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第五章 囚人と奴隷は紙一重
90.Re:悪の覇王
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「ひん……何故、何故吾輩がこんな目に……!」
頭を抑えうずくまるクルト。今日は珍しく着ぐるみを装備しているからそこまで痛くはなかったはずだが、シンプルに急な攻撃で驚いたのだろう。特に誰かが駆け寄ることもなく、ガジュ達は椅子に座ったまま言葉をかける。
「お前が馬鹿みたいな声で叫ぶのが悪い。俺達はお前の自己紹介なんざ聞き飽きてる。」
「うぅ……良いだろ別に大声出しても!久々に吾輩が帰還したんだぞ!もっと喜べ!」
「いいから、早く要件を言ってよ。着ぐるみを着てるってことは何かしてきたんでしょ?」
クルトが着ぐるみを着ているのは身を隠すためだ。イリシテアにおいてクルトの行っていた慈善事業は犯罪行為であり、彼女は指名手配犯のような扱いを受けていた。だからこそあのふざけた着ぐるみでの生活を余儀なくされていたのであって、バーゼが捕縛されイリシテアも離れた今となっては完全に無用の長物。それを再び着ているということはつまり、身を隠さねばならない事情が出来たのであろう。
「何かして来た、というよりいつもの活動をして来ただけだな。吾輩の悪行はイリシテアに留まらない。各地にある拠点を巡って色々と情報を仕入れてきた。」
「情報?何だ、美味しいチョココロネの作り方でも仕入れて来たのか。」
「まぁ近いと言えば近いな。チョココロネに使うチョコがもうないと言っていただろ、あれの入手法を探していたんだ。」
「あんなに大量のチョココロネを作っていたのに、仕入れ先を知らなかったんですか?」
「元々とある裏商人から仕入れていたんだが、そやつと連絡が取れなくなってな。そやつを探す、あるいは其奴がどこからチョコを仕入れていたのかを突き止めねばならなかったんだ。身を隠す必要があったのもその関係だ。裏商人を探すなら、顔は隠しておいた方がいい。」
「結局仕入れ先は知らなかったんじゃねぇか。産地不明の材料で作ったパンを売るなよ。」
「別にあのチョコは怪しいものじゃない!チョコ自体は極めて真っ当な製品だが、あれだけの量を安定して確保するには裏商人を頼るしかないだけだ!」
口々に文句を言われ、クルトがギャアギャア騒ぎながらその全てを否定していく。ご自慢のチョココロネを訝しまれて大層ご立腹なのだろうが、可愛らしい着ぐるみに怒られても緊張感というものに欠ける。
「で、その裏商人、あるいは生産地は見つかったのか?お前のチョココロネは何だかんだ有能みたいだからな、あれこれ文句垂れたがチョココロネ生産再開は俺らにとっても重要なニュースだ。」
「見つかったからここに来ている。聞いたぞ、お主ら金剛等級になったらしいじゃないか。吾輩を手伝ってくれ!」
「お!もしかして冒険!?冒険なの!?」
「うむ!吾輩の情報によると、裏商人は今奴隷にされているらしくてな。それを救出して欲しいんだ。目的地は西方の奴隷街、アザストだ!」
奴隷街アザスト。
ガジュとしても聞いたことのある名前であるが、訪れたことはない場所だ。国家という制度が存在しない、集団による自治。この世界のそうした常識が生んだ負の側面。それがあの街だ。
「アザスト……はっきり言って行きたくないな。お前のいない間に色々あってな、俺達は一ヶ月後に重要な予定が控えてる上に、めんどくさい奴らに追われてるんだ。適当に依頼をこなすぐらいならともかく、そんな分かりやすい面倒ごとに首を突っ込んでる場合じゃないんだ。」
「そうなのか……。じゃあ他を当たるとするか。吾輩、顔だけは広いからな。他に頼れる知り合いは山のようにいる。」
「何故クルトはそこまで助けを求めているんですか?アザストは良くも悪くも無法地帯ですし、奴隷の一人や二人強奪するぐらいは容易なのでは?まぁ、それが正義を伴うかは別ですが。」
「吾輩も最初は一人でどうにかしようと思っていたんだがな。どうにも最近のアザストは様子がおかしいらしい。何でも『霧』とかいう殺人鬼が暴れてるとか。吾輩自慢じゃないが弱いからな。ボディーガードが欲しいんだ。」
霧。
その言葉を聞いて、ガジュ達の頭に共通の存在が思い浮かぶ。どこからともなく現れる、実態を持たない存在。ガジュは、問いたださざるを得なかった。
「おい、その殺人鬼は何かくだらないことを叫んだりしてないか。秩序とか、復讐とか。」
「ん?吾輩も所詮又聞きだからな。詳しいことは分からない、というか覚えてないが、『死』がどうこう……。なんか随分頭がおかしくて変な格好をしているらしいぞ。」
「ふぅん。ねぇガジュ、これってやっぱりさぁ。」
「あぁ。どうやらそういうことらしいな。」
間違いない。クルトがいう『霧』とかいう殺人鬼は魔族だ。ガジュ達が追い求めているハクア洗脳の犯人かどうかは知らないが、そこに関しては間違いないだろう。
その推察を無言のうちに『クリミナル』の全員が共有し、まず一番に正義の化身が否定し始める。
「先に言っておきますが、シャルルは反対です。魔族に追われているというのに魔族を倒しに行く馬鹿がどこにいるんですか。」
「ここにいるぞ。俺が恐れているのは不利な状況で突然魔族に襲われることだ。周到に準備して戦えば十分に勝てる可能性はあるし、生殺しにして拷問してやれば一番確実に魔族の情報を手に入れられる。」
「意見が合うねぇガジュ!行こう、魔族について知るなら魔族に会うのが一番だよ!」
最早反論することも出来ず、シャルルが天を仰ぐ。我らが『クリミナル』で多数決を取る際、シャルルとガジュの意見が一致しなかった時点で敗北は確定。キュキュが絶対にユンの味方をする、という前提は実に厄介だ。
「行くぞ、アザスト。暴れてこその俺達だ。」
反対意見を封殺し、ガジュは着ぐるみ少女の頭に手を乗せる。檻から出た無法者達の脳内に、安定の二文字は刻まれていない。
頭を抑えうずくまるクルト。今日は珍しく着ぐるみを装備しているからそこまで痛くはなかったはずだが、シンプルに急な攻撃で驚いたのだろう。特に誰かが駆け寄ることもなく、ガジュ達は椅子に座ったまま言葉をかける。
「お前が馬鹿みたいな声で叫ぶのが悪い。俺達はお前の自己紹介なんざ聞き飽きてる。」
「うぅ……良いだろ別に大声出しても!久々に吾輩が帰還したんだぞ!もっと喜べ!」
「いいから、早く要件を言ってよ。着ぐるみを着てるってことは何かしてきたんでしょ?」
クルトが着ぐるみを着ているのは身を隠すためだ。イリシテアにおいてクルトの行っていた慈善事業は犯罪行為であり、彼女は指名手配犯のような扱いを受けていた。だからこそあのふざけた着ぐるみでの生活を余儀なくされていたのであって、バーゼが捕縛されイリシテアも離れた今となっては完全に無用の長物。それを再び着ているということはつまり、身を隠さねばならない事情が出来たのであろう。
「何かして来た、というよりいつもの活動をして来ただけだな。吾輩の悪行はイリシテアに留まらない。各地にある拠点を巡って色々と情報を仕入れてきた。」
「情報?何だ、美味しいチョココロネの作り方でも仕入れて来たのか。」
「まぁ近いと言えば近いな。チョココロネに使うチョコがもうないと言っていただろ、あれの入手法を探していたんだ。」
「あんなに大量のチョココロネを作っていたのに、仕入れ先を知らなかったんですか?」
「元々とある裏商人から仕入れていたんだが、そやつと連絡が取れなくなってな。そやつを探す、あるいは其奴がどこからチョコを仕入れていたのかを突き止めねばならなかったんだ。身を隠す必要があったのもその関係だ。裏商人を探すなら、顔は隠しておいた方がいい。」
