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38話 繊維工場
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ゆっくりと回転しながら玄関口を離れ、道路へと出た。目的地へと安全運転で向かう中、ネフィリアードとアリュスは拠点内を観察する。
歩道を歩く住人はフローラ達と同じ年頃の少女達しかいない。開店準備をする為に椅子やテーブルを外へ出す喫茶店も、雑貨屋や服屋も全てだ。
「綺麗な町でしょう? アタシ達が守ってるんだよ」
「……確かに綺麗だな」
外観に関しては、とネフィリアードは同意する。
雑草や不法投棄されたゴミは無く、建物の窓は曇り一つない程に磨かれている。花壇には暖色の花が咲き誇り、可愛らしい笑い声が聞こえてくる。
「曜日ごとに掃除係を決めて街を綺麗にして、花壇を作ったり、看板のペンキを塗り替えたり、皆で手を取り合って頑張っているんだよ」
王都クリアステルとは違った哀愁が漂いながらも、どの景色を切り取っても絵画の様だ。それでいて、別の世界に迷い込んだような薄気味悪さがある。
「帝王には綺麗な国を作って欲しいんだ。だって魔女達が国を守っていたら、どんどん腐っていくからさ」
「腐る……」
政治や経済の腐敗。偏った思想の上流階級と愚民の暴走によって、善良なる国民の生活に訪れる危機。価値観の更新が行われず独善とした宗教によって、内部から食い荒らされた国の末路。
ロズマキナにも暗黒期を含めて危険な時期、時代が幾つもある。
それを〈腐敗〉と言って差し支えないだろう。
だがフローラは夢物語に聞こえる会話の中に、強い願望を隠している。それは国の清浄化ではない。魔女の歴史を完全に滅ぼし、民族浄化を強行するに等しいものだ。
その為に獣人であるネフィリアードを玉座に座らせ、王に仕立て上げようとしている。
ネフィリアードは其れに気付いても、口を噤んだ。フローラ含めて少女達に出自や魔女との関係性を知ったうえで、冷静に判断したかったからだ。
「さぁ、ついたよ!」
目的地へと到着する。
拠点の何とは工場地帯となっており、魔動車が止まったのは大きな繊維工場だ。
レンガ積みの壁は潮風に晒されてきた歴史を無言で伝え、木製の扉や工場の名前が掘られた木製の看板は代えたばかりなのか真新しい。
フローラに続いて2人は魔動車から降り、共に工場の中へと入っていく。
「なっ……」
其の光景にネフィリアードは絶句し、声を漏らす。
ネフィリアードとアリュスが南の拠点に来て、魔女達にここでようやく会えた。
年は約14歳から70代までの作業着を着た魔女数百人が、魔力を動力に変換する機械の前で作業をしている。機械は繊維を糸に、糸を布にとそれぞれ役割毎に稼働し、音を立てている。
魔女が工場で働くのは、おかしなことではない。むしろ、彼女達の尽力があってこそ煌めく美しい国が形成されるのだ。だが、今この場で働く姿には違和感がある。その動きに工場で働くことへの慣れが見て取れるが、彼女達の顔は顔が強張り、目の下には疲労を湛えた隈がはっきりと表れている。そして、見回りの少女達が後ろを通り過ぎる度に、身体を縮こませる姿は痛々しさすら感じさせた。
「休憩の時間じゃないのに、座るな!!」
工場の西側から少女の声が聞こえ、2人はそちらへと顔を向ける。
そこでは、40代と思しき魔女が蹲り、少女が叱咤していた。
魔女は貧血を起こしているのか顔は蒼白し、手が震えてしまっている。見るからに体調不良だが、それでも少女は立つように命令し、周りの魔女は彼女を庇わずに作業を続けている。
「気にしないでね。いつもの事だから」
フローラは2人に対して優しい声音で言った。
「しかし……」
「アタシ達が苦しんでいる時は、もっと酷かったんだよ? ちょっと休んだだけで何度も蹴られた! 気分次第で腕を折られたり、火を押し付けられたりした子もいた!」
わざと工場全体に聞こえる様に、フローラは大声を発した。
疑う間もなく、フローラの近くへとやって来た少女が、可愛らしいエプロンドレスのスカートの裾をたくし上げる。ひざ下まで見せてくれた両足には、何重にも重ねられ決して消えることのない鞭打ちの傷跡が残っている。
「食事もパン一個と水一杯! 倒れて動かなくなったお姉ちゃん達を海に捨てられた! あいつらの為に頑張ったのに、休みなく働かされたんだから、同じ事やられても仕方ないよね!」
目の前に確かな証拠があり、フローラが嘘を言っている様には見えない。
「魔女達を海には捨ててないから安心して! ちゃんと生きてるし、治療して、何度も同じことをやってるからさ。アタシ達のお姉ちゃんが眠っている海を、あいつらで汚したくないんだー」
一体この地で何が繰り広げられていたのか分からず、ネフィリアードは困惑した。
人を、未成年を捨てるなんて、外道にも程がある。
「ここの魔女達は帝国と手を組んで、労働の為に違法な人工生命体を生産していたんだね」
冷静な態度を崩さないまま、アリュスは言った。
彼が帝国から離れて約7年。当時は技術不足であった人型の人工生命体の生産が、その間に完成させていても不思議ではない。
「最初から其の話をしなよ。ネフィリアードが困っているじゃないか」
