追放投獄全部乗り越えて復讐を、執着無双の脱獄者〜夜だけ最強?いえ闇の中ならいつでも最強です〜

鮎川重

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第一章 アルカトラからの脱出

16.魔拳

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「よっと!」
「俺は一体何を見てるんだ……。」
「すみませんすみません、私にも理解出来ません……。」

 アルカトラも終盤を迎え辺りは段々と明るくなっている。キュキュの件が落ち着いた時が二十層だったから、短時間でかなりの進捗をしている気がするが、この期間ガジュは一度として拳を握っていなかった。足を使ったとかいう屁理屈を捏ねている訳でも、魔物が一切いないという異常事態が起きている訳でもない。

 ただガジュの前を歩く少女が、あまりにも強すぎるだけである。

「ユン、そんなに強いことどうして今まで隠してたんだよ……。」
「いやーめんどくさかったから以外に理由なんてないって。僕の怠惰を舐めない方がいいよ。僕は自分がサボる為ならどんな嘘だってつくからね。」

 手早く魔物を片付けながらユンがそう語る。ガジュは確かにユンに対して「キュキュの倍働け!」と言っていたが、あれはあくまでも支援的な意味だった。基本はガジュが最前線に立ち、キュキュに向かっていった敵やガジュが倒し損ねた敵をユンが倒す。精々その程度しか求めていなかったが、ユンの実際の働きは真逆。

 ユンが最前線に立ち、自分に向かってくる魔物もキュキュやガジュに向かう魔物も全て一掃。その動きは極めて洗練されており、ガジュのように力任せに魔物を打ち砕く雑な戦い方は一切見せず、ただ一発一発を的確に命中させ最小限の動きで魔物を倒していった。運動神経がいいから戦えるとかそういう次元を超えた先の話、近接戦闘の技量だけでいえばキュキュどころかガジュと比較してもユンに軍配が上がるだろう。

「その細い体でどうやって魔物を一撃で倒せるんだよ。急所を狙うって言ってもある程度火力は必要なはずだろ?」
「ふっふーん、いいかい?ガジュ。力というのは筋肉だけじゃないのだよ。人間の体には、『魔力』というもう一つの力が存在している!」

 ある程度魔物を片付け、今度は講釈を垂れたくなったのだろう。ユンはぶらぶらと歩き、その若干ぷにぷにしたか弱い腕を見せつけながら話し始める。

「そもそも魔力というのは全生物の体を巡る生命エネルギーが変化したものでね。生命エネルギーは皆にあれど魔力を持ってる人はごく一部。その一部の人が魔道士になったりするんだけど……ガジュってそもそも魔法がどうやって使うものか知ってる?」
「確か精霊の力を借りるんだろ?元仲間が『私は闇の精霊と相性が悪いから~』とか溢してたのを覚えてる。」
「そうそう!僕ら魔道士は精霊と契約して魔法を使わせて貰う、そしてその対価として魔力を精霊に食べさせてるんだ。だから厳密な工程としては、呪文を唱えて精霊を呼ぶ、精霊が人の体から魔力を探して食べる、その対価として精霊が魔法を放つ。魔道士は偉そうに魔法を使うけど、僕らがやってる事は超常現象でも何でもなく、ただ餌を提供してるだけなんだよ!」

 実にわかりやすい解説が述べられ、魔法というものへの理解が進む。だが結局ユンの強さについては説明されていない。ガジュがそんな横槍を入れるまでもなく、ユンの説明が続いていった。

「そういうプロセスがあるから呪文を唱えてから魔法を使うまでの間には若干のタイムラグが発生するんだ。」
「精霊が人の全身を巡る魔力を探す時間か。」
「そうそう。素早く循環してるから餌として一定量を確保しようとすると結構長い時間になるんだよ。だから魔道士は呪文を長ったらしくしてこのタイムラグを埋めるふりをしてるんだ。けど僕はそこで思った!これ、短縮できるんじゃね!?」
「短縮……。確かにユンの魔法は精々四文字ぐらいだな。」
「僕は体を巡る魔力を上手くコントロールして体の一部に集中させることで、精霊に一瞬で魔力を見つけさせる事に成功したんだよ。で、こっからが本題ね。僕が編み出した魔力のコントロールは詠唱の省略だけじゃなく、格闘術にも応用が効いて、拳に魔力を集中させる事で爆発的な火力を生み出せるんだ!その名も『魔拳』!世界で僕しか使えない格闘術!」

