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それぞれの御前試合

王子殿下の特命②リクルートしに行くのは俺、グース。

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宰相執務室での出来事の翌週、木曜16時。

「ああ、トラべリッチさん。ご足労頂きありがとうございます」

レイダンさんが俺を出迎える。



この1週間はとにかく大変だった。

「来年の余興は殿下の特命」という大激震に見舞われた6課6班。

「おいグース!やったじゃねぇか!」

大喜びのシムさんとは対照的に、先輩達が恨めしげに俺を見る。

俺のせいじゃねーしっ・・!



というわけで、殿下に命じられた通り、俺は新たに作った企画書を持って、王子執務室を訪れたのである。

とは言っても、殿下は多忙につき不在だそうで、ホッと息を吐く。

向かいに座ったレイダンさんは企画書を見終わると、ふむ、と頷いた。

「このリストに載っている、演目候補の剣舞ですが、我々が考えていたものとほぼ一緒で驚きました。さすがですね」

「あ、いえ。ほぼ一緒ってことは、何か違うのがありました?」

一応、世界の代表的な剣の流派は網羅しつつ厳選したつもりだったが。

レイダンさんが本棚からバカみたいに分厚い本を取り出してきた。

あ、あの本!やっぱり「世界の剣舞ーその起源と今昔ー」だ。

この企画を考えるにあたり、俺もずっと図書館から借りっぱなしのやつ。

レイダンさんの持ってきた本には、すごい数の付箋が付いていた。

目の前に差し出されたページを見て、俺は仰天した。

「ウーシェンロアですか!?」

そこにあったのは、『失われた剣 ウーシェンロア』だ。

10年前に最後の継承者が亡くなってからは、この本の『幻の剣舞』の章に分類されている。

それを知らないはずはあるまい。

「そう、ウーシェンロア。実はね、調査したところ、先日継承者を見つけたんです。」

「ええっ!?継承者がいるんですか!?」

それって剣舞界の大ニュースじゃない!?

「そう。だから、このリストにウーシェンロアも追加してほしい。代わりに、同じ地方のこれは削っても良いですね」

「はいっ!」

ウーシェンロアが来てくれるなら、すごい目玉になる。

「そうすると、全部呼べたとして剣舞は15種類ですね。演目の組み立ては、まだ白紙か・・」 

「すみません・・部署でも知恵を絞ってるんですが、なかなかいい案が思いつかなくて・・」

違う国の音楽を持つ踊りを、ひとつの会場でどうやって披露するのか。

そこが定まらないと、世界の剣舞が集まったとして意味がない。

「いえ、気にしないでください。この短期間でここまでまとめてくれて、出来過ぎなくらいですよ。それで、これなんですが・・」

レイダンさんが、俺の企画書から『今後のスケジュール』の紙を抜き出した。

「剣舞の達人のリクルートに7~8ヶ月かける予定になってますが・・」

「あ、すみません、読みが甘いですかね?」

それぞれの剣の達人のとこに行って、参加の約束を取り付ける、それだけなんだが、世界を旅して回るし、通訳をどうするかとか、旅程とか交通手段も考えないといけない。

準備に時間がかかる上、目指す相手の所在がハッキリしない者もいる。

ドレアドなんて、定住地を持たない狩猟民族だ。

それに、これまでの経験上・・たぶん、6課6班の出張申請とか通訳の申請は、どこよりも後回しにされて、許可がおりるのに通常の1.5倍、いや、2倍はかかる。

経費削減とか言われて、交通手段も安くて時間ばかりかかる乗り物に切り替えろとか言われるだろうし・・チッ、うちの班ばかり。

そう言った諸々を検討して最短で7ヶ月かと思ったんだが・・

「いえ、ここは3ヶ月で大丈夫です。」

「へ?さ、3ヶ月!?」

「このリストに載っている剣舞のうちの10件とは、すでに相手国と参加の取り付けが済んでます。」

この1週間でもう参加決まったの?
仕事出来過ぎじゃない?

