【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria

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サイドストーリー:フリージア

悔いる。

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「儂に答えられることなら、何なりと」

「頂いた本で、サファイアのことを勉強しました。そうしたら、コッツ地方のことが出てきて・・この国のことなのに、私は何も知らなかったんです。」

ジョエルナ伯爵はうなずいて、室内にあるショーケースの引き出しから小さな箱を取り出し、フリージアの前で蓋を開けて見せた。

さっき見たよりも、もっと青みの強いサファイアだ。小指の爪ほどの大きさのサファイアに並んで、"コッツ産"と記された小さなタグ置かれている。

「コッツ地方は昔から良質なサファイアが取れることで有名で、シーブルーの深い青味が特徴だ。コッツ・サファイアと呼ばれて世界中から人気があった。」

伯爵が箱を傾けると、コッツ サファイアが光を受けてキラキラと輝く。

「産出量が激減したのは11年前からだ。天然資源の枯渇だろうという大方の意見を、その時の領主は信じなかった。掘削のために設備投資を続けて、がむしゃらに掘り進めた結果、大規模な崩落事故が起きた。借金も膨れ上がり、サファイアが枯渇してわずか半年で、領主は破産した。」

「それなのに、今だにコッツ地方では、サファイア採石を生業にしている人がほとんどだと書いてありました」

「そうだ。北方にあるコッツ地方は雨季以外はほとんど雨の降らない、農耕にも向かない乾燥した地域だ。サファイアが採れなくなって職を失い、民の暮らしぶりも坂道を転げ落ちるように悪くなった。特にコッツ村の貧困は深刻だ。多くの村民が貧困にあえいでいて、家族総出で1日中、川底をさらってサファイアを探している。小さな子どもも貴重な労働力として駆り出される。勿論学校には行かせてもらえない。」

伯爵はため息をついた。

「数年に1度、雨季に鉄砲水が発生しては大きな被害が出る。冬は川の水が冷たく低体温症にもなりやすい。それでなくても貧しいから栄養も十分ではない。コッツ村の子どもの5人に2人は、5歳まで生きられない。」

本にはそこまで詳しいことは載っていなかった。フリージアは痛ましさに顔を顰める。

「そんなに酷いのですか…」

「爪の先ほどのサファイアでも、それさえ見つかれば、家族で1ヶ月は生活できる。これくらいの大きさのサファイアを見つけられたら、家族は何をしなくても1年は楽に暮らせるだろうな。だがはっきり言って、そんなものは博打と変わらない。命の危険が高い分、博打よりもタチが悪い。」

伯爵はしばし押し黙った。

 「儂は相手と取引するかはテストで決める。石の価値を知っているか見極めるためだ。ここにある石は、もしかしたら、誰かが命懸けで採った石かもしれない。だが、命懸けで採ってもただ拾っただけでも、石の価値は変わらない。石の背後には、これで生計をたてている者がいる。儂は、その者たちから不当に買い叩く輩が何よりも我慢ならん。不当な売買は、石の価値を歪ませ、何より信用を失う。石を売る者が石の価値を下げてしまうのだ。だから儂らは常に真摯な気持ちで石と向き合わねばならない。…わかるか、ミス ターナー」 

フリージアはジョエルナ伯爵の信念に触れた気がして、何度も頷いた。

伯爵も頷き、手にあったコッツ サファイアの箱を閉じると、またショーケースに戻している。

「伯爵、コッツ村は、今どうなっているんですか」

「コッツ村の惨状は、生半可な介入では太刀打ちできない。誰も見て見ぬふりだったんだ、去年までは。」

去年?とフリージアがつぶやく。

「年始の王族のご挨拶の際、王太子妃様、自らがコッツ村の惨状に触れ、急を要する王太子妃事業の柱のひとつに、コッツ村の復興を位置付けた。」

「リリアナ様が…」

「コッツ地方では、王族に悪感情を抱いている者が多い。サファイアが枯渇した時に、暴走する領主に対し何もしてくれなかった、というのがその主な理由だが、あの頃は王妃様がご逝去される少し前のことで、時期も悪かったのだ…」

王妃が逝去し、王太子の心身を案じた母が乳母として王宮に残り、共に連れられたフリージアも王宮で1年を過ごした。あの頃には既にコッツのサファイアは枯渇しかけていたのだ。

「益の見込めない土地に、コッツの民が貴族に抱く不信感もあり、領主になろうとする貴族もいなかったが…王太子妃様のご実家の、ヒースグリフ侯がコッツの領主を兼務するようだ。元々王族ではない王太子妃様が取り組むということであれば、コッツの民も、まだ受け入れやすいだろう。民の職を変え、廃れた学校を機能させ、教育を受けるよう民の意識を変えて…整うまでには、20年はかかるだろうな」

リリアナ様。

美人でスタイルも良くて頭も良くて私よりも高貴な出で。

私に無いものをあんなに沢山持っているのに、それが何でもないような顔をして、王子妃として皆から頼られ慕われて。

そう思っていた。

あの方は…何でもないような顔をして、王子妃として、闘っておられた。

私は…私はなんということを…

フリージアは両手で顔を覆って泣き出した。

「ミス ターナー??」

ジョエルナ伯爵が焦ったような声をあげる。

グーツが慌ててハンカチを取り、差し出した。

「わ、私、自分が恥ずかしい…自分が、恥ずかしい…!」

王太子という身分に目が眩んだ自分

側妃になるために、リリアナ様を謀るような真似をして…

いつもいつも、自分のことしか考えていなかった。

お二人の肩にかかる、数多の民の命のことなど思い浮かべもせずに。

なんと卑しく、なんと愚かな。

強烈な羞恥と自己否定の波に、フリージアの感情は焼き切れそうだった。
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