88 / 106
懐妊編
見送り
しおりを挟む
学会認定に関する詳細な説明のため、使者一行と文官達をその場に残し、高齢のヴァシリス上皇とその側近は先に退出することとなった。
見送りに、エントランスまで王太子夫妻が同行する。
道すがら、上皇は和やかな雰囲気のまま話し出した。
「此度の学会で、学会賞の対象や個人認定など、会則も含めて見直さねばならぬところが複数出てな。今、ジル学会長は目を回すほどの忙しさだ。」
「それは大変でしょう…ジル学会長にもよろしくお伝えください。」
「うむ。セイラム殿に提案された件についても検討したいところだが…すぐには変えられんだろう。」
「俺は気にしませんが」
「ジル学会長が気にするのだ。」
「なぜでしょう?」
「お主のお陰で目が覚めたと言っておったぞ。学会の存続にばかり気を取られて、学会の未来への視点が抜けていた、とな。学会の在り方を根本から見直したいと意欲を燃やしておる」
「買い被りすぎです。俺は、妃と話していたことをあの場で率直に伝えただけです」
「それなら、尚のこと喜ばしいな。グロース王国は、良き王太子だけでなく、良き王太子妃も得たということだ」
そこで一旦会話は途切れ、一行はヴァシリス上皇の歩調に合わせて、ゆっくり新宮の回廊を進む。
徐にヴァシリス上皇が呟いた。
「…前回の監査はいつだったか」
「前回は15年前になりますわ」
「15年も前になるのか…あの頃は、まだ、この宮は建設中だった。」
記憶を手繰り寄せるように、上皇は回廊から続く中庭に視線を移した。
「私は学会長で、あの時の御国の代表者は、王妃になったばかりのセリーヌ殿であったな」
前を向いていたセイラムの視線が上皇に移る。
「前回の監査の評価は、どの項目も軒並み低評価で散々だったと聞いています。」
「そうだな、指摘すべきところがそれこそ山のようにあって、セリーヌ殿はひとり矢表で頑張っておられた。足りない、不十分、出来てない、と指摘され続けて、流石に心が折れてしまうのではないかと心配になったほどだ。だが…」
思い出したのか、ヴァシリス上皇がフッと笑う。
「監査を終えて帰る私に、セリーヌ殿はこう仰った。『ここがどれほどの荒れ地か、証明して下さってありがとうございました。おかげで、私が手を入れて耕さねばならぬ理由を文官達に示せましたわ』と。艶やかに笑いながらな。あの指摘に耐え、我々の監査を逆に利用してみせるとは、と感心したものだ。」
「まぁ、さすが王妃様」
「『次に監査にいらっしゃる時には、必ずや驚かせてみせますから、楽しみにしていらして』とも言われてな。セリーヌ殿にはとても期待していたのだ。王妃としての仕事が落ち着いたら、この学会に力を貸して頂こうと思うほどに。本当に、惜しい方を亡くした」
「…はい」
「だが、セリーヌ殿の予告通り、今回の監査では本当に驚かされることばかりで、とても嬉しくてな。監査の内容もさることながら、シンポジウムで退席する際のセイラム殿など、セリーヌ殿の再来かと思ったぞ。」
エントランスに到着すると、馬車が待っていた。
「セイラム殿、改めて認定おめでとう。御母堂も喜んでおられよう。学会共々、今後もよろしく頼む」
「精一杯務めます」
「うむ。それでは失礼する。リリアナ殿、身体を大事にな。状況が許すなら、是非セイラム殿と共に学会に参加してほしい」
「はい、ありがとうございます」
ヴァシリス上皇は最後に2人に祝福をおくると、王宮を後にした。
見送りに、エントランスまで王太子夫妻が同行する。
道すがら、上皇は和やかな雰囲気のまま話し出した。
「此度の学会で、学会賞の対象や個人認定など、会則も含めて見直さねばならぬところが複数出てな。今、ジル学会長は目を回すほどの忙しさだ。」
「それは大変でしょう…ジル学会長にもよろしくお伝えください。」
「うむ。セイラム殿に提案された件についても検討したいところだが…すぐには変えられんだろう。」
「俺は気にしませんが」
「ジル学会長が気にするのだ。」
「なぜでしょう?」
「お主のお陰で目が覚めたと言っておったぞ。学会の存続にばかり気を取られて、学会の未来への視点が抜けていた、とな。学会の在り方を根本から見直したいと意欲を燃やしておる」
「買い被りすぎです。俺は、妃と話していたことをあの場で率直に伝えただけです」
「それなら、尚のこと喜ばしいな。グロース王国は、良き王太子だけでなく、良き王太子妃も得たということだ」
そこで一旦会話は途切れ、一行はヴァシリス上皇の歩調に合わせて、ゆっくり新宮の回廊を進む。
徐にヴァシリス上皇が呟いた。
「…前回の監査はいつだったか」
「前回は15年前になりますわ」
「15年も前になるのか…あの頃は、まだ、この宮は建設中だった。」
記憶を手繰り寄せるように、上皇は回廊から続く中庭に視線を移した。
「私は学会長で、あの時の御国の代表者は、王妃になったばかりのセリーヌ殿であったな」
前を向いていたセイラムの視線が上皇に移る。
「前回の監査の評価は、どの項目も軒並み低評価で散々だったと聞いています。」
「そうだな、指摘すべきところがそれこそ山のようにあって、セリーヌ殿はひとり矢表で頑張っておられた。足りない、不十分、出来てない、と指摘され続けて、流石に心が折れてしまうのではないかと心配になったほどだ。だが…」
思い出したのか、ヴァシリス上皇がフッと笑う。
「監査を終えて帰る私に、セリーヌ殿はこう仰った。『ここがどれほどの荒れ地か、証明して下さってありがとうございました。おかげで、私が手を入れて耕さねばならぬ理由を文官達に示せましたわ』と。艶やかに笑いながらな。あの指摘に耐え、我々の監査を逆に利用してみせるとは、と感心したものだ。」
「まぁ、さすが王妃様」
「『次に監査にいらっしゃる時には、必ずや驚かせてみせますから、楽しみにしていらして』とも言われてな。セリーヌ殿にはとても期待していたのだ。王妃としての仕事が落ち着いたら、この学会に力を貸して頂こうと思うほどに。本当に、惜しい方を亡くした」
「…はい」
「だが、セリーヌ殿の予告通り、今回の監査では本当に驚かされることばかりで、とても嬉しくてな。監査の内容もさることながら、シンポジウムで退席する際のセイラム殿など、セリーヌ殿の再来かと思ったぞ。」
エントランスに到着すると、馬車が待っていた。
「セイラム殿、改めて認定おめでとう。御母堂も喜んでおられよう。学会共々、今後もよろしく頼む」
「精一杯務めます」
「うむ。それでは失礼する。リリアナ殿、身体を大事にな。状況が許すなら、是非セイラム殿と共に学会に参加してほしい」
「はい、ありがとうございます」
ヴァシリス上皇は最後に2人に祝福をおくると、王宮を後にした。
82
あなたにおすすめの小説
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい
廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!
王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。
『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。
ならばと、シャルロットは別居を始める。
『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。
夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。
それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。
王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。
しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。
相手は10歳年上の公爵ユーグンド。
昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。
しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。
それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。
実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。
国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。
無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。
大森 樹
恋愛
【短編】
公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。
「アメリア様、ご無事ですか!」
真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。
助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。
穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで……
あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。
★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。
Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。
政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。
しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。
「承知致しました」
夫は二つ返事で承諾した。
私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…!
貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。
私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――…
※この作品は、他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる