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第五章 囚人と奴隷は紙一重
92.爬人のおばちゃん
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「おらぁ!さっさと歩け奴隷共!」
「あぁ!?なんだて……ぐはっ!」
「奴隷風情が喋るな!次喋ったら舌抜くぞ!女と違ってテメェみたいなデカブツ奴隷に口はいらねぇからな!」
アザスト内、奴隷市場。その一角にある奴隷用の檻にガジュ達が叩きこまれていく。アルカトラやイリシテアで入った檻とは大違い。どちらかといえばキュキュが入っていたアルカトラのゴミ箱によく似た、だだっ広い雑居房に渋々腰を下ろし、ガジュはクルトを睨みつける。
「お前らは明日の競売にかけられる。それまで大人しくしてろ。間違っても脱走しようとか考えんじゃねぇぞ。この街において奴隷の人権はねぇ。街を出るまでの間に惨殺されるだけだ。アザストは殺人を快楽と捉えてる奴が山のようにいるからな、逃亡奴隷はそいつらの遊び道具みたいなもんだ。」
それだけを言い残し去っていく奴隷商人。その姿が視界から消えたのを確認し、ガジュはゆっくりと口を開く。言いたいことは勿論、苦情である。
「おい自称悪の覇王。何で俺達は檻にまで入れられてるんだ。競売にかけられるまでもなくお前の友達が買いに来るんじゃなかったのか。」
「そう慌てるな。聞いただろ?競売は明日。それまでにはちゃんと解放されるはずだ。ゆっくりくつろいでおけ。」
発言をあまり信用できないのは、発言主であるクルトの人間性の問題だろうか。そもそもこんな檻の中でくつろげと言われても、アルカトラがフラッシュバックして腹が立つだけだ。ガジュが眉間に皺を寄せつつ硬い床に寝転がると、後ろからウキウキした声が響く。
あぁそうだ、こういう環境を楽しめる人間がうちには一人、いや今は二人居る。
「ねぇ君、随分深くフード被ってるね。まるでうちのキュキュちゃんみたい。知ってる?キュキュちゃん、僕のお仲間なんだけどね、滅多に喋らないからコミュニケーションが取りにくいんだよ。」
「す、すみません……。一向に改善できなくてすみません。犬っころであるというアイデンティティも奪われ、もう何を成せばいいのか分からないです。誠に申し訳ありません。」
「本当ですよね~。獣人ってなんでこんなに気持ち悪いんだろ~!」
「おいユン、見知らぬ人に無闇に話しかけるな。話しかけるならせめて身内にしろ。後ノアはいい加減キュキュを受け入れろ、さもなくばお前の口を縫い付けるぞ。」
振り返った先では、ユンとノアがキュキュを引き摺りながら奴隷達相手にペラペラと舌を回していた。どうやら奴隷の仕入れルートはガジュ達が運ばれてきた一団以外にもあるらしく、移動の際には見かけなかった奴隷達もチラホラ。そしてその中でも、ユンに話しかけられた奴隷は一際異彩を放っている。
顔を隠す、というか体全身を隠すような巨大なローブ。視界は確保したいらしく目の部分には穴が空いているが、あれではろくに歩くことすらままならないだろう。
あんな明らかに扱いに困りそうな奴まで奴隷にするとは、よほどこの街は奴隷を必要としているらしい。いや、こういう厄介者だからこそ奴隷として攫ってきても騒ぎにならないのだろうか。
ガジュが暇潰しがてらにくだらないことを考えていると、例の奴隷がゆっくりとフードを上げ、側で土下座をしていたキュキュの顔を凝視していた。
「あんた……もしかして獣人かい?それもその顔、三丁目のケルアさんちの娘さん。」
「へ、へ……?さ、三丁目?」
「あぁ、あんたは覚えてないかもねぇ。もう無くなっちまったが、あんたとあたしは恐らく同じところ出身だよ。亜人と獣人の村、ペーニャ村のね。」
