追放投獄全部乗り越えて復讐を、執着無双の脱獄者〜夜だけ最強?いえ闇の中ならいつでも最強です〜

鮎川重

文字の大きさ
91 / 124
第五章 囚人と奴隷は紙一重

90.Re:悪の覇王

しおりを挟む
「ひん……何故、何故吾輩がこんな目に……!」

 頭を抑えうずくまるクルト。今日は珍しく着ぐるみを装備しているからそこまで痛くはなかったはずだが、シンプルに急な攻撃で驚いたのだろう。特に誰かが駆け寄ることもなく、ガジュ達は椅子に座ったまま言葉をかける。

「お前が馬鹿みたいな声で叫ぶのが悪い。俺達はお前の自己紹介なんざ聞き飽きてる。」
「うぅ……良いだろ別に大声出しても!久々に吾輩が帰還したんだぞ!もっと喜べ!」
「いいから、早く要件を言ってよ。着ぐるみを着てるってことは何かしてきたんでしょ?」

 クルトが着ぐるみを着ているのは身を隠すためだ。イリシテアにおいてクルトの行っていた慈善事業は犯罪行為であり、彼女は指名手配犯のような扱いを受けていた。だからこそあのふざけた着ぐるみでの生活を余儀なくされていたのであって、バーゼが捕縛されイリシテアも離れた今となっては完全に無用の長物。それを再び着ているということはつまり、身を隠さねばならない事情が出来たのであろう。

「何かして来た、というよりいつもの活動をして来ただけだな。吾輩の悪行はイリシテアに留まらない。各地にある拠点を巡って色々と情報を仕入れてきた。」
「情報?何だ、美味しいチョココロネの作り方でも仕入れて来たのか。」
「まぁ近いと言えば近いな。チョココロネに使うチョコがもうないと言っていただろ、あれの入手法を探していたんだ。」
「あんなに大量のチョココロネを作っていたのに、仕入れ先を知らなかったんですか?」
「元々とある裏商人から仕入れていたんだが、そやつと連絡が取れなくなってな。そやつを探す、あるいは其奴がどこからチョコを仕入れていたのかを突き止めねばならなかったんだ。身を隠す必要があったのもその関係だ。裏商人を探すなら、顔は隠しておいた方がいい。」
「結局仕入れ先は知らなかったんじゃねぇか。産地不明の材料で作ったパンを売るなよ。」
「別にあのチョコは怪しいものじゃない!チョコ自体は極めて真っ当な製品だが、あれだけの量を安定して確保するには裏商人を頼るしかないだけだ!」

 口々に文句を言われ、クルトがギャアギャア騒ぎながらその全てを否定していく。ご自慢のチョココロネを訝しまれて大層ご立腹なのだろうが、可愛らしい着ぐるみに怒られても緊張感というものに欠ける。

「で、その裏商人、あるいは生産地は見つかったのか?お前のチョココロネは何だかんだ有能みたいだからな、あれこれ文句垂れたがチョココロネ生産再開は俺らにとっても重要なニュースだ。」
「見つかったからここに来ている。聞いたぞ、お主ら金剛等級になったらしいじゃないか。吾輩を手伝ってくれ!」
「お!もしかして冒険!?冒険なの!?」
「うむ!吾輩の情報によると、裏商人は今奴隷にされているらしくてな。それを救出して欲しいんだ。目的地は西方の奴隷街、アザストだ!」

 奴隷街アザスト。

 ガジュとしても聞いたことのある名前であるが、訪れたことはない場所だ。国家という制度が存在しない、集団による自治。この世界のそうした常識が生んだ負の側面。それがあの街だ。

「アザスト……はっきり言って行きたくないな。お前のいない間に色々あってな、俺達は一ヶ月後に重要な予定が控えてる上に、めんどくさい奴らに追われてるんだ。適当に依頼をこなすぐらいならともかく、そんな分かりやすい面倒ごとに首を突っ込んでる場合じゃないんだ。」
「そうなのか……。じゃあ他を当たるとするか。吾輩、顔だけは広いからな。他に頼れる知り合いは山のようにいる。」
「何故クルトはそこまで助けを求めているんですか?アザストは良くも悪くも無法地帯ですし、奴隷の一人や二人強奪するぐらいは容易なのでは?まぁ、それが正義を伴うかは別ですが。」
「吾輩も最初は一人でどうにかしようと思っていたんだがな。どうにも最近のアザストは様子がおかしいらしい。何でも『霧』とかいう殺人鬼が暴れてるとか。吾輩自慢じゃないが弱いからな。ボディーガードが欲しいんだ。」

 霧。

 その言葉を聞いて、ガジュ達の頭に共通の存在が思い浮かぶ。どこからともなく現れる、実態を持たない存在。ガジュは、問いたださざるを得なかった。

「おい、その殺人鬼は何かくだらないことを叫んだりしてないか。秩序とか、復讐とか。」
「ん?吾輩も所詮又聞きだからな。詳しいことは分からない、というか覚えてないが、『死』がどうこう……。なんか随分頭がおかしくて変な格好をしているらしいぞ。」
「ふぅん。ねぇガジュ、これってやっぱりさぁ。」
「あぁ。どうやらそういうことらしいな。」

 間違いない。クルトがいう『霧』とかいう殺人鬼は魔族だ。ガジュ達が追い求めているハクア洗脳の犯人かどうかは知らないが、そこに関しては間違いないだろう。
 その推察を無言のうちに『クリミナル』の全員が共有し、まず一番に正義の化身が否定し始める。
 
「先に言っておきますが、シャルルは反対です。魔族に追われているというのに魔族を倒しに行く馬鹿がどこにいるんですか。」
「ここにいるぞ。俺が恐れているのは不利な状況で突然魔族に襲われることだ。周到に準備して戦えば十分に勝てる可能性はあるし、生殺しにして拷問してやれば一番確実に魔族の情報を手に入れられる。」
「意見が合うねぇガジュ!行こう、魔族について知るなら魔族に会うのが一番だよ!」

 最早反論することも出来ず、シャルルが天を仰ぐ。我らが『クリミナル』で多数決を取る際、シャルルとガジュの意見が一致しなかった時点で敗北は確定。キュキュが絶対にユンの味方をする、という前提は実に厄介だ。

「行くぞ、アザスト。暴れてこその俺達だ。」

 反対意見を封殺し、ガジュは着ぐるみ少女の頭に手を乗せる。檻から出た無法者達の脳内に、安定の二文字は刻まれていない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

処理中です...