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サイドストーリー:フリージア
雨宿り
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捕獲の後、雌雄を判別して一斉に逃して、本日のミッションは終了だ。
「雄が17匹、雌が2匹か。」
「やっぱり雌が少ないのね。」
帰り支度を始めて、フリージアはまたラップ式スカートを纏ってドレスに直した。
最近は、テオとワーキャー言いながらカエルを捕る時間が楽しくて仕方ない。
最初は16にもなってカエル捕りなんて、と思っていた。
王宮でただ過ごすことよりはいいのかも、程度の気持ちで選んだだけだった。
でも、実際に始めてみると、カエルが苦手なテオが必死に捕り網を振り回す姿や、網でカエルを捕れたら捕れたで「おい!捕れたぞ!早く・・早くこっちに来てくれ!捕まえてくれ!」と必死にフリージアを呼びつける様など見てると、毎回大笑いしてしまう。
だからだろう。帰り支度を始める頃に、いつもなんだか寂しい。
テオは少し離れたところで背を向けて空を見ている。
・・・別に身支度するところを見ても気にしないって言ってるのに、デリカシーないくせに、意外に律儀ね。
内心でつぶやいて、フリージアが支度が整ったことを告げると、テオが振り返った。
「急ごう。降ってくるぞ」
フリージアは空を見た。風は強いが、青天だ。
「本当に?雨雲も見当たらないけど」
「風が急に冷たくなった。急ごう」
冗談で言っているわけではないようだ。
フリージアの荷物を持って早足で歩き出した。
歩き出して間もなく、日が陰り、見上げるといつの間にか青空が、まっくろな雲に占められている。
間もなく公園の出口、という頃にゴロゴロという雷鳴と共に、ポツ、ポツ、と頬に水滴が当たった。
「フリージア、本降りになる、急げ!」
テオが振り返り、手を出してきた。
その手を取り、フリージアも駆け足で公園の出口を突っ切った。
ポツポツから、すぐにザーッと雨足が強まり、おまけに稲光までするようになった。
公園の出口の向かいにあった店の軒下まで辿り着くと、2人とも息が上がってすぐには喋れなかった。
息が整ってくると、可笑しくなってきた。
「ふふ、間一髪だったわね」
「ほら、言っただろ」
テオも笑って、嬉しそうに天を仰ぐ。
降り注ぐ雨がキラキラしている。
「大丈夫か?濡れてないか?」
「・・濡れたけど、平気。拭けば問題ないわ。」
「そうか」
「よく、わかったわね。あなたが教えてくれなかったら、今頃びしょびしょだったわ」
「急に冷たい風が吹くときは、急な雨になるんだ。まぁ最終的には濡れたから、予報は完全には成功しなかったけど」
テオが顔を綻ばせている。
フリージアは思わず顔を下げた。
雨の日は、つまらなくて、憂鬱で、大嫌いだった。
それなのにーー
この人といると、どうしてこんなにワクワクするんだろう。
跳ねる心に、フリージアは戸惑っていた。
私、チョロすぎじゃない?
いやいや、ないから。
私が好きなのは、かっこよくて、高貴な出で、紳士で優しくて王子様みたいな・・
そこまで考えて、自分で地雷を踏んだことに気づき、げんなりした。
ひとまず、このドキドキの原因を考えるのは保留よ。保留。
「少しすれば降り止むと思うが、どうする?帰りを急ぐようなら、傘を買って停車場に向かうが・・」
「別に急いでないわ。あなたが良ければ、疲れたし、カフェでも入って時間潰さない?」
「そうだな。俺も特に予定はない。」
見回すと、1本通りを挟んだ所にカフェらしき店が見える。
最後のひと走りをして、店に入ると、少し込み合っていたが、着席することができた。
メニューも見ずにアイスコーヒーを頼んだテオとは対照的に、フリージアはメニューを隅から隅まで見てから、
ミルクティーと、バナナとクランベリーのパウンドケーキを頼んだ。
ミルクティーに口をつけて、やっと一息つく。
「テオはコーヒーだけでいいの?」
「あぁ。甘いのは嫌いなんだ」
そういえば、テオが何かを口に入れているのを見るのは初めてだ。
「あなたって、普段何食べてるの?」
「何って・・」
「あんまり顔色が良くないから、気になっていたのよね。体も細いし」
「・・・ちゃんと食べている。」
テオが気まずそうに視線を逸らしたのを、フリージアは見逃さなかった。
「ちゃんとって、何を食べてるのか、言ってみて」
「・・・」
その後の聴取により、テオが極度の偏食で、且つ食が細いことから、気が向いたときに食べられそうなものがあれば何か食べる、そしてそれは主にナッツである、という食生活を送っていることが判明した。
「あなたって、随分狭い世界で生きているのね」
フリージアがニヤリと笑ってやり返したのは、言うまでもない。
1時間ほどカフェで過ごし外に出ると、すっかり青空が戻り、外は明るくなっていた。
時折、屋根からポタン、ポタンと水滴が垂れてくる。
「あの・・ごちそうさま。別に良かったのに・・」
「業務時間内だからな。俺が支払うのは当然だ。」
「じゃあ、この時間分の手当は要らないわ」
「気にするな。俺は高給取りだ。
「でも・・・」
「ドレスを改造したり、このためにやってくれたんだろう?家族に嘘をつかせているのは俺なんだから、その分の詫びだとでも思ってくれればいい」
