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追い詰められてます。

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と言うわけで、今日は婚約者とデートである。

そう、なんとモリーには婚約者がいた。

その名はロニー。名前といい顔といい、正真正銘のモブである。

だが、そこがいい。

何より優しいし、平凡と安定を愛するモリーにはうってつけだった。

同い年のロニーは、王都に住む子爵令息だが、騎士を目指し、都外にある専用の寄宿学校に入っている。

新学年になってから半年経ってようやく、まとまった休みが取れて戻ってきた。

文通で様子は聞いていたが、会うのは本当に久しぶりだ。

金曜に帰宅すると言うので、日曜に会う予定にしていたのだが、やっぱりモリーに会いたいから、と急遽、土曜の今日家に来てくれた。

久々に会うロニーは益々身体も引き締まり、前より格好良くなっていた。

なんか先月、馬車の中で王太子に「会いたかった」って言われたり、抱きしめられたりとかしたけど、ロニーも居るし、まだ大丈夫だ。

まだ、モブ道を踏み外してはいないはず。

このまま、ロニーと結婚して、晴れて平凡な人生を歩むのよ!

この日のために新調したワンピースを着て、モリーとロニーが家を出ようとしたところで、速達が届いた。

モリーは家令が速達を受け取るのを横目で見ながら通り過ぎ、そのままロニーと出かけていった。




久々のデートは、ひと言で言うと「最高」だった。

ロニーは移動遊園地に連れて行ってくれた。

催しも多く、道端には見応えのある大道芸が繰り広げられ、ボールを入れてその得点で景品がもらえるゲームもあり、二人は大いに盛り上がった。

だが、デート中も、異変はそこかしこで感じた。

クレープを買い受け取ると、包み紙に小さなメモが入っていたり、遊園地のチケットと共に小さな紙を手渡されそうになったり。

ちらっと見えたメモに書いてあった字は、あの見慣れた王太子の字だったが、朝の速達を無視した時点で、モリーは覚悟を決め、受け取らない、読まない、を通した。



気づいたら、あっという間に夕方を迎えていた。

今日の夕空は空色とピンク色が入りまじっている。

「きれい・・」

と呟くと、ロニーが、帰る前に、すぐそばにある丘の上から夕日を見よう、と誘ってくれた。




少し登っただけなのに、それだけで移動遊園地の喧騒が遠ざかった。

「ロニー、ありがとう。とってもきれい・・」

「いいんだ。君が喜んでくれるんなら」

モニョモニョと言い、ロニーが顔を赤らめる。

「モリー、その、キスしてもいいかな?」

「え?」

「もうすぐ学園も卒業するだろう?婚約はしているけど、そろそろ本当の恋人になりたいんだ」

モリーは顔を赤らめ、少し迷ったが、頷いた。

2人向き合い、ロニーの両手がモリーの肩に置かれる。

モリーが目を閉じたその時。




「モリー!」

ゲッ!

バッと振り返ると、王太子が息を切らせながら、丘の頂にたどり着いた所だった。

ロニーが王太子を見てビックリしている。

「え?王太子殿下!?え?なんで?」

「ハァ、ハァ、ちょっ…まっ…てて」

王太子が両膝に手をついて、ゼーハー肩で息をしている。

待てと言われれば無碍にもできず、広場になんとも言えない時間が過ぎ去る。

なにこの王太子の息調いととのい待ちタイム。

モリーが心中でつっこんでいると、ようやく落ち着いたのか、王太子がロニーに歩み寄った。

「やあ!君はティダー子爵令息だね?こないだ私が寄宿学校に視察に行った時に話したよね」

「は、はい!覚えて頂いて光栄です!」

「君に折り入ってお願いがあるんだ」

「はい!何なりと!」

「帰ってくれる?」

「は・・はい!」

「ありがとう!」

ニッコリと笑って王太子はロニーを送り出した。

「え、ちょっ!ロニー!行かないで!」

私のモブ道が…!

「モリー、俺は王に忠誠を誓った身だ。君よりも任務を優先する俺を許してくれ…すまない!」

ロニーは苦渋の決断みたいな顔をして、速やかに帰宅した。

あれは絶対自分に酔ってる!

あんの騎士かぶれ厨二病モブめー!

心の中でロニーに悪態をつく。


「モリー」

ビックゥ!

王太子がモリーを背中から、抱きしめて、髪に顔を埋めている。

「せっかく明日を1日休みにして備えてたのに、急に今日になったって聞いて、仕事どころじゃなかった…」

明日デートの予定だったことがばれている。

ってことは、やはりロニーとの文通も検閲されてたか…

もはやモリーはこの程度では驚かなくなっていた。

クルンと半転させられ、王太子と向き合う。

「さっき、キスしてないよね?」 

「しようとしてた所に邪魔が入りまして」

嫌味をこめて返すが、王太子は笑みを深めた。

「ああ、それならよかった!モリー、安心して。近日中にはモリーに迷惑がかからない形で、婚約は白紙になるからね」

「え、何で!?」

思わず言うと、王太子が満足げに頷く。

「だって、他の人と婚約してたら僕のものにできないじゃない」

「こ、困ります!」

「照れなくていいんだよ」

ニッコリ微笑んで、王太子はまたモリーを抱き締めた。

「モリー…君の婚約が白紙になったら…そしたら僕と婚約しよう」

いやいやいやいや

ギューギュー抱きしめられるその胸を押し戻しながら、モリーは叫んだ。

「婚約もなにも、あなた奥さんいますよね!?」


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