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懐妊編
再会
白薔薇を手向け、一歩下がり、静かに目を閉じる。
記憶の片隅に、王妃の姿がある。
王冠を被った国王陛下の隣に、背筋を伸ばし凛とした王妃殿下がいる。
紺地に金の総刺繍の映える、ドレープの美しいドレスに身を包み、優しく微笑みながら民に手を振っていた。
バルコニーに立つお2人をひと目見ようと、大勢の人が王宮に集まっていた。
ギリアン国王の戴冠式の後のセレモニーなので、5、6歳ごろの記憶だろう。
「ほら、あれが国王陛下と王妃様だよ」
父に抱っこされ、そう教えてもらったリリアナは、憧れの"本物のお姫様"に、夢中で手を振ったのを憶えている。
その姿が、リリアナの中にある、唯一の王妃の記憶だ。
セイラムと同じ、翡翠色の瞳を持つセリーヌ王妃も、リリアナと同じく、貴族の出だった。
もし生きていたら…
これから国を背負う人物を産み育てるのだ、というこのプレッシャーを、分かち合ってもらえただろうか。
王太子妃の執務を完璧に果たしながら子を育てるためには、何が必要なのか、教えてもらえただろうか。
もう一度祭壇を見据えて礼をすると、リリアナは元来た道を戻り始めた。
外に出ると、柔らかな陽の光が眩しくて、思わず目を細める。
小鳥の囀りが耳に心地いい。
「行きましょう」
そう護衛に声をかけて、王妃の霊廟を後にした。
正殿に戻る道すがら、新宮の中庭を通っていると、見知った後ろ姿に、思わず声をかける。
「ジュリアン?」
一つにまとめた赤銅色の髪を靡かせて、振り返ったジュリアンは驚いたように目を丸くした。
「リ…妃殿下、ご無沙汰しております」
共立って歩いていた文官も、同じく礼をして通路を空ける。
他の者の目もあると言うのに、思わず慣れた呼び名で呼んでしまった。
リリアナは取り繕うように、咳払いをした。
「ギルトフォード子爵令息、今日いらしていたのですね」
いつもなら、王宮に来る時は必ず教えてくれたのに、なぜ?
「はい、仕事の関係で、急遽登城する事になりまして。王都の友人に手紙を出しても間に合わないほどでございました」
「そう、それはご苦労でした。ご両親はお元気かしら?」
「はい、それはもう。妃殿下にお気遣い頂いたと知れば、益々元気になりましょう」
「何よりです。ギルトフォード子爵夫人にお手紙を渡したいわ。王宮から辞する時に寄ってもらえるかしら」
「勿論でございます」
「ありがとう。これからも国のために力を尽くしなさい」
「御意。」
お辞儀するジュリアンと文官を置いて、リリアナは歩を進めた。
執務ももう直ぐ終わる頃に、ジュリアンが尋ねてきたと連絡を受ける。
面談室に通されたジュリアンは、リリアナの姿を見て目を細めた。
ヒルラと3人になった所で、ジュリアンは口を開いた。
「リリィ、ごめんね。連絡もせずに」
「いいのよ、でもあなたが突然王宮にいたからびっくりしたわ。」
リリアナは微笑んだ。
「本当に、急な仕事が入ってね。今日着いてそのまま王宮に来たんだ。」
ニコニコと笑顔でジュリアンが答える。
「文官と仕事なんて、珍しいのね。どれくらいこちらにいるの?」
「最低1ヶ月は王都にいると思うよ。…ジェラード国の貿易絡みの仕事でね」
「あぁ、なるほど」
「しばらく王都にいるから、また遊びにくるね」
「ええ、今日は呼び立ててごめんなさい」
「いいや、会えて良かった。」
こうやって、話してみればいつも通りのジュリアンだ。
しばらく話し相手に困らないわね。
リリアナは機嫌良く、執務に戻っていった。
記憶の片隅に、王妃の姿がある。
王冠を被った国王陛下の隣に、背筋を伸ばし凛とした王妃殿下がいる。
紺地に金の総刺繍の映える、ドレープの美しいドレスに身を包み、優しく微笑みながら民に手を振っていた。
バルコニーに立つお2人をひと目見ようと、大勢の人が王宮に集まっていた。
ギリアン国王の戴冠式の後のセレモニーなので、5、6歳ごろの記憶だろう。
「ほら、あれが国王陛下と王妃様だよ」
父に抱っこされ、そう教えてもらったリリアナは、憧れの"本物のお姫様"に、夢中で手を振ったのを憶えている。
その姿が、リリアナの中にある、唯一の王妃の記憶だ。
セイラムと同じ、翡翠色の瞳を持つセリーヌ王妃も、リリアナと同じく、貴族の出だった。
もし生きていたら…
これから国を背負う人物を産み育てるのだ、というこのプレッシャーを、分かち合ってもらえただろうか。
王太子妃の執務を完璧に果たしながら子を育てるためには、何が必要なのか、教えてもらえただろうか。
もう一度祭壇を見据えて礼をすると、リリアナは元来た道を戻り始めた。
外に出ると、柔らかな陽の光が眩しくて、思わず目を細める。
小鳥の囀りが耳に心地いい。
「行きましょう」
そう護衛に声をかけて、王妃の霊廟を後にした。
正殿に戻る道すがら、新宮の中庭を通っていると、見知った後ろ姿に、思わず声をかける。
「ジュリアン?」
一つにまとめた赤銅色の髪を靡かせて、振り返ったジュリアンは驚いたように目を丸くした。
「リ…妃殿下、ご無沙汰しております」
共立って歩いていた文官も、同じく礼をして通路を空ける。
他の者の目もあると言うのに、思わず慣れた呼び名で呼んでしまった。
リリアナは取り繕うように、咳払いをした。
「ギルトフォード子爵令息、今日いらしていたのですね」
いつもなら、王宮に来る時は必ず教えてくれたのに、なぜ?
「はい、仕事の関係で、急遽登城する事になりまして。王都の友人に手紙を出しても間に合わないほどでございました」
「そう、それはご苦労でした。ご両親はお元気かしら?」
「はい、それはもう。妃殿下にお気遣い頂いたと知れば、益々元気になりましょう」
「何よりです。ギルトフォード子爵夫人にお手紙を渡したいわ。王宮から辞する時に寄ってもらえるかしら」
「勿論でございます」
「ありがとう。これからも国のために力を尽くしなさい」
「御意。」
お辞儀するジュリアンと文官を置いて、リリアナは歩を進めた。
執務ももう直ぐ終わる頃に、ジュリアンが尋ねてきたと連絡を受ける。
面談室に通されたジュリアンは、リリアナの姿を見て目を細めた。
ヒルラと3人になった所で、ジュリアンは口を開いた。
「リリィ、ごめんね。連絡もせずに」
「いいのよ、でもあなたが突然王宮にいたからびっくりしたわ。」
リリアナは微笑んだ。
「本当に、急な仕事が入ってね。今日着いてそのまま王宮に来たんだ。」
ニコニコと笑顔でジュリアンが答える。
「文官と仕事なんて、珍しいのね。どれくらいこちらにいるの?」
「最低1ヶ月は王都にいると思うよ。…ジェラード国の貿易絡みの仕事でね」
「あぁ、なるほど」
「しばらく王都にいるから、また遊びにくるね」
「ええ、今日は呼び立ててごめんなさい」
「いいや、会えて良かった。」
こうやって、話してみればいつも通りのジュリアンだ。
しばらく話し相手に困らないわね。
リリアナは機嫌良く、執務に戻っていった。
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