「・・ありがとう」
テオの律儀さには敵わない、とフリージアは微笑んだ。
「雄が17匹、雌が2匹か。」
「やっぱり雌が少ないのね。」
帰り支度を始めて、フリージアはまたラップ式スカートを纏ってドレスに直した。
最近は、テオとワーキャー言いながらカエルを捕る時間が楽しくて仕方ない。
最初は16にもなってカエル捕りなんて、と思っていた。
王宮でただ過ごすことよりはいいのかも、程度の気持ちで選んだだけだった。
でも、実際に始めてみると、カエルが苦手なテオが必死に捕り網を振り回す姿や、網でカエルを捕れたら捕れたで「おい!捕れたぞ!早く・・早くこっちに来てくれ!捕まえてくれ!」と必死にフリージアを呼びつける様など見てると、毎回大笑いしてしまう。
だからだろう。帰り支度を始める頃に、いつもなんだか寂しい。
テオは少し離れたところで背を向けて空を見ている。
・・・別に身支度するところを見ても気にしないって言ってるのに、デリカシーないくせに、意外に律儀ね。
内心でつぶやいて、フリージアが支度が整ったことを告げると、テオが振り返った。
「急ごう。降ってくるぞ」
フリージアは空を見た。風は強いが、青天だ。
「本当に?雨雲も見当たらないけど」
「風が急に冷たくなった。急ごう」
冗談で言っているわけではないようだ。
フリージアの荷物を持って早足で歩き出した。
歩き出して間もなく、日が陰り、見上げるといつの間にか青空が、まっくろな雲に占められている。
間もなく公園の出口、という頃にゴロゴロという雷鳴と共に、ポツ、ポツ、と頬に水滴が当たった。
「フリージア、本降りになる、急げ!」
テオが振り返り、手を出してきた。
その手を取り、フリージアも駆け足で公園の出口を突っ切った。
ポツポツから、すぐにザーッと雨足が強まり、おまけに稲光までするようになった。
公園の出口の向かいにあった店の軒下まで辿り着くと、2人とも息が上がってすぐには喋れなかった。
息が整ってくると、可笑しくなってきた。
「ふふ、間一髪だったわね」
「ほら、言っただろ」
テオも笑って、嬉しそうに天を仰ぐ。
降り注ぐ雨がキラキラしている。
「大丈夫か?濡れてないか?」
「・・濡れたけど、平気。拭けば問題ないわ。」
「そうか」
「よく、わかったわね。あなたが教えてくれなかったら、今頃びしょびしょだったわ」
「急に冷たい風が吹くときは、急な雨になるんだ。まぁ最終的には濡れたから、予報は完全には成功しなかったけど」
テオが顔を綻ばせている。
フリージアは思わず顔を下げた。
雨の日は、つまらなくて、憂鬱で、大嫌いだった。
それなのにーー
この人といると、どうしてこんなにワクワクするんだろう。
跳ねる心に、フリージアは戸惑っていた。
私、チョロすぎじゃない?
いやいや、ないから。
私が好きなのは、かっこよくて、高貴な出で、紳士で優しくて王子様みたいな・・
そこまで考えて、自分で地雷を踏んだことに気づき、げんなりした。
ひとまず、このドキドキの原因を考えるのは保留よ。保留。
「少しすれば降り止むと思うが、どうする?帰りを急ぐようなら、傘を買って停車場に向かうが・・」
「別に急いでないわ。あなたが良ければ、疲れたし、カフェでも入って時間潰さない?」
「そうだな。俺も特に予定はない。」
見回すと、1本通りを挟んだ所にカフェらしき店が見える。
最後のひと走りをして、店に入ると、少し込み合っていたが、着席することができた。
メニューも見ずにアイスコーヒーを頼んだテオとは対照的に、フリージアはメニューを隅から隅まで見てから、
ミルクティーと、バナナとクランベリーのパウンドケーキを頼んだ。
ミルクティーに口をつけて、やっと一息つく。
「テオはコーヒーだけでいいの?」
「あぁ。甘いのは嫌いなんだ」
そういえば、テオが何かを口に入れているのを見るのは初めてだ。
「あなたって、普段何食べてるの?」
「何って・・」
「あんまり顔色が良くないから、気になっていたのよね。体も細いし」
「・・・ちゃんと食べている。」
テオが気まずそうに視線を逸らしたのを、フリージアは見逃さなかった。
「ちゃんとって、何を食べてるのか、言ってみて」
「・・・」
その後の聴取により、テオが極度の偏食で、且つ食が細いことから、気が向いたときに食べられそうなものがあれば何か食べる、そしてそれは主にナッツである、という食生活を送っていることが判明した。
「あなたって、随分狭い世界で生きているのね」
フリージアがニヤリと笑ってやり返したのは、言うまでもない。
1時間ほどカフェで過ごし外に出ると、すっかり青空が戻り、外は明るくなっていた。
時折、屋根からポタン、ポタンと水滴が垂れてくる。
「あの・・ごちそうさま。別に良かったのに・・」
「業務時間内だからな。俺が支払うのは当然だ。」
「じゃあ、この時間分の手当は要らないわ」
「気にするな。俺は高給取りだ。
「でも・・・」
「ドレスを改造したり、このためにやってくれたんだろう?家族に嘘をつかせているのは俺なんだから、その分の詫びだとでも思ってくれればいい」
「・・ありがとう」
テオの律儀さには敵わない、とフリージアは微笑んだ。
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