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1章 モブ令嬢と精霊の出会い
2話 図書室で情報収集
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翌朝。
「お父様の嘘つき!」
玄関先で、私は怒った。
「こら、ミュー! 御父様は仕事なんだぞ」
同じ髪と瞳の色をした活発そうな二歳年上の兄《イグルド》が私を叱る。
明日になったら話を沢山聞いてくれると約束していたお父様が、急遽国王に呼ばれたからだ。私はお父様と話が出来ると楽しみにしていた。お父様は多忙だから20分くらい話せれば充分と思っていた。なのに、朝ご飯も一緒に食べられないなんて、余りにも酷い。
今回の災害について被害状況は手紙で報告されていたはずなのに、わざわざ呼び出す国王もどうかしていると思った。被災地の指揮を行っているお父様が、このままでは過労で倒れてしまいそうだ。
「すまない。ミューゼリア」
床に膝を着き、私と目線を合わせながらお父様は謝罪する。
心から申し訳なく思っている。そんな様子で眉をハの字に下げながら言うお父様を見て、私はそれ以上何も言えなくなる。
「私の方こそ、ごめんなさい……お父様が大変なのは、分かっているんです」
私は黄色のワンピースのスカートを握り締めつつ、弱弱しい声で言った。
苦労が重なり続けるお父様。昨日も充分に眠れているか定かではない。
そんなお父様を困らせなくないと思っているが、子供の体の為か意思に反して感情が溢れ出てしまう。
「ありがとう。父想いの優しい子を持てて、私は幸せな男だ」
お父様は私の頭を優しく撫でると、立ち上がる。
「イグルド。サリィとミューゼリアを頼んだぞ」
「はい。御父様」
兄様は大きく頷き、お父様は安心した様子で馬車へと向かう。
「いってきます」
馬車の扉が閉まる前、お父様は2人に向かって言った。
「いってらっしゃい」
「お気をつけて」
三人はひと時の別れの挨拶を済ませる。
やってしまった……
そう内心反省しつつ私は、屋敷の中にある図書室に入り、本を探していた。
求めているのは、このイリシュタリア王国の伝承が載る本だ。
リティナの代役はなれないと悟ったが、だからと言って情報収集は欠かせない。勉強は令嬢として欠かせない。
「あっ。あった」
分野別に割り振られた本棚を見て回り、目的の本を見つけた。赤銅色の古めかしい本は、最上段に保管されているので手が届きそうにない。
梯子か踏み台を持って来なければ、と周囲を探そうと思った時、背後から気配がする。
「どの本をお探しですか?」
20代後半程の見た目をした兵士が私に声を掛ける。
黒に近い赤色の髪に切れ長の赤い瞳。少しだけ尖った耳の中世的な容姿をした長身の男性。
私の警護を任されている兵士リュカオンだ。
「えっと、一番上の、この国の伝承が載っている古い本」
「こちらですか?」
「うん。それ」
赤銅色の本を難なく手に取ったリュカオンは、私に本を渡してくれた。
「ありがとう」
「勿体ないお言葉です」
本を受け取り、私はお礼を言うと、リュカオンは深々と頭を下げる。
大げさだな、と思うが、それ程にリュカはレンリオス家に対する忠誠心は強い。
リュカオンは若いように見えるが、実際は80歳を超える年齢。その若さを保っていられるのは、妖精と人間の混血だからだ。
人でもなく妖精でもない彼は、幼少の頃から両者から忌み嫌われ、迫害された。人間の父親は失踪し、彼を育てた妖精の母は病死した。残されたリュカオンは、行く当てを無くし彷徨い続けた。レンリオス家の先代当主であるお爺様が趣味の狩猟の最中、森の中で倒れていた彼を発見し、屋敷で介抱すると兵士として雇い入れた。反対が多かった筈だが、それでもお爺様は彼を信じる事を選んだ。他の人間と変わらず接してくれるお爺様に対しリュカオンは心から感謝すると共に、レンリオス家の為に忠義を尽くすと決意した。
