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第六章 試練の迷宮
122.皆が無能な世界
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「はぁ、はぁ……。おいユン、さっさと助けてくれ。色々と、もう限界だ。」
試練の迷宮入り口付近。ケネ達冒険者協会の人間が控えている簡易キャンプで、ユン達は負傷者の手当てをしていた。
そこに満身創痍のガジュが現れ、傷の痛みというよりも不快感を訴えるような目つきでユンを睨みつける。
「あら、おかえり。なんか随分と具合が悪そうだね。」
「魔族との契約解除の方法を教えてくれ。後解除した魔族をぶち込む器の用意も任せた。」
「何その謎の要望。というかワールドは?皆魔法やスキル使えてるけど、ちゃんと倒したんだろうね。」
キャンプには治癒魔法や治癒系のスキルを持った人員が大量に控えている。彼らは現在進行形でハクア達の治癒に努めているが、ワールドを倒したのであればこの作業も停止するはずだ。
ワールドが【創造】で作り出した概念の消失。それは対ワールド戦において一番懸念していた事項である。
「そいつらの治療が終わるまでトドメを刺してないだけだ。これ、例のワールドな。」
そういって懐から一匹のトカゲを取り出し、ユンに見せつける。赤い体はドラゴンの面影を残しているが、そのサイズは極めて矮小である。
「そのちっこいトカゲみたいなのが?ジュノちゃんの体はどうしたのさ。」
「全部叩き壊した。ジュノは俺と契約して俺の体の中にいる。そのせいで俺の頭の中でジュノが叫び散らしてるんだ、うるさくて仕方ない。」
シャルルもキュキュもこんな症状は訴えていなかったはずだが、ジュノに関しては他の魔族に比べてもかなりしっかりと自我が確立されているからだろうか。ジュノと契約して以降、サンの時のようにスキルの変化等はなかったものの、体が異常に軽くなり、ガジュの意識の片隅ではジュノが叫び続けるようになった。
ワールドからジュノを奪い取って無理やりに契約する。
ワールド撃破の後詰として考えた奇策であったが、その代償は果てしなく大きい。
「なるほどねぇ……。まぁその件はハクアに頼もう。ジュノの体は人間の技術で作られたらしいし、何とかなるでしょ。まぁ新しく作るとなるとかなり時間かかりそうだけど。」
「てことは俺このやかましい奴と結構な期間一緒にいなきゃならないって事か?冗談だろ。」
「まぁ、そうなるね。魔族は別にワールドを殺しても消えないから。ガジュ一人の不快感のためにワールド討伐を待つ理由はないよ。」
「はぁ……。最悪の気分だ。で、ハクア達の治療は終わりそうなのかよ。早く済ませないとワールドが復活するぞ。どうせこいつ、それぐらい出来るだろ。」
相手は完全無欠のワールド。体を打ち砕き、大幅に弱体化したとは言え、復活ぐらいはお手のもののはずだ。トドメを刺して仕舞えば世界が大幅に改変されるのはガジュも承知の所だが、そう悠長にもしていられない。
ガジュが不安げな顔を浮かべると、奥からケネがやって来る。
「治療自体はすぐに終わるのですが、アフターケアが問題です。今後スキルや魔法がなくなった場合、傷口が開いた場合に大問題ですからね。今はそれを考慮して丁寧に治療を行なっているところですよ。」
「なるほどな……。まぁ確かに医学なんて全くと言っていいほど発達してないもんな。俺、擦り傷の治療法すら知らないし。」
ハクア達を治すこと自体は極めて容易な作業だ。だがここでスキルを使って手早く治してしまうと、今後の新たな世界で多大な問題が発生する。スキルに頼らない医療。いや医療に限らず、スキルや魔法に頼らない技術の発達はこの世界の急務だろう。
