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第五章 囚人と奴隷は紙一重

105.状況報告

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「覇王様!!!お会いしとうございました!覇王様が私めの救援に赴いてくれるなど……。恐悦至極です。」
「おぉーシャプナ!会うのは久々だなぁ!気にするな、あの美味しいチョコレートはシャプナからしか仕入れられないし、何より其方は吾輩の部下だからな!部下が困っていれば手を伸ばす!当然のことだ!」
「覇王様……。このシャプナ、これからも御身のために邁進致します!」

 ガジュからすれば全くもって理解できないが、アスパといいシャプナといい何故こうもクルトを信頼しているのだろうか。確かにこの少女の心がけはとてつもなく立派だが、ここまで能力の低い君主は早々いないはずだ。

 そんなことを考えながら、ガジュは背中に背負ったアスパを放り投げる。

「クルト、裏商人回収の仕事は果たしたが色々と厄介事が発生した。取り敢えず、こいつの世話をしてやってくれ。」
「アスパ!?だ、大丈夫なのか!?生きてるのか?これ!」
「生きてはいるはずです。先ほどまでは肌もしわくちゃ、息も絶え絶えでしたが、何とか持ち直しています。」
「だそうだから適当に様子を見ていてくれればいい。俺達は……裏で色々と話すことがある。」

 デビル撃破後。ガジュ達はここエシア自警団本部を目指す道中で、ある程度自分達の身に起こったことを共有した。
 
 共有した上で、大量の問題を認識している。
 
 まずはこれらを片付けない限り、次に進めない。

 ガジュ、シャルル、キュキュ、ユン。珍しく『クリミナル』の四人だけが机を囲み、それぞれの事情を議論していく。

「えーと、まずはガジュから行く?ノアは魔族だったんだよね。能力や名前は?聞いてないの?」
「名前は知らない。が、見た目は男と女の両性具有みたいな容姿へ変化していた。能力は……推測でしかないが『自分と相手の関係性を誤認させる』って感じだ。ハクアと兄妹ってのもその力で誤認させたものだろう。」
「ということはノアがガジュ追放の犯人、って可能性もあるのかな。」
「いや、恐らくそれは違う。あいつは多分魔族の中でも大分雑魚の部類だ。あくまで認識を変えるだけで洗脳なんて真似は出来ないし、出来たとしても相当対象に近寄らないと発動できないだろう。」
「なるほどねぇ……。」

 ノアは口づけするような動きでガジュに迫っていた。ガジュの想定ではあれが奴の能力発動の鍵。だとすれば、あのハクアともあろう男がそんなものに引っかかるはずもない。ガジュ追放事件の主犯は、別にいる。

「で、ノアが裏切った後俺は現れた魔族『デビル』と戦闘。紆余曲折あって逃げられ、ユンの体に逃げ込んだかと思えば……何故か死んでいた。」
「その件に関しては僕も存じ上げないなぁ。僕からすれば突然体に入って来て勝手に死んだだけだし。」

 知らん顔で首を傾げるユン。ノアの件はともかく、こっちの件に関してはいくら考察しても意味がないとガジュは理解している。ユン自身にはデビル死亡の件について心当たりがあるのかもしれないが、そもそもユンはありとあらゆることをひた隠しにする性質。それをガジュに話してくれるとも思えない。
 本来ならば「仲間内で秘密は良くない」などという意見が出てくるところだろうが、ガジュからすればその考えは間違いだ。

 信頼する仲間が秘密にしている事。

 それは何かしらの事情があってのことであり、無闇に追求すべきではないはずだろう。

「じゃあまぁ次の話に移るか。何だっけ?キュキュが魔族と契約したんだったか?」
「うん、話の流れでね。僕らが倒しに行った画家ってのが随分と酷いやつでね。気が弱く善良な『ジャッジメント』を無理やり従えさせていたんだよ。何やかんやあって画家の方は撃破はしたんだけど、『ジャッジメント』が宙ぶらりんになっちゃってね。殺すのもなんだし、逃すにはいかないし。じゃあキュキュちゃんと契約しちゃおっか!って話。」
「酷い話だな……。キュキュは大丈夫なのか。暴走したり、体を乗ったられたり。おい、キュキュ?聞いてるか?」
「え、あ、は、はい!だ、大丈夫です……。」

 明らかに大丈夫ではなさそうな調子でうつむき、下を向くキュキュ。キュキュが下を向いているの自体はいつものことだが、今回は鈍感なガジュにも分かるレベルで沈んでいる。明らかに視線が泳いでいるし、ガジュとも、何なら彼女が信頼するユンとすら目を合わせていない。

「まぁ魔族との契約云々の話をするならキュキョよりシャルルに聞いた方が早いか。そっちも、契約したんだろ。」
「はい。シャルは流れでというより完全にシャル自身の意志です。シャルが相対した『デス』を倒すのはシャル一人の力では不可能でしたから、何故か知りませんが唐突に現れた『ジャスティス』と契約した感じです。」
「『ジャスティス』はどういう魔族なんだ。ユン達の方に出た奴みたく、臆病だったのか?」
「いえ、臆病というよりほぼシャルと同一の性格です。自分の身分や状況を考えずただ正義を貫く。そんな性格だったので手を結びました。」

 キュキュとは違い、毅然とした態度で説明するシャルル。その口ぶりからして、自分のしたことに一切の後悔はないのだろう。流石はシャルルといった所だが、話の方は理解できない。
 シャルルもユンも、さも魔族にも良い奴がいるかのように話しているがそもそもそれが信頼できる話なのだろうか。ガジュが関わった魔族といえば、暴れ回る『チャリオット』『テンパランス』『デビル』。加えてハクアを洗脳した何者かと、ノア。どいつもこいつもろくでもない奴等であり、全くもって信用できる相手ではない。

「随分と微妙な顔ですねガジュ。それなら話してみますか?」
「話してって誰と。もう四人とも状況説明はし終わったぞ。」
「一番話すべき人、いや存在が残っているじゃないですか。魔族が信頼できるのか、それを確かめるには魔族と話すのが一番ですよ。あれから色々試しましたが……どうやら可能みたいですから。」

 そう言ってシャルルがゆっくり目を閉じ、何かを捻り出すような動きを取り始める。
 そして数秒後、シャルルの頭上には長い金髪を揺らす巨大な女が現れていた。

「我こそはジャスティス!君が我が主人の仲間だね!聞きたい事があるなら何でも答えよう!私は、いつだって正義の味方だ!」

 顕現した『ジャスティス』は白い歯を輝かせ、魔族とは思えないにこやかな笑顔を浮かべていた。
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