い言葉に、エンティーはほんのり顔を赤くする。気持ちが上向きになると、顔に直ぐに出てしまう癖が彼にある。
そうだと良いな、とエンティーは呟く。
「不安なら、オレがエンティーから贈り物がありますって伝えて、様子を見ようか?」
さらに前進させる為、リュクは間に入るかあえて聞く。エンティーは起き上がるとすぐさま首を振った。
「ううん。自分で伝えて、自分で渡す」
「わかった。それなら、尚更身体はちゃんと休めろよ」
「うん」
エンティーは頷き、クッキーを一口食べた。
さっくりとしながら口の中で解れる生地に、程よい甘さ。エンティーは自然と笑みが零れた。
エンティーはベッドから目覚めては、これは夢ではないかと頬を抓る朝を繰り返す日々が続いていた。シャングアとは、食事以外は顔を合わせる機会が無い。彼は見合いから逃げてはいたが、公務には真面目に取り組んでいるからだ。貴重な休憩時間を割いて会いに来てくれていた事実に気づいたエンティーはシャングアに謝り、彼は「そんなこと言わないで」と慌てて話す場面が夕食時あった。
ティーセットと焼菓子のクッキーを乗せたトレーを持つリュクは、廊下を歩いて行く。
《カンッカンッ》と音が、エンティーの部屋に近づく程に大きくなっていく。
「エンティー。少し休憩したらどうだ?」
軽く扉を叩いた後、入室をしてきたリュクは、足踏み式の機織りを行っているエンティーに言う。
用意された絹糸を使い、4日間でおよそ10mの長さまで布が出来上がっている。食事と講師との勉強、時折読書をしているが、多くの時間を機織りに費やしている。
エンティーはΩだからと評価されていなかったが、同じ年頃の中でも機織りが速く、布の仕上がりは綺麗であった。リュクはそれを知っているが、だからと言って続けさせては彼が体調を崩す原因になってしまう。
「大丈夫」
「ずっと座って同じ姿勢で作業し続けるのは体に悪い。休憩をして、自分の体を大事にしないと」
机にトレーを置き、リュクはもう一度言う。このやり取りは、3日前から行っている。最初の内は満足すれば終わるだろうと見守っていたが、今は止めるべきだと思い引かなかった。
「あと少しくらい……」
「駄目だ。休憩してくれ」
さらに強く言われ、エンティーは渋々ではあるが休憩をする事に決めた。
祝いの品として運び込まれたソファへ寝転び、エンティーはクッションへと全体重を掛けると、大きなため息を着いた。
「何か悩みでもあるのか?」
リュクには、気を紛らわす為にエンティーが機織りに集中しているように見えた。そう思い問いかけると、エンティーは素直に頷いた。
「あるよ。だって、俺は普通の誓約と違うでしょう? 沢山のお祝い貰って、でも俺はそれに見合うのかなって。せめてお返しできればと思って、布を織っているんだ」
祝いであってもそれ程の価値が自分にあるなんて、エンティーは全く思えない。シャングアへ贈ると言い、今織っている布は祝いの品々に比べ、霞んで見える程だ。だが、何もしないわけにはいかず、今の自分が出来る事をと機織りを続けていた。
「エンティーが織った布なら、きっとみんな喜んでくれるさ」
エンティーはいつ折れてもおかしくない程に後ろ向きの考えを持っていながらも、ひた向きな明るさを持っている事を、リュクはある程度理解している。周囲から否定され自己肯定感を踏み潰され続けても、その強さがあったからエンティーは笑顔を失わなかった。
「そうだと良いけれど」
「絶対喜ぶって」
「……シャングアも?」
最近聞いた中でも一番不安そうな声でエンティーは言った。
それに対し、その名前が一番に出た事をリュクは内心喜ぶ。
「あの人なら、エンティーが贈るものは全部喜ぶさ」
リュクの迷い言葉に、エンティーはほんのり顔を赤くする。気持ちが上向きになると、顔に直ぐに出てしまう癖が彼にある。
そうだと良いな、とエンティーは呟く。
「不安なら、オレがエンティーから贈り物がありますって伝えて、様子を見ようか?」
さらに前進させる為、リュクは間に入るかあえて聞く。エンティーは起き上がるとすぐさま首を振った。
「ううん。自分で伝えて、自分で渡す」
「わかった。それなら、尚更身体はちゃんと休めろよ」
「うん」
エンティーは頷き、クッキーを一口食べた。
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