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父の悲哀
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王太子も参列すると決まってから、コロンドン伯爵は、結婚式並びに披露宴の見直しに追われた。
リリアナは王太子妃だとは言え、小さな頃から可愛がってきた姪っ子なので、結婚式はアットホームに肩肘張らずにいこうと決めていた。
だがしかし、王太子が来るとなると話は別だ。
急に参列すると言われても、王族への対応の正解がわからず、兄であり、リリアナの父でもあるヒースグリフ侯爵に相談した。
ヒースグリフ侯爵は、弟から話を聞き喫驚した。
こんな、と言っては失礼だが、王族が来るほどの旨味も価値もない、ただただアットホームなこんな結婚式に、あの王太子がただで参列するとは思えない。
何か裏がある!!
もしや我々親族の中に犯罪行為に手を染める者がいて、情報収集に…?
でもそれなら影で十分だな。
リリアナと一緒に参加する意味…
リリアナとの不仲説、乳兄妹の恋人の噂、これが意味するところは…
離縁だな。
離縁のための材料集めか、それか離縁に向けた話し合いをするつもりで乗り込んでくるか。
そっちがそのつもりなら、自分は、何としてもリリアナを無事に取り戻すまで。
「返り討ちにしてくれる!」
ヒースグリフ侯爵は闘志を燃やした。
「セーラ、おめでとう!」
「ありがとうございます、妃殿下」
コロンドン伯爵家にある小さな礼拝堂での式の後、庭に張ったテントの下で披露宴が始まった。
再婚で、セーラが妊娠5ヶ月ということもあり、お互いの親族のみの、規模の小さな披露宴だ。
顔を綻ばせるセーラを見て、リリアナは安堵した。
セーラの、前の結婚は、相当辛いものだった。結婚と同時に、夫に愛人が居ることが発覚。セーラは夫からも義両親からも虐げられ、実家と連絡を取ることを禁じられた。
音信不通になり、心配したコロンドン伯爵が直接会いに行っても「今体調が悪い」「セーラが会いたくないと言っている」等の理由で会わせてもらえない。
途方に暮れていたところに、長期遠征から戻ってきたセーラの友人のホークスが救出に動き、全てが明るみになった。
救出され、痩せ細ったセーラに会った時の衝撃は忘れられない。
手紙の返信が来なかった時、忙しくて返信する間もないのかもしれない、とリリアナは自分を納得させていた。あの時、異変だと思えていれば。何か行動できていれば…
しかしその後のセーラは逞しく、離縁後、自らの経験を活かして、嫁ぎ先で虐待や軟禁を受ける当事者やその家族への支援を続け、それは個人の枠を超えて、昨年より国の事業として認められた。
そして今日、ホークスと結ばれた。
セーラからは幸せオーラが溢れていて、まるで女神のようだ。
よかった、本当によかった…
リリアナは目を潤ませた。
「殿下、お忙しい中、本日はご列席賜り大変ありがたく存じております」
「急な出席で気遣わせたな。祝いの品を持ってきたので受け取ってほしい。」
「ありがとうございます」
今日はガーデンパーティに合わせて、セイラムは礼服、リリアナはデイドレス。
2人とも、普段よりもだいぶ簡素な格好だ。
「これはうまいな、リリアナ。何という料理だろう」
「そちらはセーラの故郷のクラッパという郷土料理ですわ。鶏肉を煮込む際に酢も入れますの。殿下はさっぱりしたお味の方がお好みですものね。あぁ、それならそこにあるクシュカもいかがですか。ハーブを混ぜ込んだチーズの前菜です」
「どれだ」
「ほら、そこの、葉に包まれたひと口大の・・」
「これか・・・なかなか取りにくいな」
「普段は手でそのまま摘まんで食べてます」
「そうか、ではそうしよう・・・確かに、俺好みの味だ」
「そうだと思いました」
リリアナがクスクスと笑った。
ヒースグリフ侯爵は困惑していた。
宴も終盤であるが、今のところ、リリアナとセイラムは仲睦まじい様子である。
不仲って、ただの噂?
リリアナが殿下の婚約者に選ばれたのは、もちろんリリアナの出来が良かったのもあるが、派閥のパワーバランスの偏りを防ぐ意味合いが強かった。
政情を思うと納得せざるをえなかったが、なかなか縮まらない2人の距離を思うと、リリアナがどうしても無理というなら、親としてどうにかしてやりたいという気持ちはあった。
だが、リリアナは、自分からは何も言ってこなかった。
粛々と婚姻に向けて準備して、嫁いで行ってしまった。
その後、王城から流れてくる噂話を聞いて強い憤りを感じたが、その後に抱いたのは、リリアナへの深い罪悪感だった。
こうなったら、なりふり構わず、王太子のボロを見つけてリリアナを取り返すつもり、だったのだが・・。
あ、リリアナがナフキンで口元の生クリーム拭いてあげてる。
殿下が大人しく拭かれてる。
あ、殿下が自分の苺、リリアナにあげてる。
リリアナ、周りを気にしながらも嬉しそう。
………自分は何見てんだろ。
「リリアナも、殿下の前であんな表情ができるようになったのですね、あなた」
ヒースグリフ夫人は寂しげな侯爵にそっと寄り添った。
リリアナは王太子妃だとは言え、小さな頃から可愛がってきた姪っ子なので、結婚式はアットホームに肩肘張らずにいこうと決めていた。
だがしかし、王太子が来るとなると話は別だ。
急に参列すると言われても、王族への対応の正解がわからず、兄であり、リリアナの父でもあるヒースグリフ侯爵に相談した。
ヒースグリフ侯爵は、弟から話を聞き喫驚した。
こんな、と言っては失礼だが、王族が来るほどの旨味も価値もない、ただただアットホームなこんな結婚式に、あの王太子がただで参列するとは思えない。
何か裏がある!!