「残る5件は国交がない地域や、対象者が国からの要請に応じなかったりで、参加が取り付けられていないので・・ここには直接行ってもらう他ないです。」

レイダンさんがリストに5ヶ所、丸をつける。 

「直接交渉してもらう対象がこれです。来週から、トラべリッチさんに行っていただきます。」

「来週!?」

「どうぞ、これが旅程です。船のチケットは先週のうちに頼んでおいたから、できているはずです。このあと総務に取りに行ってください。通訳兼コーディネーターが現地の港で出迎えてくれます。」

「あの!・・俺でいいんですか!?」

レイダンさんが不思議そうに俺を見る。

「シム班長から聞いてないですか?相談したら、是非君にと推されましたよ?」

「え・・でも俺、そんな交渉ごととかあんまやったことなくて」

それに、国外出張なんてエリートの専売特許じゃねーの?

「君が、適任だと、聞いています。」

噛んで含めるように言われて、「そうっすか」と引き下がった。

まぁ、うちの班から誰出すかってなったら、身体が頑丈で何食べても腹壊さなそうな俺になるか。

「あの、質問なんですけど、5人中2人は道場の住所があるから、そこ行けば何とかコンタクト取れるかなって思うんですけど・・他の対象の情報とか、何か手がかりってありますか?」

対象を探して広大な土地をあてもなく彷徨っていたら、いくら時間があっても足りない。

せめて、国の東の方、とか捜索範囲を狭められるような何かがあれば・・

「対象の所在地ですか?あ、大丈夫ですよ?現地のコーディネーターが家まで案内してくれます。」

「家まで?」

「ええ」

「・・・」

剣の達人の家って、そんな観光名所みたいな感じの扱いなの?

俺の困惑を読み取ったのか、レイダンさんが補足する。

「対象者の調査は影に頼んで済ませてるんです。なので場所も特定していて・・」

うわ!影ってホントにいたんだ・・!じゃなくて。

怪訝な顔をした俺に、レイダンさんが苦笑する。

「わかりますよ、見つけた時点で影に参加を打診させれば、トラべリッチさんが行く必要無かったんじゃないかって、普通はそう思いますよね。そのつもりだったんですけど、影が返り討ちにあっちゃって」

ニコニコと、世間話のように話すレイダンさん。

「やっぱりその道の人には警戒されちゃうみたいで曲者扱いですよ。ドレアドまで行った影はいまだに消息不明でね。あ、もし旅の途中で見つけたら、場所教えてもらえますか?」

そんな、旅先のお土産屋教えてみたいなノリで聞いてくる内容じゃないって!

お偉いさんって、やっぱ怖え・・!

「そうだ、レイダンさん。」

「ん?」

「あの、王子殿下がお好きな剣舞は何か、ご存じですか?」

「殿下の?」

レイダンさんが不思議そうな顔をする。

「いや、演目考える時に参考にしたいなって思って。ほら、配置とか、順番とか」

私費までかけて世界の剣舞を上演させるのだ。

殿下はよっぽどの剣舞好きに違いない。

「ああ、殿下のね・・いや、あれは殿下というより・・ククッ」

何やら可笑しそうなレイダンさんは、机の上に広げられた『世界の剣舞~その起源と今昔』のページを再び捲り出した。

「そうですね。殿下は、普段なかなかお目にかかれない剣舞を招聘できたら、きっと一層お喜びになると思いますよ。ほら、これを見てください。ウーシェンロアに・・ドレアド、あとはリュシールデュールにも赤の付箋が付いてる。」

「え?この付箋、もしかして殿下が?」

なんてこった!あの付箋の数!俺よりめっちゃ読み込んでる!

「そう。だから、是非ともその3件は誘致したいですね。期待していますよ、トラべリッチさん。」




総務に寄って船のチケットをもらうと、何と高速船の一等席だった。

6班で手配した時と比べて、スピード感も、もらえるものも段違いなんだが。

王子の特命ってヤバいな・・。

6課6班に戻り、シムさんに旅程表を見せながら報告する。

「来週から、長期出張になりました」

「おう!行ってこい行ってこい!引き継ぎだけよろしくな。あ、それとな・・・」

シムさんが旅程表に何事か書き込んで、俺に返す。

「お前が行く頃にその国でやってる有名な祭りとかイベント書き込んどいた。勉強になるだろ。見れそうなら見てこい」

「シムさん・・」

「世界の剣舞をどんな方法で披露するか、何かアイデアもらってこい。」

「・・はいっ!」


翌週、俺は必要最低限の荷物を持って、高速船に乗り、海を渡った。







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