だがしかし早くワールドを倒したいことは変わらない。ガジュがそう思った時、遠くから大量の雑踏が響き始める。
「ガジューーー!!!吾輩が来てやったぞ~!!!」
「クルト?何しに来たんだ一体。」
「話はユンから伝令魔法で聞いている。この世界のスキルや魔法が消失するらしいな。任せろ!吾輩達にかかれば、その程度大きな問題ではない!皆のもの!行動開始!」
女子供を引き連れてやってきたクルトは手早く指示を出し、クルトの僕達が散開していく。その手には治療に使うのであろう救急箱や手術道具が握られていた。
「あれからルウシェにスキルを調べてもらったが、吾輩の【小麦粉の魔術師】はパンに鎮静効果を与えるだけのスキルらしい。無くなったところで美味しいパンを作る上では何の問題もない。この世界の事は、吾輩に任せておけ!明日からは吾輩達無能な輩の時代だ!」
「悪の覇王を自称する子供に任せろと言われても不安が残るが……。まぁ今は取り敢えず信頼するか。俺らの就職先にもなりそうだしな。おいユン。ワールド、殺しに行くぞ。」
「おっけ~!」
胸を張るクルトは微妙に信用ならないが、多少状況は良くなったはずだ。あれだけの人員と医療器具があれば、今スキルや魔法がなくなったとしても怪我人の命ぐらいは保障されるだろう。
そう確信し、ガジュは右手に持ったトカゲもどきを持ち上げ、ユンを連れて森の中に入っていく。
ほぼ死にかけとは言え、相手は魔族の始祖。トドメを刺すにはある程度暴れなければならない。
「やっと力を手にしたと思ったら……まさかこうも早くお別れすることになるとはな。改めて考えると執着心が……。」
「スキルが無くなると、魔族との契約も意味なくなるしねぇ。明日から、ガジュも僕も、全人類が正真正銘の無能だよ。」
「はぁ……。シャルルとキュキュを連れて筋トレでもするか。パン作りには筋力も必要だろ。」
薄暗い森の中でガジュは拳を握り、勢いよく振り下ろす。
【闇の王】と【常闇の帝王】の効果が乗った最後の拳は大地を揺らし、世界を打ち砕いていった。
試練の迷宮入り口付近。ケネ達冒険者協会の人間が控えている簡易キャンプで、ユン達は負傷者の手当てをしていた。
そこに満身創痍のガジュが現れ、傷の痛みというよりも不快感を訴えるような目つきでユンを睨みつける。
「あら、おかえり。なんか随分と具合が悪そうだね。」
「魔族との契約解除の方法を教えてくれ。後解除した魔族をぶち込む器の用意も任せた。」
「何その謎の要望。というかワールドは?皆魔法やスキル使えてるけど、ちゃんと倒したんだろうね。」
キャンプには治癒魔法や治癒系のスキルを持った人員が大量に控えている。彼らは現在進行形でハクア達の治癒に努めているが、ワールドを倒したのであればこの作業も停止するはずだ。
ワールドが【創造】で作り出した概念の消失。それは対ワールド戦において一番懸念していた事項である。
「そいつらの治療が終わるまでトドメを刺してないだけだ。これ、例のワールドな。」
そういって懐から一匹のトカゲを取り出し、ユンに見せつける。赤い体はドラゴンの面影を残しているが、そのサイズは極めて矮小である。
「そのちっこいトカゲみたいなのが?ジュノちゃんの体はどうしたのさ。」
「全部叩き壊した。ジュノは俺と契約して俺の体の中にいる。そのせいで俺の頭の中でジュノが叫び散らしてるんだ、うるさくて仕方ない。」
シャルルもキュキュもこんな症状は訴えていなかったはずだが、ジュノに関しては他の魔族に比べてもかなりしっかりと自我が確立されているからだろうか。ジュノと契約して以降、サンの時のようにスキルの変化等はなかったものの、体が異常に軽くなり、ガジュの意識の片隅ではジュノが叫び続けるようになった。
