121 / 124
第六章 試練の迷宮
120.常闇の帝王
しおりを挟む「待ってくれよガジュ!こんな夜中に家を出れば一瞬で魔物に殺される!家に帰るべきだ!」
暗い暗い夜のユギ村。数少ない住民達が浅い眠りについた頃、幼い二人の子供は家から飛び出していた。
武器も鎧も持たず、ただ拳一つで魔物がひしめく森へと突撃していくガジュ。そしてそれを追いかける細く弱々しい体のハクア。
二人はただ、純粋に村を救おうとしていた。
「あのなぁハクア。お前はいつも色々と考えすぎなんだよ。村にいるのはジジイとババアだけ。俺らが魔物を蹴散らさなきゃ村は滅びかねないんだ。だから俺らが全部叩き潰す。簡単な話だろうが。」
「理屈と現実は別だろ!ダラ達は俺達を守ってくれてるんだ!冒険者達もユギを救おうと行動しているし、無力な俺達が戦う理由はない!」
「無力だから逃げていいのか?それに、その冒険者とやらが俺らを助けてくれる間に何人のジジイが魔物に襲われるんだ。強い奴に守られてるだけの人生に意味なんてねぇ。全部ぶっ壊して、勝利を掴む以外に道はねぇんだよ。」
草むらからわらわらと出てくる有象無象の魔物達。それを睨みつけ、ガジュは拳を握る。体を照らす月明かりと、内から湧く力。勝てるかどうかは問題ではない。挑むことが全ての始まり。その考えは、ずっと変わらない。
◇◇◇
「おうハクア。粋がった割に酷い有様だな。後は俺に任せとけ。」
「ガジュ……。止めろ、お前じゃあいつには敵わない……。」
「昔みたいな事を言いやがって。いいか、お前はさっき自分の人生に敗北はなかったって言っただろ。残念ながら、俺はその真逆だ。お前と冒険者をしていた七年間、俺は敗北と過ちしか経験していない。」
血を流し倒れたハクアを上から見下ろし、ガジュはその相変わらず細い体を持ち上げる。
「ユギにいた頃ずっと俺の後を着いて来ていたお前が途端に強くなって、代わりに俺は荷物持ちになって。あの頃はそれでいいと思ってたが、あれが最大の間違いだ。ガキの頃に自分が言っていた事を全部忘れて、他人に身を委ねるなんざ俺らしくない。」
「そんなことは……!」
「黙れ。今は俺の自分語りの時間だ。いいか、俺は昔から馬鹿なんだよ。勝算すら計算出来ず、暴れる以外の選択肢を持たない。たまに名案を思いついたかと思えば、大体ろくでもない犯罪行為だ。」
少し先で腰を抜かしているユンにハクアを放り投げ、ガジュは改めて腕を回す。
「だがな、それが俺にとっての正解なんだよ。俺の邪魔をする奴は、魔物だろうと鎖だろうと太陽だろうと世界だろうと!全部全部、ぶっ壊してやる!」
ガジュはそう叫び、自分の腹を殴りつける。【闇の王】が使えない理由は、ほぼ確実に魔族との契約だ。
太陽
一体何故ユンは明らかにガジュと相性の悪いこいつと契約させたのか知らないが、考え方を変えれば実にガジュにふさわしい魔族だ。ムーンは敗北の象徴、そしてサンは勝利の象徴である。
「聞いていても分からない。どうしてそんなに愚かなの?勝てもしないのに拳を握って、その先に完全無欠の未来は訪れない。」
「うるせぇクソ魔族。完全無欠に意味はねぇんだよ。」
「分からない。分からないから……殺す。」
ふらりふらりと近づいてきたワールドがガジュに手を伸ばし、指をくいと上に動かす。
その瞬間ガジュの体が勢いよく跳ね上がり、この部屋に入った時と同じように天井へと叩きつけられる。
「くっ……。馬鹿の一つ覚えみたく重力操作しやがって。いいか、覚えとけワールド!俺を照明に近づけることは、考えられる最悪手だ!」
天井についていたいくつかの照明。かつてのユノがワールドの【創造】を使って作っただけあって、松明とも言い難い不思議な灯りだが、これぐらいの構造物であれば無力なガジュでも破壊できる。
ガジュは天井を駆け回りながらそれらを壊し、部屋は完全な暗闇に包まれていく。そしてようやく、先ほど殴りつけた腹部を中心にガジュの体に力が巡り始める。
「暗い所で強くなるスキル。なんて事ない雑魚スキル。」
「なことは俺が一番分かってる。だから、一発で状況を変えるんだよ!おいユン!とっととそいつら連れて逃げろ!」
「うひょ~懐かしい攻撃だー!!!」
下の方でユンが負傷した三人を必死で引きずり、部屋を退出。それが完了したのを確認し、ガジュは屋上からジャンプする。たったその一瞬の間にもワールドが新たなルールを追加して室内が発光していくが、もう手遅れだ。
ガジュは不安定な体勢から拳を振り抜き、硬い試練の迷宮の壁が打ち砕かれていく。
アルカトラをぶち抜いた時と同じように、瓦解していく試練の迷宮の天井。降り注ぐ瓦礫の隙間から日光が差し込み、ガジュの体には新たな力が巡っていた。
「やっぱりな……。魔族契約の仕組みはよく分からねぇが、俺が契約したのはサン。つまり今の俺は、暗い所でも明るい所でも最強ってことだ。いくぞ、【常闇の帝王】。」
新たなスキルを手にしたガジュは、光すらも打ち砕く。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる