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三章 夏霞の2人
22.1人、部屋で悩む
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ゼネスは早速ニネティスに報告をしようと、彼女の居場所を館の亡霊に訊いた所、夜の帳を下ろす為に地上に出ている為、不在だった。亡霊へ伝言を頼み、ゼネスは使わせてもらっている客室へと戻った。楽園のアイデンへ見舞いの品を贈れたと伝えに行こうと思ったが、テーブルに紙が置いてあることに気づき、ゼネスは椅子へと座る。
それは、剣の捜索の為にシャルシュリアが派遣した隊の報告書だ。たった2枚である事に不思議に思ったゼネスだが、内容を読み進めるうちに真剣な面持ちとなって行く。
捜索隊は各層の番人達で結成されている。当初はゼネスと同様に各部屋の捜索を行っていたが、突如発生した原因不明の揺らぎによって、楽園の英雄を除く一部の番人達と冥界に影響が及んだ。冥界の体制を崩すほどではないが、隊は再編成され、現在は正常に動ける番人が各層の被害状況を確認しつつ、剣の捜索を行っている。その為、捜索には時間を要する。
「揺らぎって……」
ゼネスは1枚の報告書を読む。そこには、苦園の番人の5割、草園は3割が影響を受けたと書かれている。一時的な意識の消失、視力の低下などの影響が番人達にみられたが、魔獣達のおかげで異変は察知されず、亡霊の中に逃亡を試みる者はいなかった。
苦園や草園の番人は、シャルシュリアの力によって生み出された眷属だ。今は個として確立していたとしても、根源である冥王の力に体が反応してしまったと推察される。
転生の剣で首を切り落とそうと試みるシャルシュリアの元へ駆け寄ろうとした時、感じ取ったうねり。あれは転生の剣でその身を傷付けた事によって、冥界に不完全な状態で流れてしまったシャルシュリアの力の一部だ。アイデンは空気が揺らいだと言っていたが、それは地震のように震源地から遠く被害が少ないので、感じ取れるのは彼くらいだった。
報告書を読み終えたゼネスは、大まかに理解をした。
だが、疑問が湧いて来る。人的被害は出ているが、各層で発生しうる被害が記されていない。地上の災害の様に目に見える程でないとしても、番人だけ詳しく書かれているのは首を傾げる。
混沌の神が、冥界を守ったのか?
ゼネスはそう思い、腕を組んで悩んだ。
世界の卵を生み出したが、主神の座には着かず、権力や崇拝から逸脱した存在。
それが混沌の神だ。
行動は天神でも予測不可能。シャルシュリアの証言から、儀式を中断させようと金の首飾りの仕組みを利用したのは確かだ。だが、彼を助けようと計画を立てていたニネティスからは、混沌の神について発言は無い。
シャルシュリアを助ける為だけであれば、機会によってはニネティス達で事足りる。
何かまだ別も目的があり、混沌の神は地上から来た若い神にだけに力を貸した。
「あっ……もしかして」
泉から冥界へと落とされたのは、冥界の神の仕業だろうか?
ニネティスが転生の剣を隠したように、冥界の神もそれが出来るのではないか?
ゼネスは疑問が湧く中、なぜ自分が選ばれたのか気になり始める。
地上の神々は、人間達に崇拝され、町や各地に神殿が築かれる程の威光を体現する実力者揃いだ。
彼らの方が、と思いかけるゼネスだが、それは無いと考えを切り捨てる。責任感が強く生真面目なシャルシュリアと、感情の起伏が激しく自由奔放な性格が多い地上の神とでは、折り合いが悪すぎる。地上が〈動〉であれば冥界は〈静〉であり、均衡を崩しかねない。その為、ニネティスも冥界の神々だけで対処しようとしていた。
冥界の神に選ばれたのは、まだ何の神であるか分からず、地上の価値観に染まりきっていないからだろう。さらにシャルシュリアが先程見せた子供に対する寛容さもあり、若者が適任であると判断された。
「うーん……」
この考えが正しければ、混沌の神の思惑通りにゼネスはシャルシュリアの懐へ入り、転生の阻止に成功した事となる。
推測を続けるゼネスだが、不安が影から現れ始める。
神の末席に座る為に年下として扱われるのは仕方がない。だが、庇護すべき対象と見なされてしまえば、シャルシュリアから頼られる可能性がより低くなる。今後、体調不良であっても誰にも言えず、1人で対処しようと抱え込み続けてしまう。
ニネティスが言っていた通り、同じことの繰り返しだ。
それはだけ、避けねばならない。
