追放投獄全部乗り越えて復讐を、執着無双の脱獄者〜夜だけ最強?いえ闇の中ならいつでも最強です〜

鮎川重

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第二章 ユギ村の災害

28.本当の災害

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「キュキュ!周りから人が出す音は聞こえるか!?ハクア達が近くにいるはずだ!」
「すみませんすみませんこの化け物が這い回る音がうるさすぎて聞こえません!」

 森の中へと降り立ったガジュ達四名の前の視界を埋め尽くすように動く太くて長いウネウネした物体。先端の辺りが若干細くなっているところからしても多分この巨大さでも尻尾の先なのだろう。上空からならともかく地上からはその全容を把握することすら出来ない。
 頼りになるのはキュキュの聴覚ぐらいだったが……どうやら動くだけで大地が揺れる巨大生物を前にするとそれすらも使い物にならないようだ。

「凄い大きさの凍龍だねぇ……。というか本当にいたんだこんなお伽噺の生物。」
「トウリュウ?何だ、ユンこいつが何か知ってるのか。」
「知ってるも何も聞いたことない?北~の山には凍龍が、西~の谷には炎龍が~ってしょうもない童歌。」
「いや……ユギ村では聞かなかったな。うちには俺とハクアぐらいしか子供なんていなかったし。」
「シャルも知りませんね。あそこの囚人達は皆人生の半分以上を檻で過ごしていましたから。」

 這い回る龍を眺めながら、ユンがお気楽に感心の声をあげる。お伽噺や童歌。確かに目の前にいるこれはそういうレベルの存在だろう。ガジュもそれなりの量の魔物を討伐、いやガジュ自体は特に何もしていないから観測という言葉が適切だろうか。何にせよガジュの持つ豊富な魔物知識の中にこんな化け物は刻まれていない。

「で、その凍龍って奴は何者なんだ。どうして急にこんなのが山に現れた。」
「う~ん考えられる要因は色々あるけど、一番はスノアスキュラじゃないかな。人間を食べる為に村の環境を極寒にしたスノアスキュラ、を食べるためにどこかから現れた凍龍って感じじゃない?確かこの魔物物凄く目が悪くて、その巨大な皮膚から感じる温度だけを頼りに獲物を探すんだよね。その中で熱い所を好むのが炎龍、寒い所を好むのが凍龍と。」
「なるほどなぁ……。で?この寒さの原因もこの化け物なのか。」
「恐らく。口からとんでもない冷気を噴出するとかそんな話がなかったようなあったような。スノアスキュラを倒してもこいつが冷気を出してるから寒さだけ残ってるんだよ。もしかしたら例の方々も頭の方で固まってるかもね!」

 人が凍死しているかもしれないというのにユンは相変わらず楽しそうな口調でポーズを決め、凍龍の頭と思われる位置を指差す。
 ガジュ個人の意見としてはハクア達が死んでいても最悪いいといえばいいのだが、流石にこの化け物を討伐するには彼らの力が必要かもしれない。そもそも討伐出来るような代物なのかもわからないが、愛すべき故郷を救う為ならば己の復讐心など二の次だ。

「取り敢えず前に行くぞ。捕まれ!」
「【強化】!」

 かくのごとくガジュの体に三人がしがみつき、キュキュのスキルと合わせた超ジャンプで大地から跳び上がる。全力を出したつもりだったが、この高度まで上がっても尚凍龍の全身は見切れない。
 ガジュは取り敢えず頭がありそうな方向へ降り立ち、辺りを見渡す。凍てつくような空気と揺れ動く地面。その中にひっそりと、炎の壁に身を隠した一団がいるのを発見した。

「おうハクア。黒曜……いや黒曜等級になり損ねた奴らが随分惨めな姿だな。」
「ガジュ……お前達も早く対策した方がいい。この見知らぬ化け物の側にいると内臓から凍りつくぞ。」
「ガジュガジュ!イキってないでその人の言うことに従うべきだよ!死ぬ!このままいくと間違いなく死ぬ!」

 ユンが捲し立てながらガジュの体をぶっ叩き、ラナーナが魔法で作ったのであろう炎の安全地帯へと足を踏み入れる。そこに身を寄せていた『カイオス』の三人を睨みつけ、ガジュは腰を下ろした。

「前回はシチューに夢中だったからね。改めてこんにちはカイオスの皆様。僕はそこで苛立ってる人の仲間、天下無双のユンちゃんです。貴方がこの壁作った魔道士さんですか?炎の精霊に愛されていますねぇ。」
「ど、どうも。」
「ラナーナ、その馬鹿は相手にしない方がいいぞ。」

 目の前で凍龍がスノアスキュラを食すべく蠢いているというのに、ユンはなんとも呑気にハクア達へ挨拶をし始める。そんな馬鹿を他所に、ガジュはユンから聞いた凍龍の話を伝え始める。

「なるほど、凍龍……。恐らくその魔物で間違ってないだろう。俺達が山でスノアスキュラを討伐していたらこいつが唐突に地面から這い出てきて全てを掻っ攫っていったんだ。一度は倒そうとしたがこの巨体だ、そもそも攻撃が効いてるのかすら分からない。」
「しかもこいつはスノアスキュラを追って村に向かってる。デカすぎるから動きは遅いみたいだけど……放っておけばユギ村はまとめて舗装されてしまうよ。」

 ハクアとレザが口々に状況を伝え、辺りに諦めにも似た空気が蔓延していく。確かに絶望的状況だが彼らが生きているのはなんだかんだ幸運である。この巨大な化け物を倒す策を実行するには、この三人の力が必要だ。
 ガジュは頭に浮かんだ唯一の方法を実現するべく、元仲間に声をかける。この三人に何が出来て何が出来ないのかぐらいは知り尽くしている。

「ラナーナ。お前は闇魔法が得意だったよな。それを使って俺の周りを暗くしろ。」
「はぁ……?なんであたしがそんな事を。」
「この際だから教えてやる。俺はお前らが思っているような『夜しか戦えない雑魚』じゃない。俺の正しい肩書きは『暗ければいつでも最強の男』だ。」

 炎の壁に包まれながらガジュは立ち上がり、握った拳を掲げる。ハクア達はそれを驚いたような目で見つめた後、三人で視線を合わせて思索に耽り始める。
 彼らとしてはガジュに功績を挙げさせたく気持ちと凍龍を討伐しなければならないという責任感の狭間にいるのだろう。ガジュの【闇の王ナイトメア】に対する驚きも混ざり、ハクア達は覚悟を決めたように口を開く。

「細かい事は分からないが……この化け物を倒す方法があるなら手伝おう。俺達の因縁なんかよりも……故郷の方が大切だ。」

 こうしてお伽噺の魔物を倒すべく、因縁の二人は手を握り合う。決して和解ではなく、冒険者としての正義を通すための握手と共に、ガジュは作戦を語り始めた。
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