もしや我々親族の中に犯罪行為に手を染める者がいて、情報収集に…?
でもそれなら影で十分だな。
リリアナと一緒に参加する意味…
リリアナとの不仲説、乳兄妹の恋人の噂、これが意味するところは…
離縁だな。
離縁のための材料集めか、それか離縁に向けた話し合いをするつもりで乗り込んでくるか。
そっちがそのつもりなら、自分は、何としてもリリアナを無事に取り戻すまで。
「返り討ちにしてくれる!」
ヒースグリフ侯爵は闘志を燃やした。
「セーラ、おめでとう!」
「ありがとうございます、妃殿下」
コロンドン伯爵家にある小さな礼拝堂での式の後、庭に張ったテントの下で披露宴が始まった。
再婚で、セーラが妊娠5ヶ月ということもあり、お互いの親族のみの、規模の小さな披露宴だ。
顔を綻ばせるセーラを見て、リリアナは安堵した。
セーラの、前の結婚は、相当辛いものだった。結婚と同時に、夫に愛人が居ることが発覚。セーラは夫からも義両親からも虐げられ、実家と連絡を取ることを禁じられた。
音信不通になり、心配したコロンドン伯爵が直接会いに行っても「今体調が悪い」「セーラが会いたくないと言っている」等の理由で会わせてもらえない。
途方に暮れていたところに、長期遠征から戻ってきたセーラの友人のホークスが救出に動き、全てが明るみになった。
救出され、痩せ細ったセーラに会った時の衝撃は忘れられない。
手紙の返信が来なかった時、忙しくて返信する間もないのかもしれない、とリリアナは自分を納得させていた。あの時、異変だと思えていれば。何か行動できていれば…
しかしその後のセーラは逞しく、離縁後、自らの経験を活かして、嫁ぎ先で虐待や軟禁を受ける当事者やその家族への支援を続け、それは個人の枠を超えて、昨年より国の事業として認められた。
そして今日、ホークスと結ばれた。
セーラからは幸せオーラが溢れていて、まるで女神のようだ。
よかった、本当によかった…
リリアナは目を潤ませた。
「殿下、お忙しい中、本日はご列席賜り大変ありがたく存じております」
「急な出席で気遣わせたな。祝いの品を持ってきたので受け取ってほしい。」
「ありがとうございます」
今日はガーデンパーティに合わせて、セイラムは礼服、リリアナはデイドレス。
2人とも、普段よりもだいぶ簡素な格好だ。
「これはうまいな、リリアナ。何という料理だろう」
「そちらはセーラの故郷のクラッパという郷土料理ですわ。鶏肉を煮込む際に酢も入れますの。殿下はさっぱりしたお味の方がお好みですものね。あぁ、それならそこにあるクシュカもいかがですか。ハーブを混ぜ込んだチーズの前菜です」
「どれだ」
「ほら、そこの、葉に包まれたひと口大の・・」
「これか・・・なかなか取りにくいな」
「普段は手でそのまま摘まんで食べてます」
「そうか、ではそうしよう・・・確かに、俺好みの味だ」
「そうだと思いました」
リリアナがクスクスと笑った。
ヒースグリフ侯爵は困惑していた。
宴も終盤であるが、今のところ、リリアナとセイラムは仲睦まじい様子である。
不仲って、ただの噂?
リリアナが殿下の婚約者に選ばれたのは、もちろんリリアナの出来が良かったのもあるが、派閥のパワーバランスの偏りを防ぐ意味合いが強かった。
政情を思うと納得せざるをえなかったが、なかなか縮まらない2人の距離を思うと、リリアナがどうしても無理というなら、親としてどうにかしてやりたいという気持ちはあった。
だが、リリアナは、自分からは何も言ってこなかった。
粛々と婚姻に向けて準備して、嫁いで行ってしまった。
その後、王城から流れてくる噂話を聞いて強い憤りを感じたが、その後に抱いたのは、リリアナへの深い罪悪感だった。
こうなったら、なりふり構わず、王太子のボロを見つけてリリアナを取り返すつもり、だったのだが・・。
あ、リリアナがナフキンで口元の生クリーム拭いてあげてる。
殿下が大人しく拭かれてる。
あ、殿下が自分の苺、リリアナにあげてる。
リリアナ、周りを気にしながらも嬉しそう。
………自分は何見てんだろ。
「リリアナも、殿下の前であんな表情ができるようになったのですね、あなた」
ヒースグリフ夫人は寂しげな侯爵にそっと寄り添った。
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