花を持って通い、会話を重ねていくうちに、彼は心を開き頼ってくれるだろうか。
彼が本音を言ってくれるような信頼関係を築けるのか。
「考えても、埒が明かないな……」
ゼネスは椅子から立ち上がり、大きく深呼吸をすると、自分の出来る最大限の行動をしようと改めて決意する。
それは、剣の捜索の為にシャルシュリアが派遣した隊の報告書だ。たった2枚である事に不思議に思ったゼネスだが、内容を読み進めるうちに真剣な面持ちとなって行く。
捜索隊は各層の番人達で結成されている。当初はゼネスと同様に各部屋の捜索を行っていたが、突如発生した原因不明の揺らぎによって、楽園の英雄を除く一部の番人達と冥界に影響が及んだ。冥界の体制を崩すほどではないが、隊は再編成され、現在は正常に動ける番人が各層の被害状況を確認しつつ、剣の捜索を行っている。その為、捜索には時間を要する。
「揺らぎって……」
ゼネスは1枚の報告書を読む。そこには、苦園の番人の5割、草園は3割が影響を受けたと書かれている。一時的な意識の消失、視力の低下などの影響が番人達にみられたが、魔獣達のおかげで異変は察知されず、亡霊の中に逃亡を試みる者はいなかった。
苦園や草園の番人は、シャルシュリアの力によって生み出された眷属だ。今は個として確立していたとしても、根源である冥王の力に体が反応してしまったと推察される。
転生の剣で首を切り落とそうと試みるシャルシュリアの元へ駆け寄ろうとした時、感じ取ったうねり。あれは転生の剣でその身を傷付けた事によって、冥界に不完全な状態で流れてしまったシャルシュリアの力の一部だ。アイデンは空気が揺らいだと言っていたが、それは地震のように震源地から遠く被害が少ないので、感じ取れるのは彼くらいだった。
報告書を読み終えたゼネスは、大まかに理解をした。
だが、疑問が湧いて来る。人的被害は出ているが、各層で発生しうる被害が記されていない。地上の災害の様に目に見える程でないとしても、番人だけ詳しく書かれているのは首を傾げる。
混沌の神が、冥界を守ったのか?
ゼネスはそう思い、腕を組んで悩んだ。
世界の卵を生み出したが、主神の座には着かず、権力や崇拝から逸脱した存在。
それが混沌の神だ。
行動は天神でも予測不可能。シャルシュリアの証言から、儀式を中断させようと金の首飾りの仕組みを利用したのは確かだ。だが、彼を助けようと計画を立てていたニネティスからは、混沌の神について発言は無い。
シャルシュリアを助ける為だけであれば、機会によってはニネティス達で事足りる。
何かまだ別も目的があり、混沌の神は地上から来た若い神にだけに力を貸した。
「あっ……もしかして」
泉から冥界へと落とされたのは、冥界の神の仕業だろうか?
ニネティスが転生の剣を隠したように、冥界の神もそれが出来るのではないか?
ゼネスは疑問が湧く中、なぜ自分が選ばれたのか気になり始める。
地上の神々は、人間達に崇拝され、町や各地に神殿が築かれる程の威光を体現する実力者揃いだ。
彼らの方が、と思いかけるゼネスだが、それは無いと考えを切り捨てる。責任感が強く生真面目なシャルシュリアと、感情の起伏が激しく自由奔放な性格が多い地上の神とでは、折り合いが悪すぎる。地上が〈動〉であれば冥界は〈静〉であり、均衡を崩しかねない。その為、ニネティスも冥界の神々だけで対処しようとしていた。
冥界の神に選ばれたのは、まだ何の神であるか分からず、地上の価値観に染まりきっていないからだろう。さらにシャルシュリアが先程見せた子供に対する寛容さもあり、若者が適任であると判断された。
「うーん……」
この考えが正しければ、混沌の神の思惑通りにゼネスはシャルシュリアの懐へ入り、転生の阻止に成功した事となる。
推測を続けるゼネスだが、不安が影から現れ始める。
神の末席に座る為に年下として扱われるのは仕方がない。だが、庇護すべき対象と見なされてしまえば、シャルシュリアから頼られる可能性がより低くなる。今後、体調不良であっても誰にも言えず、1人で対処しようと抱え込み続けてしまう。
ニネティスが言っていた通り、同じことの繰り返しだ。
それはだけ、避けねばならない。
花を持って通い、会話を重ねていくうちに、彼は心を開き頼ってくれるだろうか。
彼が本音を言ってくれるような信頼関係を築けるのか。
「考えても、埒が明かないな……」
ゼネスは椅子から立ち上がり、大きく深呼吸をすると、自分の出来る最大限の行動をしようと改めて決意する。
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