「親切にしてもらったらお礼を言うのは当然だよ」
私はそう言って読書用の椅子に座り、本を読み始める。
「お父様の嘘つき!」
玄関先で、私は怒った。
「こら、ミュー! 御父様は仕事なんだぞ」
同じ髪と瞳の色をした活発そうな二歳年上の兄《イグルド》が私を叱る。
明日になったら話を沢山聞いてくれると約束していたお父様が、急遽国王に呼ばれたからだ。私はお父様と話が出来ると楽しみにしていた。お父様は多忙だから20分くらい話せれば充分と思っていた。なのに、朝ご飯も一緒に食べられないなんて、余りにも酷い。
今回の災害について被害状況は手紙で報告されていたはずなのに、わざわざ呼び出す国王もどうかしていると思った。被災地の指揮を行っているお父様が、このままでは過労で倒れてしまいそうだ。
「すまない。ミューゼリア」
床に膝を着き、私と目線を合わせながらお父様は謝罪する。
心から申し訳なく思っている。そんな様子で眉をハの字に下げながら言うお父様を見て、私はそれ以上何も言えなくなる。
「私の方こそ、ごめんなさい……お父様が大変なのは、分かっているんです」
私は黄色のワンピースのスカートを握り締めつつ、弱弱しい声で言った。
苦労が重なり続けるお父様。昨日も充分に眠れているか定かではない。
そんなお父様を困らせなくないと思っているが、子供の体の為か意思に反して感情が溢れ出てしまう。
「ありがとう。父想いの優しい子を持てて、私は幸せな男だ」
お父様は私の頭を優しく撫でると、立ち上がる。
「イグルド。サリィとミューゼリアを頼んだぞ」
「はい。御父様」
兄様は大きく頷き、お父様は安心した様子で馬車へと向かう。
「いってきます」
馬車の扉が閉まる前、お父様は2人に向かって言った。
「いってらっしゃい」
「お気をつけて」
三人はひと時の別れの挨拶を済ませる。
やってしまった……
そう内心反省しつつ私は、屋敷の中にある図書室に入り、本を探していた。
求めているのは、このイリシュタリア王国の伝承が載る本だ。
リティナの代役はなれないと悟ったが、だからと言って情報収集は欠かせない。勉強は令嬢として欠かせない。
「あっ。あった」
分野別に割り振られた本棚を見て回り、目的の本を見つけた。赤銅色の古めかしい本は、最上段に保管されているので手が届きそうにない。
梯子か踏み台を持って来なければ、と周囲を探そうと思った時、背後から気配がする。
「どの本をお探しですか?」
20代後半程の見た目をした兵士が私に声を掛ける。
黒に近い赤色の髪に切れ長の赤い瞳。少しだけ尖った耳の中世的な容姿をした長身の男性。
私の警護を任されている兵士リュカオンだ。
「えっと、一番上の、この国の伝承が載っている古い本」
「こちらですか?」
「うん。それ」
赤銅色の本を難なく手に取ったリュカオンは、私に本を渡してくれた。
「ありがとう」
「勿体ないお言葉です」
本を受け取り、私はお礼を言うと、リュカオンは深々と頭を下げる。
大げさだな、と思うが、それ程にリュカはレンリオス家に対する忠誠心は強い。
リュカオンは若いように見えるが、実際は80歳を超える年齢。その若さを保っていられるのは、妖精と人間の混血だからだ。
人でもなく妖精でもない彼は、幼少の頃から両者から忌み嫌われ、迫害された。人間の父親は失踪し、彼を育てた妖精の母は病死した。残されたリュカオンは、行く当てを無くし彷徨い続けた。レンリオス家の先代当主であるお爺様が趣味の狩猟の最中、森の中で倒れていた彼を発見し、屋敷で介抱すると兵士として雇い入れた。反対が多かった筈だが、それでもお爺様は彼を信じる事を選んだ。他の人間と変わらず接してくれるお爺様に対しリュカオンは心から感謝すると共に、レンリオス家の為に忠義を尽くすと決意した。
「親切にしてもらったらお礼を言うのは当然だよ」
私はそう言って読書用の椅子に座り、本を読み始める。
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