追放投獄全部乗り越えて復讐を、執着無双の脱獄者〜夜だけ最強?いえ闇の中ならいつでも最強です〜

鮎川重

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第四章 犯罪者共は学をつける

81.似たもの同士

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「最初に言っておく。私は模擬戦なんてするつもりはない。君は、私のものになる。」
「はぁ?モラルがないのはガジュだけで十分なんだけど。というか何?もしかして僕今プロポーズされてる?」

 少し前。またまた山中の一角で、ユンとジュノは対面していた。キュキュ達のようにあくまで模擬戦であるからという落ち着きもなければ、シャルル達のように冷静な様子でもない。ジュノから一方的な殺意を向けられ、ユンは静かに苛立っていた。

「こういうの、同族嫌悪っていうのかな。僕、君のこと嫌いなんだよね。話が通じない気がしてさ。」
「私も嫌い。私よりユノ様に近いから。」
「ユノユノってうるさいなぁ。そんな古のババアと一緒にしないでくれない?僕はユン。一応この名前に誇り持ってるんだけど。」
「私はユノ様の信奉者。ユノ様に限りなく近く、世界を目指す。」
「ほら、やっぱり話が通じない。」

 対話は何の意味もなさず、ジュノは一直線にユンに向かって突撃し始める。背丈も同じ、体格も、顔つきもほぼ同一。違うところを挙げるとすれば目つきぐらいだろうか。ドッペルゲンガーに襲われるような不思議な気持ちを抱きつつ、ユンは魔力を巡らせる。

「ユノ様は魔道の始祖でありスキルの始祖。だから私も、そこを目指してる。炎。」
「もしかしてそれが呪文?僕に負けず劣らずの簡潔さだけど……ネーミングセンスが足りないね!メラメラ!」

 ジュノの指先から巨大な炎球が射出され、意趣返しのごとくユンが同じ魔法を放つ。『魔拳』による詠唱の短縮が出来る人間が自分以外にもいることは多少驚くが、威力で負けるはずはない。炎球同士が衝突しジュノの肌だけが焼けていくのを眺めながら、ユンは頬を緩めながら足に魔力を込めていく。

「魔道を極めても僕には勝てないよ。だってそんなのは、僕の一部でしかないもん。」
「肉弾戦も、私は負けない。」

 ユンは一瞬で距離を詰め、そのままジュノの顔面めがけて蹴りを放つ。しかしユンの細い脚は簡単に捕まれ、そのまま体ごと空中へ放り出される。
 なるほど、宣言通り肉弾戦においてもある程度の心得があるようだ。だが、この程度は序の口。ユンはそのまま空中で体を翻し、ジュノの背中側へ。流れるような動きで彼女を拘束し、耳元に口を近づけて体を弄っていく。

「うわぁ……。なんか歪な体してるなぁと思ったら、もしかして君の体ってツギハギなの?部分ごとに肌の色や骨格が全然違うや。」
「ユノ様に近しい体を持つ人間から全て奪った。君の顔も、 すぐ私のものにする。」
「ユノに似てる体を持つ人から体を奪って、自分のものにしてるの?はっはっは!!凄いなぁ……!こんな化け物を仲間にするなんてハクアも相当気が狂ってるんだね!」

 頭のおかしい人間に出会った時、テンションが著しく上昇するのがユンの特性だ。いつも通り気怠げに動かしていた手足は一気に速度を上げ、ジュノの体にしがみついたまま、骨という骨を叩き折っていく。

「ガジュに『暴れるな』って言った手前こんなことしたくないんだけど……。こうでもしないと君止まらなそうだし!あんまり叫び声とか上げないでね!一応ほら、中継されてるからさ!」
「う……が……。」

 この至近距離で魔法を放てば自分も被害を受けるし、振り解くには技量が足りない。ジュノは成す術もなく地面に倒れ込み、ユンがその顔を覗き込む。

「君が何者なのか知らないけどさぁ。憧れるのって時間の無駄だと思うよ?もっと自分を大事にして適当に生きなよ。」
「黙れ……。ユノ様は、ユノ様はぁぁぁぁ!!!」
「うっさ。はぁ……やっぱ僕君のこと嫌いだなぁ。しつこくて論理が通じない、ハクアもこんな気持ちでガジュの相手をしてるんだろうか。」

 これまでにないほど気だるげな表情で空を仰ぐユンと、その視線の外で何かを食べるジュノ。
 彼女の体は全て他人から奪ったもので、それが叩き折られても別の体を使えばいい。そういう考えなのだろう。まるで体を乗り換えるかにように、地面にジュノの体だけが抜け殻のように転がる。
 そしてその数秒後、新たな体を手にしたジュノがその巨躯を起きあがらせていた。

「おぉー。凄いなぁ、やっぱとんでもない化け物じゃん。」

 身の丈で言えば十倍程だろうか。人智を超えたジュノの変貌を見ても、ユンは大して驚く事もなく、ただあくびを重ねていた。

「ルウシェには後で謝るとして……バイバイ観客席のみんな!ここからは、ユンちゃんのトップシークレットだよ♪」
「ユノ様!ユノ様ぁぁぁぁ!!!」

 咆哮を轟かせるジュノを前にしながら、素早くユンは投射機のカメラを叩き壊す。辺りに誰もいないのを確認し、ユンは水色の髪を軽く結い上げていた。
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