そう言って女はフードを外し、肌を露出する。声にふさわしい小太りの女性といったような体型だが、ガジュは一眼見た瞬間に体を隠してた理由を理解した。体に生えた大量の鱗。この女は、何かしらの爬虫類の亜人。俗に爬人と呼ばれる種族の一員なのだろう。
この見た目をした人間の言うことであれば、ある程度信用できる。
「キュキュちゃん、ケルアなんて苗字だったの?ケルベロスの亜人でその苗字って随分わかりやすいね。」
「あんたはこの子の友達かい?その通り、ケルアさん家の旦那さんはケルベロスでね。優秀な冒険者だった奥さんがダンジョンで出会ったんだよ。ペーニャにやって来た時は驚いたもんさ。」
「マジでキュキュの知り合いなのか。良かったなキュキュ、故郷を探す手間が省けたぞ。」
「そ、そうですけど……も、もう滅んだって……。」
「あぁそうさ。丁度あんたが生まれた頃襲撃を受けてね、七割は死亡、二割がアルカトラへ行って、あたしのような一割の住民だけが逃げ延びたんだ。」
キュキュの目標は出自を知ることではなく、故郷を訪れることだ。この名も知らぬ爬人のおばちゃんの話が正しければ、その願いは一生叶わない。普段から陰鬱なキュキュの表情がより一層曇っていき、その悲哀がガジュ達にも伝播していく。
しかし当のおばちゃんはというと、変わらず楽しそうな口調で話し続けていった。
「ペーニャは滅びてるがね、元住民とならすぐ再開できるよ。あたしらはペーニャの元住民で寄り集まっていた所を奴隷商人に捕まったんだ。あんたと年の近い子となると……タリ!ペーニャ出身の子がやって来てるよ!」
「ほんと!?流石はおばちゃん!情報が早いわね!」
奴隷達の群れから勢いよく飛び出してくる長身の少女。キュキュより少し上、ガジュと同年代ぐらいだろうか。狐のような耳の生えたその少女の表情は凄まじくにこやかだったが、肝心のキュキュを見た途端、幽霊でも見たかのような絶望の表情へと切り替わっていた。
「キュ、キュキュちゃん……。」
「タ、タリさん……。」
互いの顔を見て絶句する二人。そうだ、誰だって因縁を抱えている。
「あぁ!?なんだて……ぐはっ!」
「奴隷風情が喋るな!次喋ったら舌抜くぞ!女と違ってテメェみたいなデカブツ奴隷に口はいらねぇからな!」
アザスト内、奴隷市場。その一角にある奴隷用の檻にガジュ達が叩きこまれていく。アルカトラやイリシテアで入った檻とは大違い。どちらかといえばキュキュが入っていたアルカトラのゴミ箱によく似た、だだっ広い雑居房に渋々腰を下ろし、ガジュはクルトを睨みつける。
「お前らは明日の競売にかけられる。それまで大人しくしてろ。間違っても脱走しようとか考えんじゃねぇぞ。この街において奴隷の人権はねぇ。街を出るまでの間に惨殺されるだけだ。アザストは殺人を快楽と捉えてる奴が山のようにいるからな、逃亡奴隷はそいつらの遊び道具みたいなもんだ。」
それだけを言い残し去っていく奴隷商人。その姿が視界から消えたのを確認し、ガジュはゆっくりと口を開く。言いたいことは勿論、苦情である。
「おい自称悪の覇王。何で俺達は檻にまで入れられてるんだ。競売にかけられるまでもなくお前の友達が買いに来るんじゃなかったのか。」
「そう慌てるな。聞いただろ?競売は明日。それまでにはちゃんと解放されるはずだ。ゆっくりくつろいでおけ。」
発言をあまり信用できないのは、発言主であるクルトの人間性の問題だろうか。そもそもこんな檻の中でくつろげと言われても、アルカトラがフラッシュバックして腹が立つだけだ。ガジュが眉間に皺を寄せつつ硬い床に寝転がると、後ろからウキウキした声が響く。
あぁそうだ、こういう環境を楽しめる人間がうちには一人、いや今は二人居る。
「ねぇ君、随分深くフード被ってるね。まるでうちのキュキュちゃんみたい。知ってる?キュキュちゃん、僕のお仲間なんだけどね、滅多に喋らないからコミュニケーションが取りにくいんだよ。」