ワールドからジュノを奪い取って無理やりに契約する。
ワールド撃破の後詰として考えた奇策であったが、その代償は果てしなく大きい。
「なるほどねぇ……。まぁその件はハクアに頼もう。ジュノの体は人間の技術で作られたらしいし、何とかなるでしょ。まぁ新しく作るとなるとかなり時間かかりそうだけど。」
「てことは俺このやかましい奴と結構な期間一緒にいなきゃならないって事か?冗談だろ。」
「まぁ、そうなるね。魔族は別にワールドを殺しても消えないから。ガジュ一人の不快感のためにワールド討伐を待つ理由はないよ。」
「はぁ……。最悪の気分だ。で、ハクア達の治療は終わりそうなのかよ。早く済ませないとワールドが復活するぞ。どうせこいつ、それぐらい出来るだろ。」
相手は完全無欠のワールド。体を打ち砕き、大幅に弱体化したとは言え、復活ぐらいはお手のもののはずだ。トドメを刺して仕舞えば世界が大幅に改変されるのはガジュも承知の所だが、そう悠長にもしていられない。
ガジュが不安げな顔を浮かべると、奥からケネがやって来る。
「治療自体はすぐに終わるのですが、アフターケアが問題です。今後スキルや魔法がなくなった場合、傷口が開いた場合に大問題ですからね。今はそれを考慮して丁寧に治療を行なっているところですよ。」
「なるほどな……。まぁ確かに医学なんて全くと言っていいほど発達してないもんな。俺、擦り傷の治療法すら知らないし。」
ハクア達を治すこと自体は極めて容易な作業だ。だがここでスキルを使って手早く治してしまうと、今後の新たな世界で多大な問題が発生する。スキルに頼らない医療。いや医療に限らず、スキルや魔法に頼らない技術の発達はこの世界の急務だろう。
だがしかし早くワールドを倒したいことは変わらない。ガジュがそう思った時、遠くから大量の雑踏が響き始める。
「ガジューーー!!!吾輩が来てやったぞ~!!!」
「クルト?何しに来たんだ一体。」
「話はユンから伝令魔法で聞いている。この世界のスキルや魔法が消失するらしいな。任せろ!吾輩達にかかれば、その程度大きな問題ではない!皆のもの!行動開始!」
女子供を引き連れてやってきたクルトは手早く指示を出し、クルトの僕達が散開していく。その手には治療に使うのであろう救急箱や手術道具が握られていた。
「あれからルウシェにスキルを調べてもらったが、吾輩の【小麦粉の魔術師】はパンに鎮静効果を与えるだけのスキルらしい。無くなったところで美味しいパンを作る上では何の問題もない。この世界の事は、吾輩に任せておけ!明日からは吾輩達無能な輩の時代だ!」
「悪の覇王を自称する子供に任せろと言われても不安が残るが……。まぁ今は取り敢えず信頼するか。俺らの就職先にもなりそうだしな。おいユン。ワールド、殺しに行くぞ。」
「おっけ~!」
胸を張るクルトは微妙に信用ならないが、多少状況は良くなったはずだ。あれだけの人員と医療器具があれば、今スキルや魔法がなくなったとしても怪我人の命ぐらいは保障されるだろう。
そう確信し、ガジュは右手に持ったトカゲもどきを持ち上げ、ユンを連れて森の中に入っていく。
ほぼ死にかけとは言え、相手は魔族の始祖。トドメを刺すにはある程度暴れなければならない。
「やっと力を手にしたと思ったら……まさかこうも早くお別れすることになるとはな。改めて考えると執着心が……。」
「スキルが無くなると、魔族との契約も意味なくなるしねぇ。明日から、ガジュも僕も、全人類が正真正銘の無能だよ。」
「はぁ……。シャルルとキュキュを連れて筋トレでもするか。パン作りには筋力も必要だろ。」
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