「結局仕入れ先は知らなかったんじゃねぇか。産地不明の材料で作ったパンを売るなよ。」
「別にあのチョコは怪しいものじゃない!チョコ自体は極めて真っ当な製品だが、あれだけの量を安定して確保するには裏商人を頼るしかないだけだ!」
口々に文句を言われ、クルトがギャアギャア騒ぎながらその全てを否定していく。ご自慢のチョココロネを訝しまれて大層ご立腹なのだろうが、可愛らしい着ぐるみに怒られても緊張感というものに欠ける。
「で、その裏商人、あるいは生産地は見つかったのか?お前のチョココロネは何だかんだ有能みたいだからな、あれこれ文句垂れたがチョココロネ生産再開は俺らにとっても重要なニュースだ。」
「見つかったからここに来ている。聞いたぞ、お主ら金剛等級になったらしいじゃないか。吾輩を手伝ってくれ!」
「お!もしかして冒険!?冒険なの!?」
「うむ!吾輩の情報によると、裏商人は今奴隷にされているらしくてな。それを救出して欲しいんだ。目的地は西方の奴隷街、アザストだ!」
奴隷街アザスト。
ガジュとしても聞いたことのある名前であるが、訪れたことはない場所だ。国家という制度が存在しない、集団による自治。この世界のそうした常識が生んだ負の側面。それがあの街だ。
「アザスト……はっきり言って行きたくないな。お前のいない間に色々あってな、俺達は一ヶ月後に重要な予定が控えてる上に、めんどくさい奴らに追われてるんだ。適当に依頼をこなすぐらいならともかく、そんな分かりやすい面倒ごとに首を突っ込んでる場合じゃないんだ。」
「そうなのか……。じゃあ他を当たるとするか。吾輩、顔だけは広いからな。他に頼れる知り合いは山のようにいる。」
「何故クルトはそこまで助けを求めているんですか?アザストは良くも悪くも無法地帯ですし、奴隷の一人や二人強奪するぐらいは容易なのでは?まぁ、それが正義を伴うかは別ですが。」
「吾輩も最初は一人でどうにかしようと思っていたんだがな。どうにも最近のアザストは様子がおかしいらしい。何でも『霧』とかいう殺人鬼が暴れてるとか。吾輩自慢じゃないが弱いからな。ボディーガードが欲しいんだ。」
霧。
その言葉を聞いて、ガジュ達の頭に共通の存在が思い浮かぶ。どこからともなく現れる、実態を持たない存在。ガジュは、問いたださざるを得なかった。
「おい、その殺人鬼は何かくだらないことを叫んだりしてないか。秩序とか、復讐とか。」
「ん?吾輩も所詮又聞きだからな。詳しいことは分からない、というか覚えてないが、『死』がどうこう……。なんか随分頭がおかしくて変な格好をしているらしいぞ。」
「ふぅん。ねぇガジュ、これってやっぱりさぁ。」
「あぁ。どうやらそういうことらしいな。」
間違いない。クルトがいう『霧』とかいう殺人鬼は魔族だ。ガジュ達が追い求めているハクア洗脳の犯人かどうかは知らないが、そこに関しては間違いないだろう。
その推察を無言のうちに『クリミナル』の全員が共有し、まず一番に正義の化身が否定し始める。
「先に言っておきますが、シャルルは反対です。魔族に追われているというのに魔族を倒しに行く馬鹿がどこにいるんですか。」
「ここにいるぞ。俺が恐れているのは不利な状況で突然魔族に襲われることだ。周到に準備して戦えば十分に勝てる可能性はあるし、生殺しにして拷問してやれば一番確実に魔族の情報を手に入れられる。」
「意見が合うねぇガジュ!行こう、魔族について知るなら魔族に会うのが一番だよ!」
最早反論することも出来ず、シャルルが天を仰ぐ。我らが『クリミナル』で多数決を取る際、シャルルとガジュの意見が一致しなかった時点で敗北は確定。キュキュが絶対にユンの味方をする、という前提は実に厄介だ。
「行くぞ、アザスト。暴れてこその俺達だ。」
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