「す、すみません……。一向に改善できなくてすみません。犬っころであるというアイデンティティも奪われ、もう何を成せばいいのか分からないです。誠に申し訳ありません。」
「本当ですよね~。獣人ってなんでこんなに気持ち悪いんだろ~!」
「おいユン、見知らぬ人に無闇に話しかけるな。話しかけるならせめて身内にしろ。後ノアはいい加減キュキュを受け入れろ、さもなくばお前の口を縫い付けるぞ。」
振り返った先では、ユンとノアがキュキュを引き摺りながら奴隷達相手にペラペラと舌を回していた。どうやら奴隷の仕入れルートはガジュ達が運ばれてきた一団以外にもあるらしく、移動の際には見かけなかった奴隷達もチラホラ。そしてその中でも、ユンに話しかけられた奴隷は一際異彩を放っている。
顔を隠す、というか体全身を隠すような巨大なローブ。視界は確保したいらしく目の部分には穴が空いているが、あれではろくに歩くことすらままならないだろう。
あんな明らかに扱いに困りそうな奴まで奴隷にするとは、よほどこの街は奴隷を必要としているらしい。いや、こういう厄介者だからこそ奴隷として攫ってきても騒ぎにならないのだろうか。
ガジュが暇潰しがてらにくだらないことを考えていると、例の奴隷がゆっくりとフードを上げ、側で土下座をしていたキュキュの顔を凝視していた。
「あんた……もしかして獣人かい?それもその顔、三丁目のケルアさんちの娘さん。」
「へ、へ……?さ、三丁目?」
「あぁ、あんたは覚えてないかもねぇ。もう無くなっちまったが、あんたとあたしは恐らく同じところ出身だよ。亜人と獣人の村、ペーニャ村のね。」
そう言って女はフードを外し、肌を露出する。声にふさわしい小太りの女性といったような体型だが、ガジュは一眼見た瞬間に体を隠してた理由を理解した。体に生えた大量の鱗。この女は、何かしらの爬虫類の亜人。俗に爬人と呼ばれる種族の一員なのだろう。
この見た目をした人間の言うことであれば、ある程度信用できる。
「キュキュちゃん、ケルアなんて苗字だったの?ケルベロスの亜人でその苗字って随分わかりやすいね。」
「あんたはこの子の友達かい?その通り、ケルアさん家の旦那さんはケルベロスでね。優秀な冒険者だった奥さんがダンジョンで出会ったんだよ。ペーニャにやって来た時は驚いたもんさ。」
「マジでキュキュの知り合いなのか。良かったなキュキュ、故郷を探す手間が省けたぞ。」
「そ、そうですけど……も、もう滅んだって……。」
「あぁそうさ。丁度あんたが生まれた頃襲撃を受けてね、七割は死亡、二割がアルカトラへ行って、あたしのような一割の住民だけが逃げ延びたんだ。」
キュキュの目標は出自を知ることではなく、故郷を訪れることだ。この名も知らぬ爬人のおばちゃんの話が正しければ、その願いは一生叶わない。普段から陰鬱なキュキュの表情がより一層曇っていき、その悲哀がガジュ達にも伝播していく。
しかし当のおばちゃんはというと、変わらず楽しそうな口調で話し続けていった。
「ペーニャは滅びてるがね、元住民とならすぐ再開できるよ。あたしらはペーニャの元住民で寄り集まっていた所を奴隷商人に捕まったんだ。あんたと年の近い子となると……タリ!ペーニャ出身の子がやって来てるよ!」
「ほんと!?流石はおばちゃん!情報が早いわね!」
奴隷達の群れから勢いよく飛び出してくる長身の少女。キュキュより少し上、ガジュと同年代ぐらいだろうか。狐のような耳の生えたその少女の表情は凄まじくにこやかだったが、肝心のキュキュを見た途端、幽霊でも見たかのような絶望の表情へと切り替わっていた。
「キュ、キュキュちゃん……。」
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互いの顔を見て絶句する二人。そうだ、誰だって因縁を抱えている。
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