 ユンが長ったらしい話を終え、自慢げにガジュに笑いかける。魔力のコントロール。魔道士でもなく魔力もないガジュからすれば縁遠い話だが、ユンが凄まじい才能を持っていることだけは伝わった。彼女が唱えるアホみたいな魔法達は洗練された技術と経験に基づく合理的結果。その事実を知れただけで見る目は変わる。

「さて、ガジュ。長話をしている間にどうやら目的地へ辿り着いたようだよ!」
「え?あぁ、本当だ!」

 ガジュ達の目の前にそびえ立つ巨大なカラクリと階段。階段の先からは光が溢れているし、間違いなくこの先が地上だろう。この階段を登れば念願のアルカトラ脱獄。だがしかし、ガジュ達にはまだやることがある。

「よしここまでありがとなユンにキュキュ。色々ありはしたが、四十層近くあるダンジョンを簡単に通過できたのは間違いなく二人のお陰だ。」
「どしたのさ急に改まって。僕はこれまでサボってたし、キュキュちゃんに至っては発狂してただけなんだからどちらかというと感謝すべきは僕らの方だよ。」
「すみませんすみません。何も覚えていませんがすみません!」

 巨大なカラクリ、エレベーターと思しき物体の前で立ち止まり仲間達と向き合うガジュ。本来であればこのダンジョン部分がアルカトラでも最難関なはずだが、この間ガジュは本当に何もしていない。暴れるキュキュに操られて森を駆け抜け、躍動するユンの後をのんびりと歩いただけ。だがここからは、ガジュの仕事だ。

「俺はこれから百層に戻ってシャルルを解放する。だが二人にはここに残っておいて欲しい。」
「えぇ?なになにここまできておさらば?僕ら三人とシャルちゃんで『クリミナル』なんじゃないの。」
「それはそうだが、二人にはもっと別にやって貰いたい事があるんだよ。二人には今からここに登ってくる犯罪者達を捕まえておいて欲しいんだ。」

 ガジュはそう言ってエレベーターへ乗り込み、ユン達に指示をする。ガジュのアルカトラ脱獄に便乗して、今現在この監獄からは大量の囚人が脱獄している。壁となるはずのダンジョンに生息する魔物はユン達が倒してしまったから、彼らはただ数十階層を歩くだけで脱獄できるだろう。しかしそれは許されていいことではない。

 ガジュはあくまで冤罪でここに放り込まれただけであり、亜人達はともかく並み居る大犯罪者達を逃してやる義理はない。というか逃してはいけないのだ。加えてガジュは今からシャルルを助けに行く。正義と秩序を重んじる彼女を仲間にしようとしているのに、「アルカトラの囚人全部逃したよ!」なんて言えばシャルルはきっと発狂するだろう。

 その旨を軽く説明すると、ユン達も理解してくれたようだ。

「まぁ分かったよ。お願いだからあの変態看守に殺されたりしないでね?僕らの地上での生活はガジュにかかってるんだから。」
「お役に立てずすみませんすみません。犬は羊を追いかけるのも仕事のうちですから精一杯頑張りますすみません。」
「心配しなくても大丈夫だ。俺は必ずカナンを倒しシャルルを連れ帰る。じゃ、またな。」

 それだけを言い残し、ガジュはエレベーターで百層を目指していく。どの道カナンとの戦闘は一人で行うと決めていた。自分はここから出た後ハクアを殺しに行くのだ、カナンにぐらいは打ち勝たなければ何も始まらない。キュキュもユンも優秀な戦力、だが彼女達に依存しているようでは、追放されたあの時と同じである。

 ガジュはそんな決意を胸に深い闇へと降り立った。
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