「勿体付けて、ここぞという時に言いたかったのに、仕方ないペットだなぁ!」
やれやれ、とフローラは肩を竦めた。
歩道を歩く住人はフローラ達と同じ年頃の少女達しかいない。開店準備をする為に椅子やテーブルを外へ出す喫茶店も、雑貨屋や服屋も全てだ。
「綺麗な町でしょう? アタシ達が守ってるんだよ」
「……確かに綺麗だな」
外観に関しては、とネフィリアードは同意する。
雑草や不法投棄されたゴミは無く、建物の窓は曇り一つない程に磨かれている。花壇には暖色の花が咲き誇り、可愛らしい笑い声が聞こえてくる。
「曜日ごとに掃除係を決めて街を綺麗にして、花壇を作ったり、看板のペンキを塗り替えたり、皆で手を取り合って頑張っているんだよ」
王都クリアステルとは違った哀愁が漂いながらも、どの景色を切り取っても絵画の様だ。それでいて、別の世界に迷い込んだような薄気味悪さがある。
「帝王には綺麗な国を作って欲しいんだ。だって魔女達が国を守っていたら、どんどん腐っていくからさ」
「腐る……」
政治や経済の腐敗。偏った思想の上流階級と愚民の暴走によって、善良なる国民の生活に訪れる危機。価値観の更新が行われず独善とした宗教によって、内部から食い荒らされた国の末路。
ロズマキナにも暗黒期を含めて危険な時期、時代が幾つもある。
それを〈腐敗〉と言って差し支えないだろう。
だがフローラは夢物語に聞こえる会話の中に、強い願望を隠している。それは国の清浄化ではない。魔女の歴史を完全に滅ぼし、民族浄化を強行するに等しいものだ。
その為に獣人であるネフィリアードを玉座に座らせ、王に仕立て上げようとしている。
ネフィリアードは其れに気付いても、口を噤んだ。フローラ含めて少女達に出自や魔女との関係性を知ったうえで、冷静に判断したかったからだ。
「さぁ、ついたよ!」
目的地へと到着する。
拠点の何とは工場地帯となっており、魔動車が止まったのは大きな繊維工場だ。
レンガ積みの壁は潮風に晒されてきた歴史を無言で伝え、木製の扉や工場の名前が掘られた木製の看板は代えたばかりなのか真新しい。
フローラに続いて2人は魔動車から降り、共に工場の中へと入っていく。
「なっ……」
其の光景にネフィリアードは絶句し、声を漏らす。
ネフィリアードとアリュスが南の拠点に来て、魔女達にここでようやく会えた。
年は約14歳から70代までの作業着を着た魔女数百人が、魔力を動力に変換する機械の前で作業をしている。機械は繊維を糸に、糸を布にとそれぞれ役割毎に稼働し、音を立てている。
魔女が工場で働くのは、おかしなことではない。むしろ、彼女達の尽力があってこそ煌めく美しい国が形成されるのだ。だが、今この場で働く姿には違和感がある。その動きに工場で働くことへの慣れが見て取れるが、彼女達の顔は顔が強張り、目の下には疲労を湛えた隈がはっきりと表れている。そして、見回りの少女達が後ろを通り過ぎる度に、身体を縮こませる姿は痛々しさすら感じさせた。
「休憩の時間じゃないのに、座るな!!」
工場の西側から少女の声が聞こえ、2人はそちらへと顔を向ける。
そこでは、40代と思しき魔女が蹲り、少女が叱咤していた。
魔女は貧血を起こしているのか顔は蒼白し、手が震えてしまっている。見るからに体調不良だが、それでも少女は立つように命令し、周りの魔女は彼女を庇わずに作業を続けている。
「気にしないでね。いつもの事だから」
フローラは2人に対して優しい声音で言った。
「しかし……」
「アタシ達が苦しんでいる時は、もっと酷かったんだよ? ちょっと休んだだけで何度も蹴られた! 気分次第で腕を折られたり、火を押し付けられたりした子もいた!」
わざと工場全体に聞こえる様に、フローラは大声を発した。
疑う間もなく、フローラの近くへとやって来た少女が、可愛らしいエプロンドレスのスカートの裾をたくし上げる。ひざ下まで見せてくれた両足には、何重にも重ねられ決して消えることのない鞭打ちの傷跡が残っている。
「食事もパン一個と水一杯! 倒れて動かなくなったお姉ちゃん達を海に捨てられた! あいつらの為に頑張ったのに、休みなく働かされたんだから、同じ事やられても仕方ないよね!」
目の前に確かな証拠があり、フローラが嘘を言っている様には見えない。
「魔女達を海には捨ててないから安心して! ちゃんと生きてるし、治療して、何度も同じことをやってるからさ。アタシ達のお姉ちゃんが眠っている海を、あいつらで汚したくないんだー」
一体この地で何が繰り広げられていたのか分からず、ネフィリアードは困惑した。
人を、未成年を捨てるなんて、外道にも程がある。
「ここの魔女達は帝国と手を組んで、労働の為に違法な人工生命体を生産していたんだね」
冷静な態度を崩さないまま、アリュスは言った。
彼が帝国から離れて約7年。当時は技術不足であった人型の人工生命体の生産が、その間に完成させていても不思議ではない。
「最初から其の話をしなよ。ネフィリアードが困っているじゃないか」
「勿体付けて、ここぞという時に言いたかったのに、仕方ないペットだなぁ!」
やれやれ、とフローラは肩を竦めた。
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